JET RACER.

バケ。

第1話 超資本主義統一国家

幼い頃から大人たちは毎日つまらなそうに生きていた。どいつもこいつも目が死んでいる。どいつもこいつも不味い飯を食って、1日1日を生き延びていた。ある時、母親とスーパーへ買い物に行った。レジの列が混んでおり、並んで待っていると糊の効いた黒いスーツに身を包み、黄金色に輝く時計を身に着けた若い男が列を無視して横入りしてきた。俺はその男に抗議した。その瞬間、俺はその男に酷く鼻を殴られ、地べたに無惨に倒れた。母親は息子を庇うこともなく、その男に土下座して懇願していた。


「どうか命だけは…」


その時、男が言った言葉は今でも覚えている。


「社会の役に立たない、生きる価値のないノマドが。エンプロイに二度と逆らうな」


そこでこの世界の不条理と常識を知った。人間には価値がある者と価値のない者がいる。自分たちは価値のない人間でエンプロイに逆らってはいけない。高貴な男はレジを終わらせ、悠々と歩き去っていった。周りも見て見ぬふりだった。


この超資本主義統一国家プラウドキャップの人口の9割に当たるノマドは絶えず貧困に苦しんでいた。それに反して人口の1割にあたる巨大企業で働くエンプロイには様々な権利が与えられている。何故ならエンプロイは、巨大企業(メガコーポ) で働き、莫大な金を生み出し、国を動かしているからだ。ノマドは利潤をもたらさない価値のない人間とされ、社会的な地位を剥奪されていた。超資本主義体制では、ノマドは抑圧され、エンプロイが幅を利かせていた。


現在、2201年―。2107年、世界は共産主義諸国を代表する中露と資本主義諸国を代表する欧米の陣営に分かれ、第三次世界大戦が勃発。凄惨な戦争により世界人口の約4割である30億人が命を落とした。欧米率いる資本主義諸国が大戦に勝利し、国際連合は全ての大陸を統一する超資本主義統一国家プラウドキャップを創設。第三次世界大戦が起こって100年―、統一国家プラウドキャップは超資本主義体制の元、発展を遂げ、巨大企業(メガコーポ) が国家予算を超える利潤を持つことで国への干渉を行っていた。今まで国が行ってきた行政・立法などの舵取りは巨大企業に委託され、全てが巨大企業(メガコーポ) の発展のために動いていた。


ノマドはかつて、超資本主義体制に対して団結して大規模な抗議活動を行っていたが、その度にメガコーポ(巨大企業)が有する警備組織に弾圧され、モナドが何万人も虐殺された。この100年でエンプロイに歯向かうモナドは誰もいなくなった。エンプロイには歯向かってはいけない。これが僕らの常識だった。メガコーポは他企業の買収を繰り返し、見る見る内に巨大になっていった。今やこの国に存在するメガコーポは4つだけになった。メガコーポは流通、小売、金融、エネルギー、メディア、飲食、観光…に留まらず、国は行政・立法などすべての権限をメガコーポに委託し、政府はメガコーポの傀儡に成り下がっていた。メガコーポは利潤の最大化のために、自らに都合のよい法律を次々へと立ち上げていった。『ロックサイバネティクス』、『モルガンズワーク』、『カーヌテクノロジー』、『デポンミリタリー』。この4つのメガコーポが実質的に超資本主義統一国家プラウドキャップの全てを決定していた…。

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