第22話 本当の予知夢
その日の夜のことだ。
「う……、うん……。」
私は夢を見ていた。ヨシク山が崩れて、たくさんの人たちが巻き込まれる夢。
日付まで2日後とはっきり見える。
巻き込まれたのは、ポップホッパーの件で調査におもむいていた騎士団の人たちだ。
駄目……!山に登っては駄目……。
駄目ぇ──!!
そこで目が覚めた。鳥が鳴いていて、窓から光が差し込んでいる。
これ、たぶん予知夢だ。今まで見ていたものとは違うけど、はっきりとわかる。
これは人の手で起こせない災害だ。これならハーネット令嬢には引き起こせない!
だけど起きると同時に薄れていく記憶。私は何度も頭の中で反芻しながら、メイドのリナを呼び付け、紙とペンを持ってきてもらった。これからは枕元に置いとかなくちゃ!
私は意気揚々と学園におもむき、お昼休みに裏庭行くと、さっそくそのことを、アドリアン王子に伝えようとした。
「えっ?予知夢を見れたのかい?」
予想外だ、という表情で私を見てくるアドリアン王子。
「はい、それも災害の……、」
「しっ。詳しくは帰りの馬車の中で聞こう。
私が君たちの会話を聞けたように、誰が耳にするかわからないからね。」
「あっ、それもそうですね。」
「それにしても、何もしてないのに予知夢が見れたのか……。」
「これは本格的に能力が目覚めたと言ってもいいんじゃないでしょうか?」
私は目を輝かせてそう言った。
「それなら何か予知してみてくれないか。
好きな時に見られるのが、星読みの聖女の力だと言うからね。能力が開花したのであれば、好きなことを見られる筈だ。」
「何を見てみればいいですか?」
「それなら明日の私の朝食なんてどうだい?
王宮のメニューなんて、君には予想も出来ないことだろうからね。」
「わかりました。んむむ……。」
私は、アドリアン王子の明日の朝食、朝食……と思いなら念じてみる。
だけど一向に浮かんでこない。
「駄目ですね……。」
「やはりたまたまか。母上から聞いた話だと能力が本格的に開花するまでは、私が君を何度もドキドキさせる必要があるらしい。」
そう言って、グイと迫ってくる。
「ひょっとして君、昨日私のことを考えて、ドキドキしてたりした?」
「えっ?」
昨日……、昨日はアドリアン王子から、馬車の中で色々すると言われて、授業中もそのことばかり考えてドキドキして、結果としてそれがなくなって拍子抜けしたんだった。
──!!それか!
アドリアン王子がニヤリと笑う。
「やはり、私のことを考えて、ドキドキしてくれていたようだね。」
「そ、それは、そう、ですね……。」
「君が私のいない時に、私のことを考えてくれているとは思わなかった。これはとてもいい傾向だな。私にとっては僥倖だ。」
嬉しそうに微笑むアドリアン王子。
なにその、幸せそうな顔は!
……私がアドリアン王子を思い出していたことが、そんなに嬉しいの?
やだ、こんなの見ちゃったら、またドキドキしてくる。せっかくのお弁当の味がよく分からなくなりながら、私はサンドイッチを咀嚼したのだった。
「なんだか最近とても楽しそうね?」
帰宅途中の廊下で、エミリアがニコニコしながら、私にそう問いかけてくる。
「そ、そう?」
そんなに顔に出てたのかな。
「うまくいってるのね、アドリアン王子と。
だけど気をつけたほうがいいわ。ハーネット令嬢は諦めてないんでしょう?」
「たぶんね……。ハーネット令嬢の望みは、アドリアン王子との結婚だもの。」
というよりも、王妃さまいわく、逆ハーレム達成が目的なんだ。
アドリアン王子が好きなわけじゃない。
ううん、好きなのかも知れないけど、それが1人じゃないっていうだけだ。
ハーネット令嬢を取り囲んでいた令嬢たちの気持ちが、今更ながら少しわかる。自分の大切なものを踏みにじるかのように、軽い扱いをされることに腹が立たないわけがない。
「あんなにたくさんの男の方を夢中にさせておいて、まだ足りないとか、本当に恐ろしい方ね……。アデルには申し訳ないけれど、私の婚約者が狙われるような方でなくて良かったわ。毎日泣いて暮らすことになるもの。」
「あの方はだいじょうぶでしょう。
エミリアに夢中だもの。」
私はエミリアの優しい婚約者の顔を思い浮かべてそう言った。
「そう……かしら?そうだといいけど。」
エミリアが嬉しそうにはにかんでいる。
「そうよ。私から見たら、とってもお似合いの2人だわ。」
「ふふ、ありがとう。アドリアン王子も、アデルに夢中に見えてよ?」
「ええっ!?そ、そうかな?」
急にこちらに振ってこられて動揺する。
「ええ。あんな風に女性の前で笑っているアドリアン王子を見るのは初めてだもの。」
「そっか、そう見えるんだ……。」
私はもう少し、自分の気持ちに素直になってもいいのかも知れないな。
校門にたどり着くと、いつものようにアドリアン王子が出迎えてくれる。
エミリアと別れて馬車に乗り込むと、アドリアン王子がニッコリと微笑んでくる。
「さあ、昨日見た夢の話をしようか。」
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