第24話 怪しい占いの館

 次の日、アドリアン王子の誘いで、帰りに町に立ち寄ることになった。ようするに放課後デートだ。今日は生徒会の仕事もなくて、早くに帰れるんですって。


 アドリアン王子と私は既に婚約もしているし、護衛つきで町に出ることに、お父さまからの異論は出なかった。


 町に立ち寄って、アクセサリーの店に案内される。アドリアン王子のオススメの店らしい。王族がオススメと言うだけあって、とっても豪華で足を踏み入れるだけで緊張する。


「この女性に見合う宝石をだしてくれ。

 指輪に出来るサイズがいい。」

「かしこまりました。」


 店に入るなり、アドリアン王子が店主に宝石を注文した。戸惑う私に、アドリアン王子は優しい笑顔を向けてくれる。


「へ、指輪ですか!?」

「あぁ、婚約指輪にちょうどいいだろう。」

「えっ? 」


「まだ婚約指輪を購入していなかったと思ってね。そろそろ購入すべきだ。」

「そんなっ!悪いです! 」


「婚約の記念だと思ってくれたらいいよ。

 ほら、これなんてどうかな? 」

 店の人が恭しく持って来た中で手に取ったのは、見事な緑色の宝石がついた指輪だ。


 細やかな細工がされて、ペリドットがとても美しいプラチナの台に乗っていて、アドリアン王子の目と髪の毛の色だ……と思った。


「そ、そんな高価そうなもの、私とてもいただけません!」

「遠慮はいらないよ。

 それに君のための宝石なのだからね。」


 甘い微笑みで私の手を取り、指輪をすっとはめてくるアドリアン王子に、思わず頬が熱くなる。私の指の上で輝く、アドリアン王子の目と髪の色の指輪は、まるでアドリアン王子の独占欲を示しているのようだった。


「私のはこれがいいかな。」

 そう言って、アクアマリンがついた、純金の指輪を手に取り、私の手に渡してくる。

 私の目と髪の毛の色の指輪だった。


「はめてもらっても?」

「は、はひっ!」

 私は恐る恐る、アドリアン王子の手を取ると、その指に指輪をはめた。


 なんだか結婚式のようでドキドキする。

「少し緩いかな、調節してくれ。」

「かしこまりました。」


 指輪の調節をお願いし、支払いは王宮に請求するよう告げると、私の手を取って、可愛らしいオープンカフェへと案内してくれた。


 ケーキのデコレーションが見事で、食べるのがもったいないくらいに可愛らしい。

 外のテーブルで美味しくいただく。


「アドリアン王子が、こんな店をご存知だったとは意外です。」

「クラスの女生徒に聞いたんだ。

 その……君を喜ばせたくてね。」


 少し恥ずかしそうに目線をそらすアドリアン王子が、なんだかとても可愛らしい。

 私の為に、一生懸命調べてくれたんだ。

 嬉しくて思わず笑みがこぼれる。


 その時、ひんやりとした風が、小さな水滴を頬に運んできた。思わず振り返ると、噴水広場の噴水が吹き出して、その水滴が風に飛ばされて来たようだった。


 アドリアン王子がじっと噴水のほうを見つめている。噴水がそんなに珍しいのかしら?

「あんなところに、あんなものがあっただろうか?君は気付いていたかい?」


 そう言われてよくよく見ると、噴水の後ろに、黒紫色の天幕に覆われた小屋が立っていた。確かにまったく気付かなかった。


「いえ、なんでしょうね?」

「行ってみるかい?」

「そうしましょうか。」


 私たちはなぜだかその小屋に惹きつけられるように、ケーキを食べ終えると、小屋の中に入ったのだった。


「いらっしゃい。占いの館へようこそ。」

 占い師の店だったんだ。せっかくだから、2人の未来と相性を見てもらうことにした。


 黒いフードに隠れているけれど、大人のキレイな女性みたいだ。真っ赤な唇が蠱惑的にニイッとつり上がって笑っている。


「どちらから占ってほしいですか?」

「では私から見てもらおうか。」

 そう言って、アドリアン王子は占い師の前の椅子に腰かける。


 私は隣の椅子に座って、その2人の様子を眺めることにした。占い師がアドリアン王子に、名前と生年月日、生まれた時間などを紙に書かせて、水晶玉をのぞきこんだ。


「あなたは生まれながらにして王の素質を持ちつつも、その道は閉ざされていました。

 ……ですが困難があなたを王の道へと導くでしょう。愛する者と手に手を取り合い、国をおさめる姿が見えます。」


 アドリアン王子が、私と話す時以外で初めて、素直な驚きの表情を見せた。

 ……凄い。当たってる。


 本来なら王太子がいるから、不敬罪に問われかねないことだけど、だからこそ、この占い師は凄いとわかる。

 続いて私の番になった。


「あなたの愛しい者が、いずこかへと連れ去られてしまう。

 あなたはただ1人、その場に取り残されて嘆き悲しむでしょう。


 ……深い闇が見えます。それは時がたつにつれ、色濃くなり、やがてあなたを覆い尽くすことでしょう。……お気をつけなさい。」

 深い闇?なんだか不吉な暗示だわ……。


 不安になって思わず、アドリアン王子を見ると、アドリアン王子はさっきよりもっと驚いた顔をしていた。でもすぐに顔を引き締めて、占い師に向き直る。


「私たちが結婚出来ないということですか?

 2人の相性が最悪だとか?」

「いいえ。お2人の相性は最高です。運命は相性とは別に働くものだということです。」


 なんだか心にわだかまりが残ったまま、私たちは占いの館をあとにした。アドリアン王子が送り届けてくれる馬車の中で、私は思わず自分からアドリアン王子の手を握った。


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