第27話
「にゃん(遊びにきちゃいました)」
「そうですか……」
「にゃにゃん(安心してください、この部屋には結界を張っていますので、他の人に気づかれることはありません)」
「……」
それは安心して良いことなのだろうか。要はお忍びで来てますと言っているようなものなんじゃ……。
「それと、さっきからなんで普通にしゃべらないんですか?」
「にゃん?(猫は普通喋りませんよ?)」
「それは知ってます。できれば普通に話して貰えませんか? 猫の鳴き真似と一緒に脳内に直接話しかけて来られると、僕の頭で処理しきれなくなりそうなんで」
「わかりました」
ふぅ、これでようやくまともに会話ができそうだ。会話できたところでと言ったところではあるけれど。
「ちょっと色々聞きたいことがあるので一つずつ質問してってもいいですか?」
「構いません、お茶の用意をしておきますね」
「……ありがとうございます」
しれっとテーブルにティーポットとカップ二つが置かれたので、ルディアーナさんと向かい合う様に席に着く。うん、この紅茶きっと物凄く美味しいはずなんだろうけど、味を感じている余裕がなくて良くわからない。
「まず、何で猫の真似なんてしてたんですか?」
「動物好きだとお聞きしましたので、この世界でも人気のある動物に扮してみました」
正直、ピンと来てはないけど、まあルディアーナさんなりの考えがあってのこと、ということで理解した。というか飲み込んだ。
「それはそれとして、ハルトさん。何か私に言うことはありませんか?」
「それは、格好の感想を聞きたいってことですかね?」
「はい」
ルディアーナさんは大きく頷き、期待しているような視線でじっと見つめてくる。あれっ、もしかしてこの流れ、口に出して感想言うまで終わらない感じだったりします?
「はい」
「当然のように心の中を読まないでもらえますか?」
「……それでどうですか?」
思いっきりスルーされた!? 今ちゃんと口に出して言ったよね!? なんでそんな話は一切聞こえてませんけど? みたいな表情ができるのだろう。ってちょっと待てよ。
「ルディアーナさん、僕の心の中を読んでたんなら、感想伝わってますよね?」
「……上手く読み取れなかったので、口に出して教えてください」
「……」
絶対嘘だ。明らかに、考えてるような間があったし。だけど、上手く読み取れなかったことを証明することは不可能だから、可能性を100パーセント否定することができない。結局、そうなるのね……。
「はぁ、わかりました」
「はい」
ため息をついてルディアーナさんと視線を合わせる。元々、絵画のような美しさを持っていることもあるから、猫耳が付いていても変わらず綺麗だ。ピコピコと耳を動かして見せてるのも、可愛らしく思えてしまう。
「可愛いと思います」
「具体的には?」
「ぐっ……、その、普段は綺麗なイメージが強いんですけど、猫耳があることで可愛らしさが増してると思います」
「ふむ、なるほど」
なんだこの羞恥プレイは……。穴があったら入りたい。なぜかルディアーナさんは僕の感想を聞いて考え込んでるし、もう何もかも忘れて寝てしまいたい。
「では、猫耳が付いた私と今まで通りの私。どちらがハルトさんの好みですか?」
「それも言わないといけない感じですよね」
「はい」
「今まで通りのルディアーナさんの方が良いと思います」
「何故ですか? 猫耳があったほうが可愛らしさがあるんですよね?」
「確かにそれはありますけど、ルディアーナさん本来の姿の方が素敵だと思います」
「……っ! なるほど、わかりました」
ルディアーナさんは一瞬、目を見開いた後、すぐに冷静さを取り戻り、いつもの通りほとんど抑揚のない、しかし鈴の鳴くような声を上げた。
「では、今まで通りのままにしておきます」
「はい」
「ですが、猫耳を付けた私も気に入って頂いているようですし、教会にある私の像には猫耳を生やしておいた方が……」
「そんな必要はないと思いますっ!」
「そうですか、……ハルトさんがそう言うなら止めておきましょう」
「是非、そうしてください……」
あぶねぇ。危うく、この大陸にある教会すべてのルディアーナさんの像に猫耳が生えるところだった。そんなわけのわからないことが起こった日には大陸中が大混乱になることが火を見るよりも明らかだ。
「ふむ……そろそろ時間のようですね」
「このあと何か予定があるんですか?」
「いえ、私が人界にきていることがバレそうです」
「他の神様にも言わずに来てたんですね……」
もうツッコむ元気もない。願わくば大事になっていないことを祈るばかりだ。
「では、ハルトさんまた」
「はい、次からはちゃんと許可を貰ってくるようにしてください」
「……前向きに検討します」
ルディアーナさんはそう言ってこの場からふわりと姿を消した。
その言い草、政治家が逃げるときに使う常套句なんですよ。
とりあえずもう寝よう。考えることを放棄してベッドに倒れこむ。すぐに睡魔はやってきたが、当然ながら忘れることはできなかった。
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