第80話 ついに、樹と…… 試験前日

 秋沢美香に相談した翌日、白岩いつきと久々の面会ができる日がやってきた。いい天気だ。青空がりんを応援しているかの様だ。宮島凛は全身びしっと勝負服で決めてJPC(Japan Particle Control)に乗り込んだ。


 一つ、凛が気がかりな事がある。いつもは応援してくれる坂井あおが今日に限って、付き添えないと言うのだ。こんな重要な時に! 凛は単身で乗り込んできた。


 JPCの建物の外では明日の試験に向けて既にマスコミがカメラを持ち込み、正面玄関の周りで中継を始めていた。見学者の数も徐々に増えている。


 JPCは遠く太平洋上の実験の様子をライブ中継で見学者に公開する予定だ。マスコミの中継放送が行われる。


「TVをご覧の皆さん、いよいよ明日世紀の実証試験がJPCによって行われます。異常時の安全性を確認する最後の評価試験です。これがクリアできれば、世界で初めて粒子分裂を製品化する事ができます。二か月前エルシントの実証実験では大きなトラブルが発生しましたが、それを解決したのが皆さんご存じ、JPCの開発リーダー風間里穂さんです。とても期待が高まります。」


 しかし局によってはネガティブなアナウンスも聞かれた。


「風間氏は二週間ほど前に粒子分裂のリスクに関する論文を発表しました。専門家によると、その論文に記載された内容に比べ、この三次試験の基準は少し甘いものになっているそうです。従って、国内外の反対派はこの評価試験そのものに反対の姿勢を取っています。またアルシントの試験失敗の例があるので、類似のJPCの分裂制御方式にはやはりリスクがあるという声も聞かれます。なお、反対派のデモは取り締まられており、今回は実行できません」


 まだ前日なのに、報道は早くもヒートアップしてきている。



 ◇ ◇ ◇



 凛は会社の二階にある会議室に案内された。窓からはブラインド越しに報道陣の姿が見える。ベランダに出れば、いいスピーチができそうだ。


 しばらく待たされた後、樹が一人でやってきた。久しぶりに見る樹はやや生気が薄くなったような気もするが、見かけは以前と変わらない様に思えた。


「やあ凛、久し振り」


 樹の声だ。

 懐かしい樹の声だった。


「本当に久し振り。前回四月だから五か月も経ったね」


「すまない。でも忙しいのも明日までだ。これからはもう少し余裕ができるよ」


「いいよ、今日は最後のお願いに来たの。覚悟はいい?」


「え? ああいいよ。少し怖いなあ」


 受け答えは依然と変わらない? 

 でも「少し怖いなあ」って言い方、樹らしくないような……

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