第33話 東の国ハオの将軍 参
常に霧に覆われている東の国だが、今日のタオの都は一段と濃い霧につつまれていた。
雲海との境目さえおぼろげな霧の中に浮かぶ、白亜の宮殿。
大きな鏡が置かれた上座に鎮座するバサラと、対峙する様に集まった大勢の官僚達が、とても広い大広間で会議をしていた。
「今朝は、一段と濃い霧ですな。白龍様のご機嫌が、よろしくないのでしょうか」
ふくよかで人柄の良さそうな男が、上座の脇で外の景色を見ながら呟く。
この男の名は、ルカン。座る位置からして、将軍バサラに次ぐ権力者のようだ。
大広間から見える景色には、白龍が居る白い塔が霧を突き抜ける様にそびえ立っている。
「白龍が持つ龍玉の力が、勝ってきているのだ。くだらぬ挨拶はいい。何の用だ?」
バサラの言葉に、動揺するルカン。
「白龍様が、衰えてきたとでも!? 口を慎みなされ。お鏡の前ですぞ!」
官僚達が鏡の様子をうかがうが、鏡には特に変化は無かった。
そんな中、口髭をはやした勇ましい男が、バサラの前に向かい出て拳をついた。
この男の名は、ゲンブ。タオの国が誇る、龍騎士隊(ドラゴンライダーの戦闘部隊)の長である。
「バサラ将軍。お忙しい中、申し訳ございません。この度は、この国の中で不穏な動きがあり、真意を確かめたくお集まりいただきました」
『パンッ』
手に持った扇子を、威圧的に鳴らすバサラ。
「ほぉ~。“真意を確かめる”とは………?」
ゲンブの言葉に引っかかるところがあったのか、ドスの効いた低い声で返事をするバサラ。
脇に座るルカンは、冷や汗を流し動揺している。
ゲンブは臆する事なく、勇ましい声で淡々と話しを始めた。
「白龍様が禁止している機械、特に兵器の類が国内に出回っております。そして、我等“龍騎士隊(ドラゴンライダー部隊)”があるにもかかわらず、バサラ様は怪しげな機械を用いた戦闘部隊を準備していると聞きました。本日は、あの鹿面の家来は、お見えにならぬのですか?」
「シシアカの事か? この前、鷹狩りに行ってな…。大物を仕留めたので、皮をはぎ記念の品を作らせておる。ところで、我が禁止された機械を用いた戦闘部隊を準備しているとは、聞き捨てならぬな………、証拠は?」
「………皆が噂しております。国境付近で、帝国の飛行船の目撃情報があり、若き龍騎士(ドラゴンライダー)を調査に向かわしたところ、まだ帰ってきません」
言葉をしぼりだすゲンブ。それを嘲笑うように、返事をするバサラ。
「フンッ…。そんな事をして、何の徳があるのだ?」
「得ですか………。白龍様を打ち倒し、東の国々を自分の思い通りにしようとしているのでは?」
「バカな事よ。バルハラの東域を治める神龍。その白龍に我が仇なすなど………」
ギロリと睨みつけるゲンブ。
「お鏡の前で、白龍様に誓えますか?」
手のひらで、ゆっくり扇子を叩くバサラ。
『………パチ………パチ………パチ………パチ………』
長い沈黙が続く中、バサラはいっこうに鏡と対峙する素振りをみせない。
睨み続けるゲンブ。
脇に座るルカンは、膝の上に置いた拳を握りしめる。
ルカンの拳の上に、冷や汗が滴り落ちた。
『ピチャ』
口を開いたのは、バサラだった。何かを悟り覚悟を決めたのか、ゆっくりと落ち着いて話し始める。
「土地を治めるのは龍神の務めかもしれぬが、人を治めるのは我の務め。我が何をしようと、白龍にことわりをいれる必要はなかろう」
その言葉に、ルカンの顔が青ざめる。
『ドンッ』
乱暴に足を立て、立ち上がるゲンブ。そして、猛々しく叫んだ。
「その無礼な態度こそ、謀反の証! 皆の者、参れ!! バサラ将軍を、捕らえよ!!」
その掛け声に、タオの兵士が大広間になだれ込んできた。
突然の事に、騒然とする大広間。
ルカンをはじめ多くの官僚達は、頭をかかえ身を伏せ怯えている。
「鎮まれ!」
兵士達に取り囲まれてもなお、堂々と命令をするバサラ。武士の情けだろうか、ゲンブは兵士達に武器を下ろさせ、バサラの次の言葉を待った。
「言い忘れていた。鷹狩りの際に、若いオナゴと出会ってな。今、我の屋敷で静養しておる。ゲンブ隊長、そなたの愛娘は騎龍士であったな」
「チェ………チェンの事か………!?」
バサラの言葉に動揺するゲンブ。それは、人質をとられた事に他ならない。
「幼い頃より共に過ごしたが、相変わらずのおてんば娘で手に焼いておる。夕刻に、迎えに来てくれぬか? 支度をして待っておるので、今は兵をひかせよ」
「………承知した。皆のもの、さがるぞ」
歯を食いしばり苛立ちを抑えながら、兵士達と共に撤退するゲンブ。続くように、官僚達とルカンも大広間から出ていこうとしていた。
「ルカン殿。そなた、終始怯えておったな?」
「!?………ヒィッ」
そそくさと立ち去っていくルカン。
バサラは一人、大広間に残った。
「聞いていたのでしょう? 今なら、背後から容易に私を殺せますよ」
バサラが呟くと、背後の鏡に映ったバサラが屈折し、白龍の顔に変わっていく。
「我はな…、そなたに殺されても良いと思っておる。何故なら、そなたを愛しているからだ。しかし、他の者達も愛しておる。他の者達も、我を愛しておる。故に、我に従うのだ。故に、我はこの地を治めるのだ。そなたの言うように、人の理…、好きにするがよい。だがな…、理とは強き思いに傾く。そなたは、何に愛され、何を愛する?」
鏡に映った白龍の姿が歪み、もとの鏡のようにバサラを映した。
一切振り向くことなく、バサラは一人呟いた。
「年寄の戯言だ………」
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