第40話 寝言の彼女

メンズファッションのショップが

たくさん入ったビルに行くことにした

星矢と颯人は、人混みをかき分けて、

自動ドアの前に立った。


「うわ、反応しない。なんで?」


「そういう時あるよね。

僕も行ってみるよ。」


「え、なんでひょろっとした星矢の方が

反応すんだよ。

俺、そんなに存在感なかったのかな?」


「いやいや、そんなことはないよ。

たまたまだよ。」


颯人は、高校の時、

翔太と一緒で陽キャラだった。

男女関係なく友達がわんさか集まるタイプだ。

そんな颯人が存在感を気にするなんて

信じられなかった。

たかが、自動ドアが一瞬開かないだけで

そう思うのか。

元々は陰キャラの星矢は自動ドアが開かないということはなかなか遭遇しない。

これは陽キャラか陰キャラの

占いかなにかなのか。まさかなぁと思いながら中に進む。


「気にしすぎだって。

颯人がそんなこと気にするなんて

思わなかった。

いつもキャラ目立ちしてたから。」


「はぁ?気にするよぉ。

あのなぁ、自然にできるほど

俺は器用じゃないって?

元気なキャラ、

みんなから愛されキャラ作るのだって、

演じてるに決まってるって。

見たことない?

お笑い芸人は、

舞台とかテレビとかは陽気だけど、

家帰ると全然話さないとか。」


「…僕、お笑いあまり興味ないから

わからないけど、大変なんだね。

僕はいつもこんな感じだからさ。」


「そのずっとそのキャラで居続けるのも

すごいなって思うよ。そうなりたいけどさ。

俺ってフラットにできないから

平坦っていうのは。」


「そっか。というか、

自動ドアからすごい深堀したね。

さすが颯人だよ。

僕はそんなこと思い付かない。」


褒められていることに

嬉しく感じた颯人はまんざらでもない様子で

店の奥の方に入っていく。


(颯人って、意外と

素直に受け入れる方だったのか。)


颯人の後ろを着いていくと、

突然、颯人の足が止まる。

ぼふっと背中に星矢の顔が当たった。


「颯人、急に止まらないで。」


「…ごめん。」


 通路を歩くとある女性を見て、

 足が止まっていた。ぼーと佇んでいる。

 厚化粧で厚底ヒール。

 生足をかなり出して履いた

 ホットパンツが気になった。

 目にはボリュームのあるつけまつげがある。

 甲高い声で意味もなく笑っている。

 彼女の隣には背の高いサングラスをつけた

 背の高い男がいる。


「颯人…知り合い?」


気になった星矢は思わず声をかける。

颯人が話す前にふとその女性がこちらに

気づいた。


「あれぇ、颯人じゃねぇ?

ここで何してんの?

まさか、その人彼氏とか言わないよねぇ。

キモいんですけどぉ。キャハハ。」


会って早々、人差し指をさして

胸にグサグサをえぐる言葉を浴びせてくる。

下唇を噛んでぐっと耐えた。

颯人の左太ももでは、握り拳を作っていた。


「…颯人。」


 星矢がそっと、颯人の顔を伺うが、

怒りが込み上げているようでなんとも

言えない表情になった。


「何、そいつ。のなんだよ。」


隣にいた男性が颯人を見て、イラついていた。


「あ、その人?

知らない人ぉ。声掛けない方いいよ。

気持ち悪いから。」


「は?何言ってるんだよ。

知ってるから気持ち悪いってわかるんだろ。

まさか、元カレとかじゃねぇよな。」


「…な、違うし。

いいから、気にしないでいこう。

私には関係ないんだから。」


美咲という女性は隣の男性の腕をしっかりと

つかんで立ち去っていく。

颯人はずっと、黙って何でもないようにしていた。その様子を見て、星矢は辛そうだなと感じた。寝言で美咲という名前を言っていたことを思い出す。何か関係あるのだろうと察する。


「颯人、大丈夫?」


「あ、ああ! ごめん。

平気、平気。ちょっとね。

ほら、行こう。

服見に行かないと。」


颯人は,隠したい様子で誤魔化した。

星矢は複雑な顔をして、颯人とともに

メンズファッションの店の服を物色し始めた。


 

 

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