第37話 友情のあたたかな絆

感動的に再会を得たかと思ったら、

突然の来訪者に驚きを隠せなかった星矢は、

翔太の恋人だと判断し、心中穏やかに

過ごすのは難しかった。


ほんの数時間、一緒に時を過ごした翔太との

空間は本当に居心地がいいと思っていた。


もう、ここに来ちゃいけない気がした。


ラインで心の隙間を埋めるように

東京の高校の頃からの付き合いがある人に

メッセージを送った。


『今から行ってもいいかな?』


『おう。ちょうど仕事から帰ってきたところ。

久しぶりに一緒にお酒飲もう!』


 大学の卒業以来の連絡だった。

 突然の連絡にも関わらず、

 すぐに対応してくれる彼に

 ものすごく嬉しかった。


 星矢のアパートから

 20分歩いたところにあった。

 望月 颯人もちづき はやと

 星矢の高校時代から大学までを

 一緒に過ごしたパピオンみたいに

 人懐っこい男だ。


 インターフォンを押して、すぐに

 ドアが開いた。


「久しぶり!ほらほら中入って。」


「あ、うん。お邪魔します。」


星矢は近所のコンビニで適当にお酒やおつまみなど食べるものを買ってきた。

時刻は正午を過ぎたところ。


「颯人、昨日、夜勤だった?

ごめんね。突然で。」


「ううん。平気。

久々だし、星矢が来ると元気になるよ。

そのまま寝ても文句言わないでしょう。

気使わないからさ。

気にしないで上がってよ。」


ラフな格好の颯人にすぐに反応する星矢は

申し訳ない気持ちになった。

颯人は断ることをしない優しいやつだった。

どんな時間でもいいよと言ってくれる。


「そう?

本当ごめんね。寝てもいいから。

僕も一緒に昼寝するし。」


「星矢、別に眠くないなら寝なくてもいいぞ。」


にかっと歯を見せて笑う。

星矢はそれにつられて笑ってしまう。

いつも元気をくれる颯人だった。


 「突然、連絡だったからさ。

 超、久しぶりじゃない?

 何かあった?

 怪しい勧誘とかじゃないよね?」


 颯人は冷蔵庫を開けて

 テーブルに次々と食べ物と飲み物を

 準備する。

 前もって買っていたビールや酎ハイが

 あったようだ。

 おつまみにもなる温めてすぐ食べられる

 チルドパックのもつ煮込みもあった。


「全然そんなじゃないよ。

颯人、元気かなと思って。

大学卒業して、仕事決まった時に

飲んだ以来だよね。会ったのって。

2年ぶりかな。」


「そうだったかな。もっと会ってなかったっけ?

あ、ラインで電話したくらいか。」


「うん、そうかもしんないね。」


「星矢はおとなしい性格だもんな。

職場でやなことあっても黙ってそうだもんな。」


「…そこまで僕のこと見えるの?

まったくその通りだけど。

颯人は、すぐ訴えるタイプでしょう。」


「もちろん。星矢は見えるんだよ。

顔にそう書いてある。

今日だって、何かあったからだろ。」


ポーカーフェイスが苦手な星矢だ。

颯人は見透かしている。

あくびをして、缶ビールのプルタブを開ける。

眠そうになっている颯人を見て、

前髪で顔を隠した。


「颯人、ごめんね。」


「ほら、すぐそうやって謝る。

わるいくせだな。」


指でつんと額を押す。


「ご、ごめん。

……あ。」


「また謝る。

でもまぁ、そういう星矢も悪くない。

俺は、嫌いじゃないよ、星矢のこと。」


颯人はぐびっとビールを飲んで、

温めたばかりの冷凍枝豆をつまんだ。


「何、恋煩い?」


「……え?

まぁ、そんな感じかな。」


「星矢もそんなふうになるんだね。

どんな彼女?」


颯人には恋愛対象が男性だとは気付かれていない。女性ということで話を進めようとした。


「うーんとスポーツ万能で、料理上手。

整理整頓もできる人。

僕より頭良いかな、たぶん。」


「年上好き?

いいね。引っ張ってほしいんだよな。

星矢はそんなタイプだ。」


「颯人はどういう人が好みなの?」


 星矢はテーブルにあった

 ポテチをつまみながら聞く。


「……そうだなぁ。

俺よりかわいいやつかな。

あと、優しいところとか。

うーん。外見とかは気にしないけど…。

気持ちが通じ合えばなんでも?」


「颯人よりかわいいやつって…

大体の人があてはまるじゃないの?」


「…ん?ちょっと待て。

俺がブサイクってこと?」


「あ、ごめん。失言だった。

そういうことじゃないけど、

女性ならば、広範囲かなって。」


「ま、俺がブサイクだとしても、

大体の人が言い寄ってくるからな。

へへん。」

指で鼻をこする。


「えーー、モテ自慢?

それは聞きたくなかったな。」


「いいだろう。かっこよさより気持ちさ。

心をつかめば誰だって寄ってくる。」


「新手の宗教とか

化粧品の勧誘とかじゃないよね?

僕騙されてない?」


 星矢は颯人の発言にひやひやとした。


「は?そんなわけないって。

愛だよ、愛。

おれは許容範囲広いんだぞ。」


「そっか。颯人は優しいもんね。

確かに。僕みたいな人でも

受け入れてくれるから。」


「ん?俺、星矢も許容範囲に入ってるよ?」


「え、え?!どういうこと。」


「嘘ぉ。真面目にとるなよ。」


「な、なんだ。びっくりした。」


 星矢は飲んでいた缶チューハイを

 こぼしそうになる。

 さきいかをつまんだ。


「…あー、やばい。

 睡魔が。

 わるい、寝るわ。

 自由に過ごしていいから。」


 突然の睡魔に耐えられなくなった颯人は

 ソファに寝転び、左腕を額に乗せて、

 いびきをかいて寝始めた。

 一瞬の出来事だった。

 寝入るのが早いようだ。


 星矢は、近くにあった毛布を

 上からかけてあげた。


 夜勤明けの颯人に申し訳なく思う。

 それでも嫌と言わずに対応してくれて

 感謝しかない。

 

 テーブルに残ったつまみをチビチビと

 食べながら、いつの間にか星矢も

 眠っていた。

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