第35話 彼方の地 ベルマンとシシアカ 前編

 東の国の山奥、

 発電か水量を調整する為の大きなダムに、狐の様な面体で顔を覆った兵士達が身を潜めていた。彼等は、バサラの私兵集団だ。


 帝国兵との戦いで傷を負った青龍も、シシアカに連れてこられ一旦ここで静養していた。

 首を切り落とされた大蛇のはらわたに頭を突っ込み、がむしゃらに肉を貪り食う青龍。落ち着きのある濃い青色だった鱗は、赤く染まっていた。その姿は、もはやただの獣である。


 「うわ〜。バサラ様が倒した大蛇、シシアカ様が剥製にするので持って帰れと言われたが………。コレでは………。にしても龍の食事の光景、いつ見ても慣れんな〜。人も食うのか?」


 「当たり前であろう。お互い、敬っておるから食われんのだ。隙を見せたら、獣と同じぞ!」


 狐の面体で顔を覆った兵士が二人、青龍の食事を眺めていた。


 「キサマ等、何をサボっている。まだ、龍がおるのか。そんな事の為に、バサラ様はキサマ等に高い金を払って育てたわけではないぞ」


 そこへ、シシアカがやって来た。


 「シッ、シシアカ様。お早い、お戻りで!? いや〜、青龍を連れ返そうとしたところ、突然目を覚ましまして。ご覧の通り、腹を空かしていただけのようです。傷も治療されているので、自分で飛んで主の元へ帰れるのではないでしょうか」


 狐の面体を被った兵士達は、シシアカのご機嫌をとりながら事情を話した。


 「ところで“例のモノ”は、受け取られたので?」


 「ああ…、“とても良いモノ”だ。一旦、ダムの底に隠してきた。これで、いつでも”始められる“」


 「とうとう、我等の時代が動き出すのですね!」


 狐の面体を被った兵士達は、シシアカの言葉に歓喜した。


 今までがむしゃらに大蛇の肉を貪っていた青龍が、突然鼻先をもちあげ、クンクン辺りの臭いを嗅ぎ始めた。

 何かに気づいた青龍につられ、空を見上げたシシアカが呟く。


 「そんな事より、早く撤収するぞ。余計な邪魔が入る前にな………」


 空には、コルルが翼を広げ飛んでいた。



 機械人形の村、ニ○三農耕地を襲撃してきた帝国兵を打ち倒したロン達は、行方不明になっているクマさんの捜索をしていた。

 ベルマンに肩車をしてもらっているスピカが、空を飛ぶコルルに手を振っている。

 スピカ達に手を振り返すロン。


 見渡す眼下に、煙が上がっている事に気づいた。


 「んっ、誰か居るのか!? コルル、あそこに」


 『コルルルル〜〜〜』


 険しい谷に、ひらりと舞い降りたコルル。そこには、原形を留めないほどに破壊された、飛行船の残骸らしき物が散らばっていた。

 ここは、猪狩りに来た際、帝国兵に襲われた所の直ぐ近くだ。


 「これに乗ってやって来たのか………。でも、何故破壊されているんだ? これじゃあ帰れない」


 執拗に破壊された残骸からは、手がかりを得ることができなさそうだ。だが、くすぶる煙からそれほど時間が経過していない事がうかがい知れる。

 得体のしれない胸騒ぎに、さいなまれるロン。


 『ザザザザザ……… ロン…青龍だ! 突然…うゎ〜〜〜 ………ザザザザザ』


 突然トランシーバーから、ベルマンの叫び声が聞こえてきた。


 「ベルマン!? どうしたんだ、ベルマン!?」


 『………ザザザザザ』


 返事がない。

 慌ててコルルに飛び乗るロン。



 森の中を這いずり回る気配。ベルマンとスピカは、キョロキョロ辺りを見回している。。


 『ガサガサ ガサガサ ガサガサ ガサガサ』


 気配を視線で追うも、目が回りそうなほど速く動き回っている。

 ふと、気配が一つでないことに、ベルマンは気づいた。


 『ガサガサ ドサッ グルグルグル〜〜〜』


 青龍が姿を現し、ベルマンの周囲をグルグル駆け巡る。


 「ぎょえ〜〜〜」


 その、あまりの速さにスピカは、目を回してしまった。お互いの動きを探り合う、青龍とベルマン。

 しかしベルマンは、目の前の青龍よりも他の気配の方が気がかりだった。


 『バシューーー バシューーー』


 ベルマンの背後から、何かが撃ち放たれた。

 それは、あきらかに青龍を狙ったものだ。木々の間をヌルヌルと動き、かわす青龍。

 撃ち放たれたモノは、捕獲用のネットだった。


 『バラバラバラバラ』


 突風で、木の葉が舞い上がる。

 捕獲用ネットが撃ち放たれた方向から、回転するプロペラがついた棒につかまり、狐の面体を被った兵士達が現れた。


 「なっ、何者ですか!?」


 左手のガトリングガンを、構えようとするベルマン。

 しかし、狐の面体を被った兵士達は、すでにベルマンを取り囲み攻撃の標的にしていた。

 ベルマンは、下手に身動きができなくなってしまった。


 睨み合うベルマンと、謎の兵士達。

 そんな中、鼻をヒクヒクさせ周囲の臭いを嗅ぐ青龍。何かを見つけたのか、旋風のように空へ舞い上がっていってしまった。


 「お前達は、青龍を追いかけろ」


 物影からシシアカが現れ、謎の兵士達に指図した。


 「御意」


 『ビュルルルル〜〜〜』


 指図された謎の兵士達は、すぐさまプロペラがついた傘のような機械で飛び上がり、青龍の後を追いかけていった。


 シシアカは腰に携えた刀を抜き、切っ先をベルマンに向けた。


 「見慣れぬ風貌の少女と、機械人形だな」


 「事情があるとはいえ、あなた達の土地に無断で踏み入れたことは、お詫びします。ですが、先程の龍の主人に、こちらの大切な人を連れ去られてしまい困っていました。何かご存知ですか?」


 「知らん! 人の土地で勝手な事をするな」


 刀の柄を握りしめるシシアカ。それを見てベルマンは、肩車をしていたスピカを下ろし、左手のガトリングガンを構えた。


 「どうやら、話し合えないようですね。スピカさん、岩陰に隠れていてください。」


 急いで岩陰に身を伏せるスピカ。岩陰から頭をちょこっと出して、心配そうに二人の様子をうかがう。


 睨み合う2体の間に、落ち葉がヒラヒラと舞い視界を遮った。


 『ガガガガガンッ………』


 激しい銃撃が、森の中にこだまする。


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