第48話 優柔不断な星矢

部屋中に目覚まし時計のアラームが

鳴り響いた。

ハッと目が覚めると、真っ白い天井が見えた。

高熱と戦った颯人の体は汗だらけになっていた。

 びしょびしょになったシャツを洗面所に

向かいながら脱いだ。

フラフラだった体はすっかり良くなっていた。

そのままシャワーでも浴びようかと思ったら、リビングのソファに毛布にくるまって寝ている星矢がいた。


「…なんだ、泊まっていたんだ。」


 長いまつ毛が綺麗に見えた。

 寝息の音が心地よく聞こえる。

 颯人は、じっと星矢の顔を見つめた。

 肌の色が白くて、天使のようだ。

 華奢な体が女子みたいで可愛く見えた。

 

 思わず、額に口付けた。


 腕を動かして、

 額に手を乗せる星矢だったが、

 それでも起きなかった。

 起こすつもりはなかった。

 颯人は慌てて、シャワーを浴びにお風呂場に移動した。


 水の流れる音に星矢は反応した。


 ハッと気づいて、

 ソファでうたた寝をしてしまった。

 朝になってしまってる。

 これで、仕事のサボり癖がついた。

 風邪で休んだと昨日は言っていた。

 今日も風邪が治ってないってことにしようと

 よしと決意したが、くしゃみを一つした。


「これは、本当に風邪ひいたってことか。」


テーブルにあったティッシュで鼻水を拭った。


トイレに用を足してから颯人のいる洗面所に

様子を見た。


「ごめん、颯人。大丈夫になった?」


 シャワーの途中だった颯人は水の流れを止めて、ドアを開けた。


「あ、起こした?」


「ううん。大丈夫。

ちょうど起きたところだから。」


「昨日からごめん。

いろいろ買って来てくれて…。

ありがとうな。」


「いいよ、シャワーの途中でしょう。」

頬を少し赤らめて星矢は言う。


「あ、そうだった。」


慌てて、バタンとドアを閉める。


星矢は恥ずかしさを切り替えて、

台所に行った。

昨日買ってきたおかゆパウチを温めた。


お風呂から上がった颯人からタオルを頭に乗せてやってきた。


「ごはん?

俺が準備すればいいんだけど、

やってもらってたね。」


「ううん。気にしないで。

僕が買ってたものだったから

準備しようと思っただけ。」


「ありがとう。助かるよ。」


 星矢はニコッとはにかんだ。

 颯人は素直に嬉しかった。

 

「体調はどう?」


「うん。おかげさまですっかり熱引いたみたい。」


元気な様子を見せつけた。星矢はクスッと笑う。



「なら、良かった。心配したよ。

咳しながら電話してくるから。」


「あ、別に咳アピールのために電話したわけじゃなくて、忘れ物…これこれ。忘れないうちにやっておくよ。」


ガシャポンで買ったキーホルダーを棚から取り出して、星矢に渡した。


「いつでも良かったのに…。

でも、受け取っておくけど。

ありがとう。」


「言っておかないと俺も忘れちゃうと思って。

せっかくの取ったものが、無くしたら大変だろ。」


「まぁ、颯人と行った思い出でもあるからね。

大切だね、そこは。」


「だろ?

俺との時間はあの時しかなかったからな。

ガシャポンを買うという時間な。

仕事も忙しくなるし…。

あ、あれ、今日平日、

星矢、仕事大丈夫なの?」



「…うん。風邪で休んでることにしたから

平気だよ。」


「え?星矢ってズル休みするタイプ

だったっけ?」


「えー、そうやって攻めてくるタイプ?」



「嘘だよ。ごめんな、迷惑かけたみたいで。」


「いいよ、颯人のこと気になったし。

体調良くなったみたいで安心した。

でも、そろそろ、帰ろうかな。」


星矢は、台所で朝食準備を終えると

帰り支度をした。


「…おう。いろいろ本当に助かった。

ありがとうな。」


「ううん。大丈夫。

何かあったら、遠慮なく呼んでよ。

できる限りのことはするから。」


「そんな、申し訳ないって。

星矢もゆっくり休んで。

俺の風邪うつってないといいけど。」


「うん。大丈夫。

むしろ会社休みたかったし。

んじゃ。また。」


「う、うん。んじゃ、また。」


颯人は手を振って別れを告げる。

星矢は、靴を履いて、玄関のドアを開けた。



どうして、颯人のこと気になったんだろうと

事が済んでから思い返す。

翔太からの連絡が全くないことも心配だった。


優柔不断な自分に苛立ちを覚える。


本当は翔太との時間大事にしたかったはず。

でも、颯人との関係も大事にしたいと少しは思っていたかもしれない。



心のどこかで颯人は、

キープとして思っているのかもしれないと考えてしまった。



星矢は道端に落ちている石ころを蹴飛ばして、家路に向かった。



電線ではカラスがカァと鳴いていた。





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