第27話 音楽室の窓から響く音色
「もう、星矢くんったら、
楽譜落とすんだから。」
翔子は昇降口前にいたが、
風に吹かれて地面に落ちてきた
星矢の楽譜を拾って、音楽室に行く。
「翔子、頼んだぞ。」
翔太は1人花壇に座って、待っていた。
「あ、残っていたのか。」
翔子は音楽室に着いて、体が固まった。
顧問兼彼氏である佐々木先生が
教壇に立っていた。
「な、なんでこんなところに。」
「先輩、先生がさっき来てたんですよ。
教えるタイミングがなかったです。
一瞬だったので…。」
「お、おう。ごめんな。
邪魔したかな。
なぁ、翔子。」
「ちょ、ちょっと先生。
その呼び方やめて。」
「……。」
星矢は動揺する翔子を眺めていたくて
静かに見ていた。
「ちょっと黙ってみてないで。」
「随分仲がいいようだなぁ。
工藤と。」
「……仲良いって
一緒にお昼食べたりする仲だよ。
てか、やめて、何も言わないで!」
星矢はニヤニヤしながら、
翔子と先生を見つめる。
「あ、どうぞ。
お気にせず続けてください。
僕はフルートを吹いているんで…。」
「…翔子、工藤は何か知ってるの?」
「ううん。何も全然知らないわよ。」
翔子の目がものすごく泳いでいる。
それさえも気にせずに星矢は
フルートを吹き始めた。
思い出し笑いして、吹き出した。
笑いがとまらない。
笑いを必死で止めるために震えが
小刻みになる。
「星矢くん、普通に
普通に笑って…。
ちょっとその動きは良くないと思う。」
翔子までもが笑いそうになる。
「そろそろ、帰らないのか?」
「あ、ごめん、亮ちゃん。
今から星矢くんの演奏会だから
聴いてあげて。」
無意識に名前で呼んでしまっていた。
その言葉に星矢はさらに笑いが
とまらない。震え続けている。
「あーーー、もう。
翔太も待ってるから。
星矢くん、私たちも下に行くから
しっかり演奏してね。」
翔子は、佐々木先生の腕をつかんで、
翔太が待つ昇降口前の花壇に向かった。
「お、先生。お疲れ様です。
先生も演奏会参加ですか?」
「うん、なんかそうみたい。
強制的に連れてこられた。」
「そう言う言い方良くないよ。
ほら、星矢くん。演奏始めてください!」
翔子は、星矢に手を振って合図した。
星矢は深呼吸して、
フルートを吹き始めた。
いつも吹き慣れている
モーツァルトの『フィガロの結婚』を
吹いた。何度も吹いてるせいか
慣れてきて聴き心地も良くなっていた。
観客は3人。
みんな星矢のフルートの音色に
夢中になっていた。
真っ暗になってきた夜空には
煌めく星と満月があった。
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