第8話 暗闇に蠢くもの

 嵐の目、

 それは雲海の底、暗黒の世界への入口。

 ロン達は、得体のしれない気配が蠢く暗闇の中へ歩み出ようとしていた。


 『グルルルルゥ〜』


 「コルルが威嚇している。暗闇の中に、何かがいるんだわ」


 「不気味だな〜。やっぱり、コルルの体力が戻るのを待って、空からヨルムンガンドに向かおうか…」


 「ダメよ。空からでは、また深紅のフレアの襲撃にあいます」


 「では、歩いてフォール・ダウンまで行き、断崖絶壁に沿って北上するとバルハラ大峡谷があります。そこから地上にあがりましょう。長丁場になりますが、この不気味な気配…。何にせよ、道に迷うのは命取りです。方向は、こちらでよろしいので?」


 ハナの教育係をしていただけあって、ベルマンは地理にも精通しているようだ。しかしヨルムンガンドの方向がわからず、ロンにたずねかけた。


 「あ…あぁ…。フォルミーの街がある断崖絶壁は、東向きなんだ。だからお昼を過ぎると太陽が断崖絶壁に隠れて暗くなる。フォルミーを飛び立った時に日が陰っていたし、フォルミーから東に飛んだ所に嵐があったんだ。あそこを見てごらん、雲の縁に日差しがあたって明るいだろ。なら…、こっちだ」


 ロンは空を見上げ、輝く雲の縁を指差す。そこからゆっくり手を下ろし、今度は反対側を指差した。


 「素晴らしい。君は優秀だ」


 「えへへっ。そうだ、明かりをつけていこう」


 ベルマンにおだてられたロンは、カーゴパンツのポケットから手のひらに収まりそうな小さなランタンを取り出した。


 「刺激を与えるとエネルギーを放つ、エレキタイトのランタンですか。私の動力源と同じ高価なものですが、何処で手にいれたのですかな?」


 「俺は、タイト鉱物を掘り出す鉱夫だぜ。明かりも常備しているし、他にもマグマタイトのコンロだって…。あれ、家に忘れてきちゃった」


 コルルが美味しそうに、ロンのランタンを覗き込んでいる。


 「コルル。コレは、餌じゃないぞ」


 ロンが、ランタンをクルッと回して引き伸ばすと、ポワ〜ンとやさしい光が暗闇を照らした。

 すると、この世のものとは思えない光景があらわれた。


 (ギョロ ギョロ ギョロ)


 「うわーーーっ」「キャーーーッ」『アギャーーーッ』


 ランタンの明かりに無数の目が反射し、こちらをギョロギョロと見ていたのだ。ロンとハナは思わず叫び声をあげ、コルルが口を大きく開けて威嚇をする。


 『キキキキキキッ』『バサバサバサ』


 無数の目はロン達の声に驚き、けたたましい鳴き声をあげて飛び去っていった。


 「ふへ〜ん、何だったの!?」


 「分からない…。コウモリみたいな…。ドラゴンみたいに、口が裂けていたような。とにかく目玉がデカかった…」


 「さいわい、臆病者でなによりでした。さあ、行きましょう」


 『え…行くの?』


 ロンとハナの声がそろう。


 「何か? ただの小物です」


 『あ…、うん…』


 ベルマンは、平然とランタンを右手で拾い上げ、先頭を歩き出した。

 その後をロンが顔を引きつらせながら続き、ロンのジャンパーの裾をハナが掴んでついていく。

 興奮がさめないコルルは、キョロキョロと周囲を見回しながら威嚇を続けた。それもそのはずである、コルルの視線がそれた途端に、暗闇から大きな目玉がパチリと開き、彼らの動きを凝視するのであった。


 『キキキッ』


 不気味な視線と鳴き声に追いかけられながら、暗い街道を進む。

 建ち並ぶ廃墟には、生活の痕跡が感じられず、人が住まなくなってから相当の年月が過ぎているようだ。


 「この建物の建築様式は、ヨルムンガンドや帝国の古い宮殿工法に似ていますね。しかも、とても綺麗な石のつなぎ目です。これほど優れた技術は……(!?)あの装飾は、東の国タオの文化とよく似ていますね! 何という事でしょう。ここは、ありとあらゆる文化が、入り混じっております。いや…全ての文明の、源流なのでは………」


 普段なら退屈であろうベルマンのうんちくが、気を紛らわしてくれる。


 『キキキキッ』


 「ひっ!? ベッ、ベルマン」


 徐々に増す気配。

 ハナがベルマンを呼び止めた。


 「どうなさいました?」


 「ちょっと、後ろも照らしてみて…」


 「臆病で小物な目玉コウモリなど、心配ご無用です。」


 ランタンを、後ろにかざすベルマン。


 (ギョロリ)


 コルルよりも一回り大きな目玉の怪物が、こちらを凝視していた。

 ゆっくり開かれる巨大な口。そこには、刺々しい歯がびっしりと並んでいる。


 「キャーーー!」


 甲高いハナの叫び声。恐怖で身体が硬直し、動けなくなっている。

 ロンは、すぐさまハナを抱きかかえコルルに飛び乗った。


 「冗談じゃね〜ぜ! コルル、ハッ!」


 威勢のいいロンの掛け声に、コルルが走り出す。ロンがのばした出に、ベルマンが掴まりコルルにしがみついた。


 『ギギギギギッ』


 ワイバーンのコルルですら、ロンの小さなバラック小屋ほどの大きさがあるのだ。そのコルルを一飲みに出来そうな口を開け、けたたましい鳴き声をあげながら追いかけてくる。


 「ベルマンのバカ! 何が臆病な小物ですか! 目玉の親分が怒ってきましたよ!」


 「そんなことおっしゃられましても…。おそらく怒っているのではなく、お腹をすかしているのでしょう」


 「もっと、よくありません!」


 ランタンの明かりでわずかに見渡せる程度の街道を、猛スピードで駆け抜けていく。

 街道の床は、ランタンの明かりを反射する白く綺麗な化粧石だ。それが突然途切れる。

 

 「すっ、ストップ! コルル、止まれ!」


 「止まっちゃダメです! もっともっと、よくありません!」


 「違う、この先、街道が途切れてるんだ」


 『ズズズズズ〜〜〜』


 街道は冠水し、その先は湖になっていたのだ。

 コルルは、既の所で止まることが出来た。


 「コルル、炎だ!」


 『アギャー ボォォォ〜』


  僅かに怯む、目玉の怪物。


 「なんて事! 道が湖に沈んでいるの!?」


 「目玉の怪物と湖に挟まれ、逃げ場がありませんね…。おや!? 水面が輝いています」


 湖の水面が、虹色に輝き出した。

 やがて輝く水面が膨れ上がり、巨大な水柱が立ち上がる。


 『ドドドドドド  ドッパーーーン』


 巨大な胴体をたなびかせた龍が、水柱を突き破り現れた。

 虹色に輝く、たてがみの様な背びれ。細長いオール状のヒゲを何本も垂らし、その先端がチカチカ輝いている。


 「ま…、マジかよ…」


 思わず弱音をこぼすロン。


 暗い雲海の底、

 目玉の怪物と巨大な龍に挟まれ、絶体絶命のピンチに見舞われたロン達。

 はたして、目的地のヨルムンガンドへ無事たどり着くことが出来るのだろうか…。

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