第二十九話 大きな声で歌わない魔法

「『大きな声で歌わない』練習をしていますか?これは声を張り上げる時に入る力を削いで、正確に歌う楽しみを増やします」マイルスは続ける。

「お風呂に入っている時歌う声は、身体にかかる何10キロの水圧にもかかわらず、良く聞こえますが、これは気持ちがリラックスしているからで、決してエコーがかかるからではありません。エコーならカラオケの方がたっぷりです」

 リラックスは歌う時には忘れてならない形だ。

「リラックスして力が抜けると歌声は通る良い声になり、良く響きます。また音程も気にしないので、反って音程が良くなるのです。このリラックスした声は、聴き手にも良い印象を与え、歌の世界に没頭しやすくなります」

 マイルスは音楽の事を「おんらく」と読ませる。音は楽にという意味だ。

「一度ボリュームを変えて録音してみてください。比べてみると、力を抜いた声の響きの良さが理解できると思います。大きな声が良ければ、歌にピアノの部分はない事になります。ピアノからフォルテまでを歌いきる、これが正しい歌い方です」

 なるほど…

「歌おうとしない事が大切なのです。声を出そう、高い音を出そう、上手く歌ってやろう、巧いと言われたい、こんな歌い方はだめです」

 結果を先にもとめちゃいけないんだね…

「正しい歌い方を一度見につけてから、太くなった気持ちで歌えば、迫力のある声に、すぐかわります。部屋に響く声でなく心に響く声を、これを『大きな声で歌わない』と言います」

「大きな声で歌わない」は太い声を作る秘訣なんだ…

「人の話が聞きにくい時、手を耳に当てますよね。自分の声が聞きにくい時も、同じ事をします。すると、案外自分の声が聞こえる事に気がつきます」「耳の構造は、自分の声はあまり聞こえなくなっているのです」

 手を耳に当てて歌ってみると、案外ボリュームがある。聞こえないからと、ボリュームを上げるのは間違いだった。

 自分の声が聞こえていないと思うのは、自分の言っていることが、自分で分からない様なものである。

 今日のレッスンも、普段のいろんな事に通じる気がして、ますます深いと思う大輔だった。

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