TWINKLES-ON-DARKNESS ~盾の少年と槍の少女の憧憬~

亖緒@4Owasabi

# 日陰に居る二人

第1話 甘く苦く

――令和○年3月31日(水) 深夜――


「……水人みなと、起きてる……?」

「…………」


 ここは祖父様の、屋敷の離れ。私と水人の部屋。和布団を敷き、私は風呂へ。次は水人の番。私戻るも水人、自分の布団の上、転がり……寝息だけ。


「……水人、起きる……水人……起きる……」

「…………」


 近づき水人、軽く揺する。でも、寝息だけ。


――今日の仕事、辛かった、ごめん。癒すキスする、ね。


 水人の傍ら、腰を下ろし、私は添い寝。そして、水人に覆い、被さる。


「……水人……?」

「…………」


 もう一度、確かめる。水人は、静かに、寝息だけ。


――始める、ね。


 水人の唇に、口付ける私。少し開く、水人の唇。少しの湿り気に、舌を這わせる。


――甘い。


 もっと甘さを。私は夢中で、舌を這わせる。


……ぴちゃ、ぴちゃ……


 室内に響く、水音。僅かにする、衣擦れの。流れる静かな、時間とき。でも――


――苦い!


 不意に感じる、血の味。水人、ほんの少し身動みじろぎ。私は、癒しキスを、中止するとめる


「……水人……痛い?」

「…………」


 水人を、私は気遣うも、やっぱり寝息だけ。深い眠りに、水人はる。だから、水人の顔見詰め、私は想う。


――いつも、無茶する……水人、のバカ……


 水人は盾、私は槍。水人は前、私はその後ろ。水人は攻め手を集め、私は搦め手で一撃する。これは祖父様、定めしこと。でも、不服な私。水人が傷つく、から……


「……水人ぉ……」


 感傷的な私。つい、水人との思い出、今日までを振り返る。


 水人は孤児みなしご。裏の道場に、迷い込む。水人を追い回す、大人たち。私の後ろ、逃げ込む水人。頼られ、昂揚する私。水人と大人たち、間に入り、大人たちを止める。次代継承者の私。故に大人たち、手を出せない。大泣き、始める水人。騒動、一喝する祖父様。祖母様も付いて来て。水人は私と、祖母様、その腕の中に。


 あの日から、水人と一緒。ご飯も、お風呂も、お布団も。今は分けられて悲しい、お風呂とお布団。ご飯は少し、祖母様に習う。私のご飯、水人、喜んでくれる。嬉しい、また祖母様に習う。祖母様に感謝。


 感情はある私。でも、上手な言葉のない私。いつしか水人、代わってくれる。言葉が上達する水人。羨ましい私。時に喧嘩する水人と私。最後はいつも仲直り。水人と私、祖母様諭してくれる。祖母様に感謝。


 屋敷に居れば、稽古に明け暮れる。時に大怪我。偶に訪れる依頼。それは他人ひとに明かせぬ依頼もの。時に死の瀬戸際。どうにかこうにか、水人と私、生き延びるだけ。未来さきを、見通せない日々。互いは必要、でも不十分。二人辿り着く未来ところ、いつしか共に、探し始める。


 時は流れる。今日も、一つの依頼。その結末を思う――

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