第二部 第四十七話 果てしない空
マイルスはI-95をワシントンDCに向かって南に走っていた。マンハッタンからリンカーントンネルを抜けるとそこはニュージャージーになる。渋滞は大体ここまででワシントンDCまで数軒の寄り道を経て6〜7時間の道のりだろうか?
音楽をガンガン鳴らしてもいいし、黙ってひたすらに運転する、それもいい。渋滞する場所は決まっている。ボルチモアを抜ける時とDCに入る時だ。この路線で雨の日の思い出はない。曇っていても風は乾いている。
これはマイルスが見つけた鮮魚の配送だった。週に2度ワシントンDCとボストンに行く。それで他の時間は音楽に充てられる。音楽機材にもお金がかかるので助かる。
マイルスはこの仕事のため運転免許を取った。ニューヨーク市では試験を受けるのにかなりの日にち待つので郊外のCatskillに行って筆記試験を受けた。行くと受験者はオレ一人で、辞書を使っていいか尋ねると、軽く「構わないよ」と返された。採点はその場で目の前で行い合格だった。路上試験は試験場まで自分で車を運転していく。そこで試験官が乗り込んで実際に街を走る。かなり日本と違う。縦列駐車があり上手くいくと合格だ。
日本と違ってこの路線上には山はほとんどない。小高いところはあるが日本のように山と呼べるようなものはない。東京に似て関東平野に似てほぼ平といっていい。
マイルスはこの広大な平野がかつてインディアンのものだったのだと思った。インディアンの名前すらインドに到着したと勘違いしたコロンブスから付けられたものだ。
しかしそんな事とは関係なしにマイルスはこの邪魔されない時間を楽しんでいた。マイルスの頭の中で音楽が鳴る。ベースがうねり、ギターが刻む。マイルスのラッパがその中を飛び交って、ドラムが唸る。ここでは音楽はマイルスの思い通りで自由になるが、それを再現できる仲間が欲しい。
かつてマイルスには仲間がいたが、たぶん同じ方向を向いていなかった。日本でアメリカに来て彼らと何かを作り出せるチャンスがあったのに、何故かみんな尻込みをした。「Chicken!」そう言いたい。
正ちゃんがそうだった。良いピアニストがいると聞いて出かけたのは佐賀のクラブだった。マイルスは一発で彼のプレイが気に入ってしまった。自分のバンドに引き込もうと彼のアパートまで訪ねた。マイルスに押されたのか彼はバンドに参加した。しかしその箱(店の事)は上手く行かず山ちゃんは地元に帰った。
その後正ちゃんとは彼の地元で再会した。
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