第13話 読み合いの末
2週間も経つと、
キャロルとヤマトも戦場に慣れてきて、動きも硬さが減って来ていた。
彼らが、
初めて人を殺した時のあの動揺が懐かしい。
キャロルがシルヴィアや姐さんはともかく、
ネルにも聞いていたのは意外だった。
2人とも今ではもう人を殺して、手が震えることもない。
そこまで慣れてたなら、
大袈裟な号令も必要ない。
「出撃」
その一言だけで事足りる。
その一言で、
刀を抜く、そのワンアクションで、
魔術師の如く、
その身体を、脳を、切り替える。
それによって、
ただ刃を振るうだけの機構に成り下がる。
そのトリガー、そのイメージは人によって様々だ。
息を吐く、心臓をくり抜く、
ベットから抜け出す、矢を番える。
人によって様々だが、
これが存在しない人間はいない。
そうして己の
そして、当たり前のように1歩踏み出して、
敵を斬るのだ。
今日の相手もまた、レインズだ。
最近少なくなってきたと思えば、
この隊の調子が出た頃に限ってレインズが相手になる。
面倒くさいこと、この上ない。
もうそろそろ本部が鼠を始末しきる頃だろう。
そうすれば、
こんなにレインズと当たる事も減るのだろうか。
「もうそろそろお前が
鬱陶しくなってきた。」
いつもよりは遅い会話の始まりだった。
「なんだ、やっとか。
俺はあの夜から、ずっと。ずっとだ。
お前が疎ましくて仕方がない!」
「ならいい加減、
俺を本気で殺しに来い!」
「そんな勿体ないことするものかよ!」
今日は敵軍の副将を殺すために
シルヴィアに左翼、ラノに右翼を任せ、
ラムナフトがどちらに来ても殺し切れるよう
配置を変えた。
これ以上ラムナフトを成長させれば、
簡単には殺しきれなくなる。
そのために、今日ここで殺す。
シルヴィアなら、ラムナフトなんて、居てもいなくても変わらない。
それ故に、普段ラムナフトが任されている
こちらの左翼側に。
ラノは、右翼に配置。
その上で、
殺し切れるだけの術師部隊を右翼に入れる。
俺は、中央でレインズの対処。
そんな、これまでよりも変則的な運用をした。
したが。
バレる前提で動いていたが、
作戦内容が全てバレるとは。
ラノにラムナフト、
相手の術師も、こちらに対処するように動かしている。
「誰だよ、うちのスパイ。」
「それはこちらも同じだ。
……まだこの戦場は終わらせん。」
そう言うと、
レインズは火球を出し、距離を取った。
こいつは、魔術の出し惜しみをしている。
レインズが距離を取ったと言うことは、
中規模魔術を出す前段階か。
出された時点で、
こちらはその対処をしなければ
全員仲良く焼死体だ。
とはいえ、対処をすれば相手の魔術師がフリーになり、
こちらの前衛に多大な被害が出る。
だから、俺がレインズを抑える事が大前提。
俺がレインズを抑えきれなかった時点で、
作戦上敗北になる可能性が高い。
なら、
一歩前へ。
光が後方へ流れる。
まだ、もう一歩。
風の音、
右手の力の入り加減、
火球の推測経路。
ラノは右翼中央、
シルヴィアは左翼の外側か。
全て把握して、
「
レインズの背に、火の粉が鱗粉の様に舞う。
だから、
一歩でも早く、敵陣へ。
踏み込み、追いつけ。
あと一歩。
それで、こいつの詠唱を止める。
「
その一歩が、遠い。
伝え聞く海の波というものは、
こんなものだろうか。
迫る一面の炎に、
後ろの術師たちが各々魔術を以て対応する。
その隙に、敵方の魔術が地を這う。
あまりにも多すぎるその魔術は、
前衛だけで対処するには荷が勝ちすぎる。
放たれてしまったものは、術者を殺せど止まらない。
だから、被害を確認するより先にレインズを通り過ぎ、後ろにいる魔術師たちを斬り払う。
後ろから、レインズの剛剣が迫る。
避けると同時に生き残った敵の手を引く。
剣は、同胞の首を切り落とした。
「なんだ、まだ余裕があるのか?」
「あるわけないだろ。」
やっておいてよく言う。
「なら、俺が潰してやろう。」
怒りと共に、大剣が振り下ろされる。
剣の腹を押し、流しながらレインズの右肘に刃を走らせる
不意に、景色が流れた。
自陣まで飛んでいく最中、
男が左拳を振り抜く姿が見える。
左手を剣から離して、
咄嗟に俺を殴り付けたか。
強化魔術が使えると言うだけで、
その拳は人すら容易に吹き飛ばす。
「これだから、
魔術使えるやつの相手はしたくないんだ。」
少し溶けた地面に転がりながら、
自軍の被害を確認する。
想定より損害は少ない。
前衛も、戦えないほど減っているわけではなさそうだ。
なら、まだこの戦線を維持できる。
ラノもシルヴィアも、
こちらをフォローしやすい様に近づいていた。
相手も消耗しているが、
こちらも追い打ちできるほど余力があるわけではない。
なら、まだ持ち堪えられる。
お互いに決定打が無い以上、このままダラダラと殺し合うだけだろう。
ならば、せめてこちらに出た損害と
同程度の損害を与えなければ。
「俺が魔術を使えたらどれだけ楽か。」
「無い物ねだりか?
