第18話

 色々なことがあってつい屋敷前で話し込んでしまっていたが、ようやくひと段落着き、僕らはクズハさんが準備していた屋敷内の一室に場所を変えた。中央にあるテーブルを挟むようにソファーが置かれており、クズハさんと向かい合う様に、僕とルディアーナさんが座る。


 本来なら僕はクズハさんの隣に座る予定だったのだが、「ハルトは私の隣ですよね?」という一声によりそうなっている。ちなみにレナさんは護衛の立場なのでソファーに座らずにクズハさんの後ろに控えており、僕に冷たい視線を浴びせかけてきていた。理由はすぐにわかったのだが、恐らくどうにもできない。


「ルディアーナさん、もう少しそっちに座って貰えませんか?」

「何故ですか?」

「ちょっとこっちに寄ってるような気がしまして……」

「はい、寄せています」

「……」

 うん、これは無理だ。偶然じゃなくて、恣意的に傍に座ってますって言われたし。


「ハルトさんは迷惑ですか?」

「いえ、そんなことは……」

「ならこのままで問題ありませんね」

「……はい」


 レナさんの視線が一層冷たくなった気がする。けど、これはどうしようもなくない!? 曲がりなりにも向こうは神様だよ。むしろよくお願いできた方だとすら思える。


「ハルトさん、ハルトさん」

「はい、なんでしょうか」

「彼女がああしてハルトさんを睨んでいるのはヤキモチを焼いているからですか?」

「ぶっ!?」

「なっ!?」


 紅茶を飲みかけていたタイミングに変な言葉を聞かされて、変なところに入った。結構辛い。


「創造主様、それは勘違いです。私はこいつのことなど何とも思っていませんので」

「そうなんですか?」

「はい」

「なるほど……これがツンデレというものですね」

「ツンデレ?」

「ルディアーナさん違います」


 聞き馴染みのない言葉にレナさんが首を傾げる。と言うか、ツンデレなんて言葉どこから覚えてきたのだろうか。クズハさんも知らないように見えるから、この世界で浸透しているわけではないはずだ。


「ハルトさんの世界の神に教えて貰いました」

「だからツンデレなんて言葉知っているんですね」

「はい」


 そう言うことなら納得できる。僕のいた世界の神様なら知っていてもおかしくはないだろうし……ん?


「僕のいた世界の神様に教えて貰ったんですか?」

「はい、他にも色々教えて貰っています」

「例えばどんな言葉ですか」

「ロリコン、ヤンデレ、ドジっ子……」

「ごめんなさい、もう大丈夫です」

「わかりました」


 僕の世界にも神様がいたんだという驚き以上に、何とも言えない気持ちが胸の中を駆け巡る。なんだろう、この自分がいた世界の神様からにじみ出ている残念な感じは。


「ではツンデレではないとすれば、彼女のような場合は何と呼ぶのが適切でしょうか?」

「特に気にしなくていいと思いますよ」

「ふむ、わかりました」



----------

「ではそろそろ帰ります」

「承知いたしました」


 室内に移動してから小一時間。クズハさんは終始緊張していたし、ルディアーナさんはちょいちょいぶっこんでくるしで、中々にハードな時間だった。それでも最後の方はクズハさんも多少は緊張がほぐれてきて、ある程度普通に会話できるようになっていたから良かったんじゃないだろうか。


「……そうでした、1つ忘れていました」

「えっと、ルディアーナさん、どうかしましたか?」


 扉のところまで向かっていたルディアーナさんが急に立ち止まると、僕の傍まで近づいてくる。


「……ちゅ」

「えっ?」


 頬のあたりに一瞬感じた温かい感触。それと同時に体全体が何かに包まれていくような感覚が起こった。今のって……。


「加護を与えました」

「加護、ですか?」

「はい」

「ありがとう、ございます。ちなみにどんな効果があるんですか?」


 まださっきの行動に心臓がばくばくしているけど、加護ってことは何か権能とかそう言うのが貰える感じなんだろうか?


「私と近くに居なくても会話することができます」

「えっと……?」

「ふむ、実際にやったほうが分かりやすいですね」


 ルディアーナさんはそう言うと、扉の傍まで歩き出す。


(ハルトさん、聞こえますか?)

「!?」

(その様子だと聞こえているようですね? 今度は私に話しかけてみてください。私を思い浮かべながら、頭の中で言葉を発してください。)

(えっと、こんな感じですかね。ルディアーナさん、聞こえてますか?)

(はい、これでいつでも会話できるようになりましたね)

(……そうですね)


「と言う感じになります」

「わかりました」

「なので、私と話したいときはいつでも使ってください」

「はい」


 きっと創造主様を信仰している人とかからすれば信じられないぐらい名誉なことなんだろう。まぁ、何か大変なことが起こったときに相談できるようになったと考えればかなりありがたい加護と言えるだろう。

 

「あと加護の効果ですが、大したことではありませんが不老不死になります。それでは」

「は? いや、ちょっと!? ルディアーナさん!?」


 後を追いかけに慌てて部屋のドアを開けたが、既にルディアーナさんの姿はなくなっていた。


「……」

 不老不死とかそれ物凄い効果ですからね……。

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