第4話 

「あの、これから何処に向かうんですか?」

「ヴェローナ王国の王都になります。ここだとおおよそ3時間ぐらいで到着すると思います」


 程なくしてやってきた馬車の中でリーダーの女性に尋ねると、そう答えが返ってきた。ヴェローナ王国、うん、聞いたこともないな。光君も知らないようでちらりと視線を送ると小さく首を横に振る。


 馬車の中にいるのは僕の隣に光君。向かいの席にはリーダーの女性とその副官だ。

リーダーの女性は友好的なのに対し、副官はさっきから睨みつけるような鋭い視線をこちらに向けてきている。どうやら大分警戒されているみたいだ。


「おい、貴様、さっきからなんだ、ジロジロとこっちを見てきて」

「レナ」


 苛立ったのか副官が声を荒げ、それをリーダーが嗜める。


「すいません、そんなつもりはなかったんですが……」

「何かあるならはっきり答えろ」

「いえ、その、一団のトップと副官の方がどちらも女性だったとは思わなかったので……」


 銀色のポニーテールに細い眉。鋭く切れ長の瞳からは気の強さを感じさせる。リーダーの人も美人だけど可愛らしさのようなものがあるあるタイプで、副官の方は纏っている雰囲気といい、綺麗だけど近づきずらいようなそんな感じだ。


「女性が上に立っているのが気に食わないと言いたいのか?」

「いえ、そんなことは全く」


 やばい、副官の方は女性が上にいることを馬鹿にしていると思ってあんな睨んできてたのか! だとしたらちゃんと弁明しないと……。


「その、僕たちがいたところだと騎士はいないんですが、それに準じた人たちがいて。そこだと上にいるのがほとんど男性だったので……。不快に思わせてしまったらのなら謝ります。すいません」

「……」


 僕が頭を下げると、副官は納得してくれたのか、少しバツが悪そうにしながらそっぽを向いてしまう。


「レナ、すいません」

「いえ、こちらも女性の顔をジロジロ見てしまいすいませんでした」

「……っ!」


 ちらりと副官の方に顔を向けると、視線がばっちりと重なる。彼女はすぐに外の方に顔を向けてしまったけど、何となくだけど、こっちも気にしている風だったのでひと先ずは安心して良さそうかも知れない。


「すいません、そう言えばまだ名乗っていませんでした。私はヴェローナ王国に仕えているココノエ・クズハです」

「結城悠斗です」

「谷戸光です」

「ユウキ様にヤト様ですね。よろしくお願いします。それと……」

「レナ・クーデンス」


 副官の女性、レナさんがぶっきらぼうに答える。相変わらずそっぽを向いたままだけど、話は聞いてくれているみたいだ。


「宜しくお願いします。えっと、ココノエさん、クーデンスさん」

「クズハで構いませんよ」

「わかりました。ならクズハさんで。こっちも悠斗で構いませんし、様も要らないですよ」

「ぼ、僕も、悠斗さんと同じで」

「はい、ではハルトさん、ヒカリさんとお呼びしますね」


 にっこりと微笑むクズハさん。思わず見惚れてしまいそうだが、その隣から鋭い視線が向かってきそうなので気を付けないと。


「おい、ハルト」

「えっ?」


 そう思った最中、クーデンスさんから呼びかけられる。と言うか、いまハルトって呼んだ?


「お、お前がそう呼んでいいといったから呼んだんだが何か問題でも?」

「そんなことないですよ」

「私もクズハ様と同じでレナで構わない」

「えっと……」

「レナで構わないと言っている」

「わ、わかりました、レナさん。宜しくお願いします」

「……」


 彼女はそれきり黙ってしまう。どうやらレナさんと打ち解けるにはまだ時間が必要だな……。



 馬車に乗って2時間ぐらい経っただろうか。景色は見渡す限り一面の草原から木々村、町と過ぎていく。徐々に王都に近づいてきているからだろう。道も人が歩いて踏み固められただけのような感じから、石畳で舗装されているように変わっているし、大分この国の中心部へと近づいてきている感じがする。


「あと1時間以内には王都に到着しますので」

「わかりました」


 クズハさんの言葉に頷く。そう言えば、彼女の苗字、ココノエって言っていたよな。九重、僕たちがいた世界にも数は多くないが存在している苗字だ。それがこの世界にもあるってことは……。


「あの、クズハさん1つ聞いてもいいですか?」

「構いませんよ、なんでしょう?」

「その、クズハさんの苗字って……」

「やっぱり、わかるんですね」

「ってことは……」

「はい、ココノエ家はもともとハルトさん、ヒカリさんの世界からやってきた異世界人になります。と言っても今から150年も前の話ですけどね」

「150年……あっ、す、すいません」


 想像以上に昔だったのか光君がつい声を漏らす。その気持ちはよくわかる。そんな昔からこの世界に連れられている人がいるなんて想像もしていなかった。


「驚きますよね」


 ふふっ、っとクズハさんは口元に手を当てながら上品に笑う。その姿はなんだか貴族みたいだ。


「貴族だぞ」

「えっ?」

 

 横からレナさんが割って入る。なんで心の中が読まれたんだ? いや、それよりも、いま貴族って……。


「お前は随分と顔に出やすいみたいだな」

「……」


 そうなんだろうか。あまり実感はないけど、言い当てられているので何も言い返せない。そんなことよりもだ。


「レナさん、いま貴族って言いませんでした?」

「ああ、クズハ様はれっきとしたヴェローナ王国の貴族だ」

「「ええっ!?」」


 思わず顔を見合わせた光君との声が馬車内にこだました。

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