ずいぶん弱気だな。」
「そんなわけないだろ。
捲る苦労が嫌になっただけだ。」
「そんなことさせるとでも?」
「今のお前に負ける俺じゃない。」
「なんだ、吼えるな今日は」
そう言うと、どちらともなく走りだす。
残りの
レインズからくる魔術はいつもより少ない。
斬り合いの最中にくる火球も、六割減だ。
避けるまでもない。
魔術と同時に、
その身体を刃が抜ける───────
ふと、横から氷の礫が飛んできた。
「ウチの副隊長を忘れるなよ。」
レインズの体を蹴り、避ける。
足に伸びてくる腕に銃弾を放つ。
また、レインズと距離ができた。
すぐ右には、ラノとラムナフトが刃を交わしている。
いつの間にこれほど近づいたのだろうか。
「ラノ。戻れ!」
「無理!きつい!」
言い合いながら、火球と氷を斬り払う。
「お前が誘導されてどうする。
こっちの敵を増やすなよバカ」
「すみません…」
「……こうなるなら連携の練習しとけば良かったかもな。」
「そんな時間あるわけないじゃないですか。
それは向こうも同じですよ。」
「そうだとしたら、誘導した理由がない。」
「あいつらが連携の練習してたなんて情報はないですよ。」
「……お互いにまずそうだったらフォローする、くらいでやろう」
「了解」
「なんだ、作戦会議は終わったか。」
「待ってたみたいな言い方するなよ」
「待ってやってただろう。ほら」
そう言うと、炎の大蛇が生み出された。
詠唱でもしていたのだろう。
大蛇がこちらに向かう。
それに一拍遅れて走り出した。
こちらの魔術師連中が、大蛇の大半をかき消す。
それでも、一瞬レインズらの姿を隠すほどの炎の体。
その前で足を止める。
その中からこちらに向かってくる何かを斬り払う。
炎を纏った氷の塊。
「無駄に高度なことしやがって」
「なんだ、分かるならもっと驚け。」
剣を合わすこと、数合。
全員が示し合わせたように距離を取る。
幸い向こうに連携の気配はない。
なら、こちらもやりようがある。
魔術師たちに、合図を送る。
俺とラノを分断するように魔術を打たせる。
視界さえ通らなければ、
レインズ、ラムナフト間の魔術の援護は絶たれる。
なら、初めの状況からやり直せるはずだ。
「ラノ」
「わかってます」
ならいい。
レインズらが先に一歩踏み出す。
こちらは遅く、引きつけるように進む。
また炎の壁が視界を遮る。
芸がない。
同じように飛んでくる氷塊を
また弾く。
これではさっきの焼き直しだ。
だが、レインズはそんな温いことはしないだろう。
あいつならどうする?
