第13話 共に奏でる、絆の旋律

野球部の地区大会の試合が終わっての

翌日の昼休み


いつものように

星矢は、吹奏楽部の部長の翔子、

野球部のキャプテンの翔太とともに

中庭のテーブルで昼食をとっていた。


「昨日の試合頑張っていたよね。」


 お弁当に入っていたナポリタンを

 食べながら言う翔子は、

 口の周りにケチャップをつける。


「ああ、まぁな。

 翔子、口にケチャップついてるぞ。」


 翔太は何気ないこともよく気がつく。

 すぐにバックの中から

 ポケットティッシュを渡した。


「ああ、ありがとう。

 ついつい、美味しくて気づかなかった。

 翔太がティッシュ持ってるなんて

 意外だわ。星矢くんの方が女子力

 高いのよ?」


「え?」


 星矢はその発言にびっくりした。


「ね。

 ティッシュ、ハンカチはもちろん

 持っているし、絆創膏、

 ソーイングセットも

 バックに入れてるもんね。」


「ああ、まぁ。

 母がそういうのうるさくて、

 いつも入れてますけど、

 女子ではないです。」


「知ってるよぉ。

 きちんとしてるのをそう表現するの。

 気にした?ごめんね。」


 翔子は星矢の肩をバシッとたたいた。


「そうなんだ。

 しっかりしてるんだな。」


 テーブルの上、腕の中に顔をうずめて

 翔太は星矢を横から見る。

 なぜか翔太の顔がキラキラして見える。

 褒められたからか、頬を赤らめた。


「おっとぉ〜、

 そろそろ私は退散しようかな。 

 んじゃ、また部活でね。」


 翔子は、2人の様子に

 邪魔してはいけないだろうと、

 ハンカチに包まれたお弁当を持って

 その場から離れようとした。


「あ、ちょっと待って。

 昨日の試合で気になってたことが

 あって…。」

 

 翔太は、立ち去ろうとする翔子の肩に

 触れて、戻るよう促した。 


「え?それ、私も関係するの?

 星矢くんに聞けばいいんじゃない?」


「2人に聞きたいんだよ。」


「あ、そう。」


 複雑な顔を浮かべて、ベンチに座る翔子。

 改めて、3人が顔を合わせる。


 昨日の地区大会試合では、

 キャプテンである翔太が先発ピッチャーを

 つとめたが、途中ランナーを増やしたことにより、クローザーに交代した。それにより、さよならホームランに持っていくことができた。でも、その先発としてピッチャーをしたことで試合に負けそうになったと不安で仕方なかった。


「もっと早い段階で交代した方

 良かったのかな。

 投球数が増えたこともあるし、

 体力がなくなってきたことで

 コントロールが効かなくなったんだよ。

 俺がミスしなければ、

 早く点数を取れたんじゃないかって

 後悔してるんだ。」


「翔太は、そんなことで悩んでるの。

 私は結果オーライだと思うわ。」


「すいません、先輩。

 僕も翔子先輩に同感します。」


「……考えすぎってことか。」


「そもそもさ、勝てたのは

 クローザーをした後輩だからって

 思ったから悔しいんじゃないの?」


 その言葉に星矢も頷く。


「野球てさ、9回まであって、

 その回数ごとにドラマがあるんだよ。

 最後の人がやったからその人の勝利、

 手柄とかじゃないんだなぁ。

 翔太が投げた分も勝利に繋がってるの。

 無駄なことはないと思う。

 自信持ってよ。

 途中、負けそうになったかも

 しれないけど、監督の匙加減で、

 軌道修正したわけだから、

 結果よかったじゃん。

 そのまま翔太がピッチャーやってたら

 負けてたよ。

 助けられたって思ったら

 ラッキーじゃん。」


「えーーー、

 負けてるって言ってるじゃん。」


「先輩、意外とナイーブなんですね。」

 

 星矢はボソッと言う。


「翔太は過大評価しすぎよ。

 いつでも自分が100%出せると思うの?

 野球はチームワークだよ。

 お互いに誰かに助けられて

 勝利を勝ち取るんだよ。 

 人間1人じゃ生きられないって

 野球で教えてくれてんじゃん。」


 翔子はコンコンと納得させた。

 翔太は聞いてると、何だか大丈夫なんじゃないかと思えてきた。

 

「おー、そうか。

 俺は、自分に厳しいのか。」


「何でもかんでも1人じゃないよ。

 生まれた時から親子で2人で

 出産がんばるんだよ。

 それが1人でできると思うの?」


「ん?翔子は俺の母さんだったか?」


「んなわけないでしょう。

 これは、私のお母さんの受け売りよ。

 そう教えてくれた。」


「だよな。わかっているけど、

 母さんに見えてきた。」


「先輩、僕も翔子先輩がお母さんに

 見えます。」


「崇めたまえ〜。」


 お釈迦さまのような格好になる翔子に

 ハハーと土下座しようとしたが、慌てて

 体勢をもどす。


「冗談やめてよ。

 私は仏さまでもなければ観音さまでも

 ないわ。

 普通の高校3年の女子だよ。」


「……いい親御さんだな。

 きちんと教えてくれて。」


 翔太は、感心した。

 星矢も同様に何度も頷いた。


「まぁまぁ。

 人生平坦なことばかりじゃないし、

 むしろ失敗の方が多いっていうしね。

 明るく前向きに生きた方が

 楽しいでしょう。

 んじゃ、そろそろいくわ。今度こそ。」


 翔子は話が終わったと思うと

 颯爽と立ち去って行った。


 星矢は、翔子の発言に感動した。


「僕も前向きに生きようかな。」


 その言葉を聞いて、

 じっと、黙って星矢の顔を見る翔太。


「ん?何かついてます?」


「俺はいい友達を持ったよ。

 幸せだ。

 あ、星矢の場合は友達以上だけどな。」


 歯をにかっとさせて、さわやかな笑顔を

 見せた。顔の周りにキラキラとした

 星が見えそうだ。


 星矢は、翔太の言葉にドキドキして、

 顔を赤くして下を向いた。


「今日の帰りもフルート吹いて。

 下で聞いてるから。」


「え?」


「んー、モーツァルトでいいよ。」


「えー、練習したことないですって。」


「まぁまぁ、試しにね。」


 翔太は立ち上がって、

 お弁当を持ち上げる。


 立ち去ろうとする翔太を追いかけた。

 

 学校に来るのが楽しみになったのは、

 翔太と翔子のおかげかもしれない。



 同じ同級生がいる教室で

 話す友達がいなくても、

 毎日がウキウキしていた。

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