第24話 想定外
アイスを食べた直後だからだろうか。渚の唇は、前回キスした時よりも少しだけ湿っていた。
唇が離れた瞬間、渚がいたずらっぽく笑う。
「また、しちゃったね」
「……うん」
「じゃあまた明日ね、桃華」
そう言うと、渚は駆け足で去ってしまった。いつもなら、まだ分かれる場所じゃないのに。
きっと、渚も動揺しているのだろう。幼馴染だから、それくらいのことは分かる。
なんで渚、キスできるかなんて聞いたの?
なんで、女の子に興奮するかなんて聞いたの?
未だに状況を上手く整理できない。渚はどう思っているのだろう。
「……渚は、女の子に興奮するの?」
胸を触らせ、キスをねだり、渚は自分が何をしているか自覚しているのだろうか。
それともこれも、親友としての独占欲の延長線上にある行為のつもりなのだろうか?
渚が分からない。私は、渚のことをよく知っているはずなのに。それなのに、こんな渚のことは知らない。
♡
なんとか家に帰りついた私は、すぐにシャワーを浴びた。頭が回らず、何も考えられそうになかったからだ。
風呂場から出て、パジャマでベッドに飛び込む。目を閉じればすぐ、先程のできごとを思い出してしまう。
明日、どんな顔で渚に会えばいいの?
今度こそ、渚を自分のものにする。友達じゃなくて、渚の恋人になる。
そう決めた人生だ。でも、こんな風に進むとは思っていなかった。
渚を嫉妬させ、私への好意を自覚させる。そしてそれを恋愛的なものだと認識させ、付き合う。
キスやそれ以上のことは、その後だと思っていた。
私、ずっと渚のことが好きだから、恋愛経験なんてゼロだし……。
こんな状況は想定していなかったから、困ってしまう。
雰囲気に任せてもっと渚に触れれば、私は渚の恋人になれる?
それとも、こんな風に曖昧なまま、これ以上進めてしまうのはまずい?
はあ、と溜息を吐いて枕に顔をうずめる。
渚の頭の中を覗けたらいいのに。
「でも、少なくとも、渚は私とキスができて、少しの接触なら嫌がってないってことよね」
渚の本心は分からないが、その点に関しては安心していいはずだ。
ぴこっ、とスマホが鳴った。慌てて確認すると、渚からのメッセージが届いている。
『英語の課題って、何ページだったっけ?』
それだけだ。今日のことにはいっさい触れられていない。
こんなに気にしてるの、私だけってこと?
渚はどう思ってるの? とすぐに聞いてしまいたい。でも、どうすればいいのかが分からない。
「はあ……」
23ページから27ページ、と渚に返事を送る。すぐに、ありがとう、と返ってきた。
私も課題しなきゃ。
教材を広げ、シャーペンを握る。硬いシャーペンを握っているのに、思い出すのは渚のことばかりだ。
渚の胸、柔らかかったな。
集中なんて、できるわけない。
もう一度溜息を吐いて、私は机に突っ伏した。
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