ラムナフトとの入れ替えか、
1対2での攻撃か。
あぁ、離脱するのもありか。
まぁ、何にせよ対処はできるだろう。
問題無い、と判断する。
味方から魔術が飛んでくる。
氷の壁によるラノと俺の分断。
これでもう、後戻りは出来ない。
なら、俺は俺の全力で迎え撃つだけだ。
炎の壁を突き破る、
巨躯が振るう大剣と氷塊。
「本当、芸がないな。
もうそろそろ引退しろよ」
大剣を逸らす。
刀でまともに剣とは打ち合えない。
それ故に、力を受け流して反撃の起点とする。
それだけが、俺ができる戦い方だ。
「言ってろ。
慢心するなら、殺してやる。」
熱かった声が冷える。
その剣に力が入る。
もう数え切れないほどの打ち合いの最中。
いつの間にか疲労が刀に滲み出ていた。
技量を押し降す剣戟。
全てを叩き潰すその質量は、
物理法則の枷を外す。
刀の切り返しが遅れた。
思えば、臆病であったのだろう。
刀を使う自分は、
誰より早く相手を殺す事で生き延びる。
その癖受けに回っている。
手首が動かない。
懐に飛び込むどころか、
踏ん張る以上の余力がない。
誰の援助も、期待出来ない。
───────いつかと、何も変わらない。
ただ隠れて、逃げて、
見殺すだけの俺ではない。
だから、1歩前へ
これからだ。
反撃の狼煙を上げろ。
もうあの時の俺とは違う。
そう決めた。
その証明は、
この場所でしか出来ないから。
刀を上げる。
途中でずらすのではなく、
剣を刀に添わせるように傾ける。
魔術はまだ来る。
炎も氷も何処へどう来るか分かるのなら、
避けれない道理はない。
意識が研ぎ澄まされる。
欲求を切り落とす。
頭だって、大きくて重くて仕方ない。
「なんでここで成長してるんだよ」
「悪いな、甘くなってた。」
「そうか、なら尚更ここで殺す。」
意識が目の前の男に集約される。
今なら未来視とだって張り合えそうだ。
己が敵を斬るだけの機構に
もう何十合合わせただろう。
意識と速度が加速していく。
千日手を打ち破るべく、
一歩踏み出す。
レインズの後ろに、
何かが見えた。
それでも、もう止まれない。
今止まれば、上下に真っ二つだ。
腹を括って、
今はただ前へとひた走る。
レインズの大剣が迫る。
逸らすために刀を添えると、
刀身は右腕ごと地面に叩き付けられた。
前の戦いのせいか。
まだ右腕が治りきっていないから、
押し返すだけの力が入らない。
咄嗟に脇差に左手を伸ばして、
追撃の刃を弾く。
レインズの右後ろから、
無数の氷礫が現れた。
背後に隠していたのは、これか。
雪崩のような氷群から逃げる。
レインズの左に出て、
その脇腹を背中から切り払う。
「やっと想定通りに来てくれましたね。」
レインズの後ろには、
ラムナフトがいた。
ラムナフトの剣が振り上げられる。
脇差では間に合わない。
逸らすには間に合わず、
受けても、剣が相手では折られるだけだ。
それでも、まだ死ぬことは許されない。
もう殆ど消えていても、
俺の心を動かす何かが、
まだ残っている。
生きなければ。
死んでは、誰に顔向けできるというのか。
刃が振り下ろされる。
斬られるより早く、
脇差をラムナフトに投げ捨てる。
至近距離なら、避けることは難しい。
向かう先が体なら尚のこと。
彼女は咄嗟に体をずらすが、間に合わない。
鎖骨のくぼみに突き刺さる。
ラムナフトは歯を食いしばり、
無理やり剣を振り下ろす。
左手を挙げる。
残った右手はホルスターへ。
左手が叩き落とされる。
ギリギリ心臓は外せただろうか。
銃口を上に向けて撃つ。
念の為魔弾を入れていて良かった。
これほど目立つなら、
シルヴィアも気付くだろう。
俺が死んだら、
敵討ちくらいしてくれるだろうか。
個人的には静かに暮らして欲しいものだ。
肩口に刃がめり込む。
同時に、上空に雷が生まれた。
ラムナフトの剣を、
左腕で下から押し上げる。
その拍子に、ラムナフトの肩から脇差が抜けた。
そんなに浅かったか。
いや、振り下ろしにしては、
威力がなかった。
多分筋肉くらいなら切れただろう。
なら、肋骨で止まってくれるか。
怪我は少しでも減らさなきゃ、
生きれるものも生きれない。
右腕を横のレインズに向ける。
レインズの大剣が、
確実に俺の首を切り飛ばしに来る、
レインズの邪魔をしないように、
ラムナフトが剣を俺から抜いた。
「お前らのせいで貧血だ、クソ」
「死ぬんだから文句言うな」
レインズの剣に、
俺の弾が着弾する方が早い。
確認するより先に、
後ろに倒れつつ、
銃身で大剣の軌道をそらす。
銃が吹き飛ばされる。
「結構思い出あったんだけどな、あれ」
切り返し、大剣が迫る。
あぁ、これはもう避けれない。
体はさっきの時間稼ぎで限界だ。
首は
俺は、置いていかないと思ってたんだけど。
置いてかれる側とは。
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