第64話 清潔な館

「この陣形で負ける要素ある?」


「ないのう」


クルジェスのジジイもそう言っていることだし、巻きで終わらせまーす。


もちろん、キャンプなので、みんなで美味しいもの食べたり、ちょっと多めに休憩して昼寝とかしたりしましたけども。


そんなこんなで無事クリアした俺達だが……。


クラスメイトは、約半数がリタイアしていた。


おお、無様無様……。


泣いているガキ共が森から抱えられて出荷されてくる。


豚は出荷よー。


そんなー。


……まあその辺はどうでもいい。


早く帰って仕事したい。


俺はそう言って、クルジェスのジジイに百点満点をもらってから、森の上空を飛行して帰宅した。


「飛べるなら何でわざわざ歩いて行軍したんだ?」と、ジジイが目で訴えかけてきていたが、知らないでーす!




帰宅したらやることは決まっている。


「あ、旦那様。テスト、終了、しました」


そう言って俺に恭しく頭を下げるのは、アラン。


孤児共には、新作ゲームのテストプレイをさせていたのだ。


そして、その結果を受け取ってバグフィックス……。


バグと言っても、フレステ4や5の最新作ゲームのように、CGゴリゴリで動かす高性能ゲームではない。


精々がスーパーフォミコンレベルのドット絵ゲームであるからして、テストに必要な項目はそう多くはないのだ。


それに、味のあるバグはバグ技として残そうとも思うしな。


とりあえず今回は、主観型ダンジョン攻略RPGの『ワイズドリィ』と、格闘ゲーム『ストレートファイター』と、ローグライクゲーム『空来のクレン』と、ホラーサウンドノベル『かまきりの夜』など、ド名作のパロディゲームをお出しする……。




結果。


もちろんバカ売れ。


またもや、仕事を休んでまでビークス商会の前に並ぶ人が続出し、「モノ売るってレベルじゃねえ」騒動になった。


治安維持のため、騎士までもが駆り出される事態になり、渋谷のハロウィンみたいな大混乱に陥ったのだが……、俺は知らん。


バカな人民が悪いでしょ?


よく考えてほしい。


渋谷ハロウィンもあれ、渋谷もハロウィンも悪くない。ただ、クソにたかるハエみたいに集まってくるアホ共が悪いでしょ。


つまり、俺は悪くない。


友人の第二王子ギルバート君が謝罪行脚をしたらしいが、必要経費だと思って諦めてもらおう。




諸々の仕事を終えて帰宅(元スラム街の俺の屋敷だ)すると、そこには俺の手下達が全員揃っていた。


即ち、エイダ、フランシス、ユキ、グレイス、アランとベティ。


「なんでいんの?」


俺が首を傾げる。


エイダとアラン、ベティはともかく……。


フランシスはクライン家の王都別荘が。


ユキは、学園の寮が。


グレイスには王都大教会が。


帰る場所があるだろうに。


「アンタのせいよ!」


はて?


俺のせい?


フランちゃんはわがままだから、気に食わないことがあるとすぐ俺に当たる。


まあ?その辺の?女のわがままを許しちゃうのも?男の度量かなーって!


じゃあ、理由を聞いてやるか……。


「俺のせいとは?」


「アンタが……、アンタが!」


俺が?


「アンタが私達に、『衛生概念』なんてものを教え込んだからっ!街も館も学園も、臭くて汚くて耐えられなくなっちゃったのよーっ!!!」


あ、はい。


それは俺のせいですね、すいませんでした。


「アンタが、細菌とか寄生虫とか見せるから!私もう怖くてぇ!」


「学園の食堂の料理人の、料理するところを隠し撮り……!こ、股間を触った手で食材をおお!!!」


「教会の、教会の洗礼の水……!ハエの死骸とか……!幼虫とか……!ひいいっ……!」


あーはい。


うん。


本当にすまん。


これはすまん。


でも、分かってくれただろ?


俺がどうして、衛生感を気にするのか。


「この王都で綺麗なのは、この元スラム街だけなのよ!お願い、ここに住ませて!!!」


「頼み申す!」


「お願いしますぅ……!」


「良いぞ。館の空いてる部屋使え」




いやー、衛生概念なあ。


そりゃそうなるわなあ……。


ん?


バタバタと足音が三つ。


フランシス達だ。


今度は何だ?


「エグザスっ!この館!凄い!凄いの!」


「はあ」


「ベッドがふかふかなのよ!ふかふか!」


そうですか。


「部屋に湯浴み用の小部屋(シャワールーム)が!」


「清潔な水とお湯が出る管(水道管)が!」


はーそうですか。


「使用人達は暗い顔してるけどよく働くし!オヤツ食べ放題だし!お茶も飲めるし!」


「部屋は、暖房というやつがたくさんあって暖かいし!真っ白な手拭いや湯着、それに広い温泉もある!」


「おまけに、全部屋にゲームとモニターがあって!電話?というものを使うと、すぐに使用人さんに指示ができます!」


あーそうですかそうですか。


「……普通じゃね?」


「「「凄いんですよ!!!」」」


あーはいはい。


「まあ何でも良いから、好きに使ってくれ。部屋の鍵はマギアパッドとかマギアタブレットにデータを送ってあるから、それを扉に翳せば開く」


「?」


「あー、タブレットが魔法の鍵になってるんだよ」


「なるほど!……私達、これから温泉に入ってご飯食べて、みんなでゲームして寝るんだけど、アンタもどう?」


ナチュラルに混浴のお誘いかよ。


「いいよ」


「じゃあ、行こう!」

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