第12話 改めましてのプロポーズ

「貴族と違って、たとえ王族と言えども、君に結婚の強制は出来ない。聖女さまとの結婚の義務があるのは、王族側だけだからな。」


「じゃ、じゃあ、私、この結婚、断ってもいいんですね!やったあ!」

 思わず両手を上げて喜んでしまう私を、ランベール侯爵令息がギロリと睨む。


「王子、話さなければ知らなかったのでは?

 このまま必要なこととして、結婚をすすめてしまえばよろしかったのです。」


 なんてこと言うのよ!この人でなし!

「あなたまさか……、ハーネット令嬢がアドリアン殿下とくっつかないように、私をあてがおうって言うんじゃないでしょうね?」


 そう指摘すると、ランベール侯爵令息は下唇を噛んで、ふいっとソッポを向いた。

 そういうことなんじゃない!


「……まさか私と結婚しなくていいことを、両手を上げて喜ばれるとは思わなかった。

 自分で言うのもなんだが、私と結婚したがる令嬢は多いと思うんだが。」


 アドリアン王子は、少し目を丸くしつつ、半分口元を隠すみたいに顎に手をやった。

「ご、ごめんなさい。」


「だが残念だな。そんなに君に嫌われていたとは。この間のデートが楽しかったのは、どうやら私だけだと見える。」

「デッ……!?」


 少し寂しそうにクスリと微笑むアドリアン王子。だけどその後すぐに、唇の端がちょっとニヤリとつり上がってるのが見えて、からかわれてる!と感じて恥ずかしくなる。


「おや、デートのつもりだったのだが、君にとっては違ったのかな?」

「聖女鑑定の為に、教会に行っただけですよね!?ランベール侯爵令息も一緒に!」


「だがその後の町の散策は2人きりだった。

 私は実に楽しかったのだが。」

「ふえっ?へっ!?」

 なんか変な声出たし。


「聞こえなかったのか?君と過ごした時間が楽しかった、と言っている。」

「そ、それは何よりです……。」


「君のように素直でコロコロと表情の変わる女性は初めてだ。こんなことがなかったら知り合うこともなかったと思うと、私は君のうかつさに感謝したいとすら思っているよ。」


「は、はひっ!?」

 目を細めて見つめられて、私は顔が真っ赤になっていくのを感じた。


「ラーバント令嬢。

 君は恋愛結婚がしたいと言った。君が私の求婚を断る理由は、それだけかな?」

「そ、そうですけど……。」


「正直、断られて傷付いたよ。だがそれにより確信した。私は、君に嫌われたくない。

 ……というよりも、君に好かれたいのだということをね。」


「う、あ、え……?」

「隣りで笑っていて欲しい。笑わせたい。誰より近くでそれを見ていたい。私は、君に、好かれたいんだ。これでは伝わらないか?」


「えと、その……。それって……。」

「どうやら君に、一目惚れみたいだ。」

「あ……、え……?う……。」

 最早なんと言っていいかわからない。


「おや、このことは夢に見なかったのかな?

 そんな反応をされるとは予想外だ。」

「そんな未来、知りません!」


「そうか。なら君に私の気持ちは筒抜けではなかったということだな。おかげでまたひとつ、君の見たことがない反応が見れた。」

 ニッコリと微笑むアドリアン王子。


「恋愛結婚じゃないと、嫌なんだろう?

 私は君のことが好きだ。

 君の言う恋愛結婚とは、君自身が相手を同じくらい好きじゃないと駄目なのかな?」


「だ、駄目ではないですけど……。」

「なら、なんの障害もないということだね。

 他に、問題は?もしもないのであれば。」


 アドリアン王子は私の前にゆっくり歩み寄ると、ひざまずいて右手を差し出してくる。

 それがとてもさまになっていてキレイだ。


「王子だろうと、個人を見るあなたに惹かれました。改めて私と、結婚していただけませんか。ラーバント令嬢。」


 そう言って私を見つめ上げた。

「問題……、ありません……。」

 私は真っ赤になりながら、かじろうてそう答えるので精一杯だった。


 アドリアン王子にたくされた国王さまの手紙は、その日のうちにお父様が開封して、了解の返信を早馬で届けていた。私は恥ずかしくなりながら家族と夕食をとっていた。


「アデルもついに結婚なのね……。

 感慨深いわあ……。」

 お母さまが頬に手を当てて、嬉しそうにワインの入ったグラスを揺らしている。


「やはりあれはアプローチだったのだね。

 アデルときたら、アドリアン王子の気持ちにまるで気付いていないんだからね、端で見ていてヒヤヒヤしたよ。」


「あの時までは別に、私のことが好きだったわけじゃないと思うんだけど……。」

 だってそんなそぶり、まるでなかったし。


「だが、当家は子爵家だ。王家に望まれて断れる筈もないが、第2王子とはいえ、不釣り合いだと思う貴族も多いだろう。親戚中に声をかけて、協力をとりつけなくてはな。」


 お父様のその言葉にドキッとする。いずれ私が聖女と公表されたら、子爵かどうかなんてどうでもよくなるのだ。だけどまだ両親には内緒にするように言われているから、秘密を抱えていることに心苦しくなった。


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