第5話 魔法使いを作ろう!
俺は、毎日村外れの森に籠り、おやつに肉を食いながらも、魔法の実験を繰り返した。
そう言えば、魔法の力である輝くオーラ……、まあ、魔力。
この魔力なんだが、魔力操作を訓練すれば総量が増えるみたいだな。
例えば、うちの母親は、魔力は見えるが術式は少しの種類しか使えないから、魔力の使い方が分からず訓練できてなくて、結果として魔力の総量が少ないんだよ。
けど、俺みたいに、馬鹿みたいに多種多量の術式を使っていると、魔力がどんどん伸びて、柔軟性も高くなり、ロスは少なくなる、と。
実際、俺の魔力の量はとてつもなく、母親の数百倍はあるように思える。
何となくやばそうなので、魔力を体内に隠す操作も訓練中。
そんなある日のことである。
俺がいつものように肉を焼いていると……。
「あ……」
村の方からガキが来たようで、俺を見ていた。
「りょーしゅさまのところの子だよね?なにしてるの?」
女だな。
長く伸ばした金髪を、編み込んで巻いている。イギリス巻きとか言う髪型に近い。
アニメキャラっぽいような髪型だ。
顔も良い。
柔らかな印象を受ける美少女だ。
まだ子供だが、子供の段階なのに分かるくらいの美少女……。
それも、特上の。
が……、目撃された以上、消すしかないか。
俺が今の段階で魔導師であるなどとバレたら、面倒なことになるのは明らかだからな。
良い女を消すのは心が痛むが……。
俺は、傍にあるナイフを手に取ろうとする。
「あ、お肉だ。ウサギをつかまえたの?」
「ああ……、そうなんだ」
ナイフを掴んだ。
「うーんと……、ひみつにした方がいい?」
俺は、動きを止めた。
「どうしてそう思う?」
「だって、かくれてるんだよね?」
ふむ……。
「かくれてごはんを食べてるの、みつかったらおこられちゃうもん」
なるほど。
面白いな。
頭が回るガキのようだ。
……もしこのガキが俺が魔導師であることを触れ回ったとしても、俺はとぼければ良いだけ。
ガキの妄言と誰も相手にしない筈だ。
それなら、このガキを魔法使いに仕立て上げて、後々の派閥形成の予行演習とすれば……。
そう、そうだ。
派閥形成。
俺は自分が優秀であるという自負はあるが、俺が百人いればそれで世界の全てを回せるとまでは思わない。
プログラマも同じで、俺は同世代ならトップ層ではあるが、だからと言って俺以外のプログラマが無能な訳でもないのだ。
俺達は、先人達の礎の上に立っている。アラン・チューリングにフォン・ノイマン、グラハム・ベルにトーマス・エジソン。彼らが作り上げてきたものの上に立っている。
俺より若いプログラマが、俺ですら思い浮かばなかったようなコードを書くことも多々あった。
我々と関わりが深いインターネットと同じ考え方……、つまるところの『集合知』こそが人間の力なのだ。
であれば、部下を作らねば。
派閥を作り、部下を集めて教育し、それぞれの研究結果を共有する。
それこそが『集合知』……。
よし、決めたぞ。
俺はこのガキを『魔法使いにする』!
「ああ……、そうなんだ。秘密だよ、秘密」
俺は、ナイフから手を離し、作り笑顔を浮かべてそう言った。
「うん!ひみつだね!」
無垢な笑顔を向けるガキ。
歳の割には賢しいだろうが、俺の方が精神年齢は上だ。
対処はそう難しいものでもないだろう。
「ほら、おいで。ウサギの肉を分けてあげよう」
「えっ、いいの?!」
「ああ、いいとも」
とりあえず餌付け、と。
ああ、ウサギなど獣の捌き方については、村の狩人に習ったぞ。直接会った訳ではないが。
木の上に登って、魔法で作った遠眼鏡っぽいものを使っただけだ。
魔法で作った水晶を、レンズの公式に従って加工しただけだが、意外と使えるな。
なので、皮剥ぎは特別上手くはないが、手順は簡単だし可能だった。何度もやっているしな、もう慣れたもんだ。
練習台は森に入れば結構いるし。
たまにモンスターも出るが、最近編み出したマクロ魔法で瞬殺よ。
あー、マクロ魔法ってのはあれだ……、詠唱省略みたいなもん。
特定ワードで術式を即座に起動できるんだが……、どこにデータ格納しているのかは相変わらず謎。
さて……、コミュニケーション、と。
「君、名前は?」
「エイダだよ」
エイダ……、姓は名乗らないってことは、平民か。
平民は、公的に名乗るときは、村の名前を姓のように名乗る。
それでも足りない場合、父親の名前をミドルネームのように名乗る。
……ロシアかな?
後で聞いたが、この形式でいくと、エイダの本名は『エイダ・スコット・レイビス』だそうだ。
レイビス村のスコットの娘エイダ、と。
「お家の人は何をやってるのかな?」
「パンやさん!」
パン屋か。
村内だと、食料を供給する役割を持つパン屋は、立場が高い方だ。
だが、村人が持ってきたパンの材料を、税として徴収する、ある種の徴税官的な役割も兼ねているので、評判はよくない。
そういえば、平民の生活はよく知らないな。
色々聞いてみるか。
「いつも何食べてるのかな?」
「パンだよ?お肉はね、かりうどさんがたまにもってくるよ」
うちと変わらん財政だな。
「他のお友達は?」
「みんなあそんでるとおもう。わたしは、いいにおいがしたからここに来たんだー」
匂いか……。
煮炊きの煙を見られないように、風の魔法で煙を散らしていたのが仇となったか?匂いも散っていたということか。
次からは風向きなどを考えてみるか……。
あ、食わないという選択肢はないぞ。
あんな飯じゃ栄養不足で成長できないからな。
森の奥で仕留めた動物や、木の実などを食べないと、成長に支障が出る。
実際の話、俺の目測が間違いじゃなければ、この世界の人間は小柄だ。
その矮躯は、幼い頃に栄養を摂れなかった証だろう。あの矮躯、まるでゴブリンだ。
ああはなりたくない。
一応、魔法によって塩は出せたが、これからもっと研究してより多くの栄養を摂るぞ。
少なくとも、ベリーや木苺、鳥やウサギ、鳥の卵や川魚は定期的に採取している。
「他の子供はここに来そうかな?」
「わかんないけど、ふつうの子はこんなに森のおくまで来ないよ?」
なるほど、そうか。
さて、質問はこんなものか。
では早速、施術を始めよう。
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