第52話 二兎追うものは一兎も得ず

スマホの着信やラインの通知がたくさんたまっていた。どこから処理していこうかと考えた。


ビビッと来たものをやろうと、なぜか通販サイトのアプリを開いて、ボロボロになったグレーパーカーを新調をしようとタップしてどれがいいか選んだ。


これを逃したら、ずっと手首のところが

ボロボロのままになる。


だが、値上げのラッシュでさすがの衣服も前と比べて高くなっている。


今の気持ちではこれとすぐに決断できなかった。通販で買うより直接見て買う方がいいかとアプリを閉じて、カラフルなパズルゲームを開いた。今は人気アニメのコラボをしていて、ガチャを引くとお気に入りのキャラクターがゲットできる。


そう、星矢は現実逃避を始めた。


翔太と颯人から連絡を同時にもらって、

どう対処すべきか考えていた。

どちらも星矢にとって大事な人だが、

本当に一緒にいたい人は多分翔太の方。

でも、友達かそれ以上かと考えたときに

どう向き合えばいいかと悩む。


友達と恋人を天秤にかけるのだ。


3人一緒に会ってもいいのか。

いや、でも、それは嫉妬心が出てしまうかも

しれない。


颯人はノーマルラブな人だとしても、

翔太はそうは思っていないかもしれない。

勘違いをさせてしまう。


気持ちが落ち着かなかった。


翔太にはバッティングセンターに行こうと誘われて、颯人にはまた洋服を買いに行こうと誘われていた。


今は、どちらもできるほど体力と気力は残っていない。まったりおうちで映画を観たい気分。


でも、2人はアクティブに行動する。

かと言って断るのは申し訳ない。


貴重な休みの日をどう過ごすかで悩んだ。


返事を忙しいふりして、既読スルーをしていたら、気合いを入れて返事をする頃には、2人とも翔太は急用が入ったと颯人は用事ができちゃったと言われて、結局、1人ぽつんと暇になってしまった。



*****


予定が空っぽになった日曜日

洗濯や掃除の家のことをある程度終わらせて、

気分転換に近所の公園に散歩に行った。


スマホでモンスターをゲットできるゲームにハマっていた星矢は、人目なんかを気にしてる暇はなかった。


Tシャツにデニム生地の羽織ものを着て

わりとラフな格好でスマホ片手に

だだ広い公園に繰り出した。


親子でバドミントンを楽しんでいたり、小さな子供が滑り台やブランコの遊具で楽しんでいた。高齢者の夫婦は小型犬の散歩をしている。


まったりとした昼下がりだ。

ピクニックを楽しめそうだ。



ベンチに座っていると蛍光ピンクの

ビニールボールが転がってきた。


「すいません…。」


小学生だろうか男の子がボールを取りに来た。

遠くでお母さんらしき人と小さな歩きたての女の子がいた。星矢は拾って男の子に渡した。


「はい。どうぞ。」


雲ひとつない空に飛行機雲ができている。

爽やかな吹いていた。


「あれ、星矢くん?」


「……??」


「私、ほら、翔子だよ。」


 子供連れのお母さんが星矢に向かって

 声をかけてきた。風貌がだいぶ変わってどこの誰か気づくまでに時間がかかった。


「え?!もしかして、佐々木翔子先輩?

うわ,懐かしい!!

お子さんめっちゃかっこいいし

可愛いじゃないですか!!」


「あ、うん。

旧姓は佐々木だけど、

今は樋口翔子ひぐちしょうこになったよ。

まぁ…離婚したけど苗字はそのままね。」


「え、そうなんですか。

そんな、小さな子がいるのに…。」


「結婚ってね、色々あんのよ。

ふぅ…。まぁまぁ、私は旦那いない方がうまくいくタイプなのかもしんないわ。」


翔子は、歩きたての女の子をヨイショと抱っこした。ボールを持っていた男の子は翔子の近くに移動する。


「お母さん、この人、誰?」


「あ、ごめん。わからないよね。

お母さんの学生時代のお友達だよ。

後輩っていうの。挨拶して。」


「そうなんだ。こんにちは。

樋口 奏多ひぐち かなたです。」


かぶっていたキャップ帽子をはずしてぺこりと

お辞儀した。


「あ、はい。

こんにちは。

工藤星矢です。お母さんとは

高校生の時にお世話になりました。

立派なお子さんですね。

奏多くん。かっこいい名前。

その女の子はなんていうんですか?」


「そう?ありがとう。

えっと、この子は

樋口 望彩ひぐち のあだよ。

まだ1歳半なんだ。歩くの覚えたばかり。」


「先輩にそっくりですね。

目がぱっちりで、可愛い。

こんにちわ。」


星矢は屈んで挨拶した。

人見知りのようで、

翔子の足にしがみについて離れない。


「ごめんね、人見知りでさ。

お父さんにまでこんな調子なの。」


「え?!それはお父さん悲しみますよね。

かわいそうに。」


「いやいや、ろくに子育てしないあいつが

悪いのよ。ははは…毒舌でごめんね。」


「あ、いや……子育てお疲れ様です。

大変ですね、先輩。

高校生の時から急にいなくなったから

心配していたんですよ。」


子供たちはボール遊びに夢中になり、

2人はベンチに座った。

近くでは子供用の道具で野球をしている子も

いた。


「うん、そうだよね。

みんなには内緒で結婚とか

引っ越しとかしたから。高校生で

妊娠はやばいなって感じだからさ。

ほら、その時の子供が奏多だよ。

もう10歳だから。」


「あー、そういうことなんですね。

人生波瀾万丈じゃないですか。

まぁ、僕も波はありますね、それなりに。」


「まぁね、いろいろあるよ。

星矢くんは?

あれから翔太と会ってるの?」


「うわ、先輩、覚えていたんですか?」


「いやいや、君の話は翔太のことしかないよ。

あれからどうしているかなって心配はしていたんだ。ラブラブ?」


「いや、実は僕も引っ越して

翔太先輩と離れたんですが、

最近東京で再会したんです。

まぁ、いろいろありますね。

ふぅ。」


「ふーん。話したいことは山ほどありそうね。

まぁ、私も東京にいるわけだから、連絡先教えてよ。話聞くよ?」


翔子と星矢はスマホを出して、連絡先を交換した。望彩が、ぐずぐずしていたため、翔子は抱っこしてベビーカーに乗せた。奏多は、滑り台にまた滑りに行って、予想外に遠くに行ってしまう。翔子は帰ろうとしたのにイライラし始める。


「奏多!!そろそろ、帰るよ!!」


「まだ遊ぶーーー。」


「いいから。学校の宿題残ってるでしょう。」


「あ、そうだった。はーーい。」



大きな声で叫ぶ翔子。

星矢はお母さん業しているんだなと

頑張ってる姿を感心していた。


「んじゃ、星矢くん、またね。

休みの日にまた会おう。」


「はい、わかりました。

奏多くん、望彩ちゃんまたね。」


手を振って別れた。


「さようなら。」


丁寧にお辞儀された。

星矢はいい大人が手を振って終わらせてしまうのが申し訳なくなって、真似してお辞儀する。


ベビーカーを押しながら、翔子は奏多とともに遊歩道を進んで行った。


星矢は佇んで、3人の姿を見守っていた。

翔子の家族が見られて何だかほっと安心した。



反対方向に向きを変えて、こどものように

遊歩道に転がる小さな石ころを蹴って、

家路に向かう。


何となく、1人でいることが寂しくなった。


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