世界の兵法 大辞典（一般書架）

古代エジプトの兵法の概要

　古代エジプトの兵法は、その長い歴史を通じて、地中海地域および近東の軍事思想に大きな影響を与えました。紀元前5000年頃から存在したエジプト文明は、独自の軍事技術、戦略、および戦術を発展させ、ナイル川流域の豊かな土地を守り、時には拡大するためにこれらを用いました。

1. 兵法の基礎

　エジプトの兵法は、主にナイル川とその周辺地域の地理的特性に基づいて形成されました。ナイル川は、交通の要所であり、軍事作戦のための重要な経路となりました。また、砂漠地帯は、エジプトを侵略者から自然に守る要塞の役割を果たし、特有の戦術を必要としました。

2. 戦術と戦略

　エジプトの軍事戦略は、防御的な性質が強かったものの、拡張主義の時代には攻撃的な戦術も採用されました。古代エジプトの戦術の中核は、歩兵、弓兵、そして後の時代には戦車が構成しました。これらは、大規模な軍隊の編成とともに、統合された戦闘システムを形成していました。

3. 武器と装備

　エジプトの兵士たちは、木製の盾、銅製または石製の剣、槍、そして特に弓矢を使用しました。戦車の導入は、新王国時代にエジプトの戦術に革命をもたらし、より機動性の高い戦闘を可能にしました。

4. 軍事組織

　初期のエジプトでは、地方領主の私兵が主力でしたが、中王国時代以降は、より組織化された常備軍が形成されました。ファラオは最高指揮官として、戦争の政治的および宗教的な側面を統括しました。

5. 文化的・宗教的側面

　エジプト人は戦争を、神々の意志を実現するための手段と捉えていました。勝利は神の加護によるものとされ、ファラオは神格化された存在として、戦争を通じてその権威を示しました。

6. 歴史的影響

　古代エジプトの兵法は、後の地中海世界や中東地域の軍事戦略に深い影響を与えました。エジプトの軍事技術、特に戦車戦術や要塞建築の技術は、周辺地域に広まり、後世の兵法に影響を与えたのです。

【主な時代区分と歴史的背景】

1. 原始・先王朝時代（紀元前5000年頃 - 紀元前3000年頃）

　特徴: エジプト文明の始まりで、小規模な部族社会が主流。

　兵法の発展: 初期の衝突は主に土地と水資源を巡るもので、簡素な武器と戦術が使用されました。

2. 古王国時代（紀元前2686年 - 紀元前2181年）

　特徴: 統一された中央政府が形成され、ファラオが絶対的な権力を持つ。

　兵法の発展: 初の常備軍が形成され始め、防衛的な戦略が主流でした。また、この時代には主に内部の秩序維持が重視されました。

3. 中王国時代（紀元前2055年 - 紀元前1650年）

　特徴: 政治的安定期であり、経済的・文化的にも発展。

　兵法の発展: 軍事組織が強化され、近隣地域への遠征が行われました。また、弓兵と戦車が初めて登場し、兵法に多様性が生まれ始めます。

4. 新王国時代（紀元前1550年 - 紀元前1070年）

　特徴: エジプトは最大の領土を支配し、帝国時代とも呼ばれる。

　兵法の発展: 戦車が重要な役割を果たし、より積極的な外征が行われました。この時代のエジプトは、地中海地域における軍事大国となります。

5. 後期王国時代（紀元前664年 - 紀元前332年）

　特徴: 外国勢力の影響が増し、時には外国による支配を受ける。

　兵法の発展: 外国の技術と戦術の導入により、エジプトの兵法に多様性が生まれます。特に、ペルシャや後にはギリシャの影響が顕著です。