第23話 聖地、ラ・グリシーヌ②

 ラ・グリシーヌの頂上にある、ワイバーン達が穏やかに過ごす楽園。

 スピカの案内で、スカイエルフの聖地にたどり着いたロンとハナ。

 そこはスカイエルフに伝わる慣わしで、エルフとワイバーンが出会い生涯を共にするつがいになる場所だ。


 「さっきはコルルがいたから、皆から威嚇されたけど。私達だけだと、全然警戒しないのね」


 「ホントだ。これじゃあ、帝国兵に捕まえられるのも無理ないな。ほら、ハナ見てごらん。あそこのワイバーンなんて交◯」


 『ペチンッ』


 突然ハナにビンタをされて、涙目で黙り込むロン。


 「ここで子供を育てて、家族をつくるのね。まるで、ワイバーンの楽園だわ。ところで、スピカちゃん。運命のワイバーンは、どうやって見つけるの?」


 「お互いが、自然に求め合うんだって。だから多分、スピカには出会えれないと思うの………」


 そうつぶやくスピカに、ロンとハナはついていく。


 「ロン、見て! ワイバーンの赤ちゃん! 角がなくてカワイイのね!」


 「ホントだ〜。何を食べているんだろ〜」


 何かの死骸に、貪りつくワイバーンの赤ちゃん達。

 死骸の胸元が、モゾモゾ動きだした。


 『ピギャーーー』


 胸を食い破り、真っ赤に染まったワイバーンの赤ちゃんが飛び出してきた。


 目が点になる、ロンとハナ。


 「スピカ。あそこのワイバーン、花の実を食べているよ。植物も食べるんだね。こんなの、本に書いてなかったよ」


 スピカは、一生懸命何かに手を突っ込み、モゾモゾまさぐっていた。


 「グリシーヌの実は、ワイバーンのお薬なの。消化できない種は、高く売れるんだよ〜。ほら!」


 「すっ………スピカ………。それ、ウ◯コだよね………」


 またしても、目が点になるロン。


 「ロン。その種を焙煎すると、とても美味しいコーヒーになるのよ」


 無表情に説明をするハナ。


 「へ〜〜〜。………へっ!?」


 ロンは、何かを悟り顔が青ざめた。


 しばらくワイバーン達を、見物して歩くロン達。

 しかし、スピカの運命のワイバーンは、いっこうに現れなかった。


 「もう…帰ろっか」


 もともとその気もなかったスピカだが、どこか淋しげであった。

 誰も口にはしないが、ここに来ることが誰の何のためになるのか、物思いにふけりながらコルルのもとへ下山していく。


 コルルのもとに戻った頃には、大陸の絶壁に日が隠れようとしていた。


 「お腹ペコペコだ〜。さあコルル、帰ろ〜」


 『コル………』


 いつもならロンを見ると、シッポを振って首を立てるコルルだが、元気が無くうつ伏せになってまったく動こうとしない。


 「どうしたんだよ〜。一人ぼっちにして、すねてるのか?」


 「どうしましょう。コルルが元気にならないと、飛行船に戻れないわ。もう…、お腹ペコペコ。朝の残りだけど、パンとジャムならカバンに詰めてきたけれど………」


 「スピカ。ビスケットなら、持ってきたよ!」


 「それは、乾パンだよ。しょうがない、コルルが元気になるまで、野宿にしますか………」


 「キャンプ、キャンプ♪」


 お湯を沸かし始めるハナ。パンにジャムを塗りながら、ハナが何を作るのか心配げに見つめるロン。

 スピカは、グリシーヌのツルを編み器用にベットを作り上げていく。


 ラ・グリシーヌの片隅に、ランタンの小さな明かりが灯る。

 やがて沢山の星が空を撫で、3人の影がランタンの明かりとともに消えた。


 スピカの作ったベットで、眠りにつくロン達。


 『キュルルルル〜〜〜』


 空腹で目が覚めたロン。

 しかし、起きたところで何も食べるものがない。ただひたすら、スピカの作ったチクチクするグリシーヌのベットの上で、落ち着く体勢を探す。

 いっこうに落ち着かないロン、目をつぶり耳を澄ますと、かすかに話し声が聞こえてきた。


 「あなたも、淋しいの?」


 夜空には、真っ赤な満月(恒星になりそこなったガス惑星)が、ぼんやり浮かんでいる。

 赤き月の明かりに照らされて、スピカがコルルの隣にチョコンと座っていた。


 「ワイバーン、こんなに沢山いるのにね。何で、一人ぼっちなんだろ。スピカも淋しい………。ステラねーや、ロジャーがいるのにね」


 じっとスピカを見つめるコルル。

 スピカもコルルを見つめ返す。

 時折グリシーヌの実を、コルルの口の中に放り込むスピカ。

 その光景はまるで、こっそりお話をしている様だった。


 邪魔をしないように、寝たふりをするロン。


 満月の下、少女とドラゴンの静かな夜が更けていくかに思えた………。



 『ダダダダダン ダダダン』


 静寂を撃ち破る銃撃音。


 『アギャー ギャー (ザワザワ)』


 ラ・グリシーヌのワイバーン達がざわめき、一斉に飛び立った。


 『何!?』


 飛び起きるロンとハナ、声もそろい驚き見つめ合う。お互いこっそり起きて、スピカとコルルの様子を見守っていたのだ。

 怯えるスピカは、コルルの体にピタリと身を寄せている。コルルは銃撃音が聞こえてくる雲河の先を、じっと睨みつけていた。


 『ブォォォォンッ』


 突然の突風。

 雲河の中から長くうねる生き物が、スピカとコルルの前を飛び去り、赤き月を横切っていく。


 『ブォン ブォン ブォン』


 舞い上がったスピカの柔らかい髪がフワリ肩についた途端、次の何かがスピカとコルルの前を飛び去っていき、スピカの髪がもみくちゃになった。


 「スピカ、大丈夫!?」


 驚き、まん丸お目々でうなずくスピカ。


 「いったい、何が飛んでいったの!?」


 「後のは、ワイバーンだ! しかもコルルと同じ、体が改造されて金属が鈍く輝いていた、帝国軍のドラゴンだよ」


 「最初のは?」


 「あそこに飛んでいる。龍………、青い龍!」

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