2-5.

「で、闇属性持ちってことは、召喚魔法陣でも買っていくのか? お前らに緊急招集あった時、お嬢ちゃんも強制連行だろ? 護衛向きな召喚魔法陣も売っているぞ」


 ラニエリ様が何やら作業をして、数分待って返された私のステータスカードは、上に白いラインが走っていて、あとは薄ピンクに染まったカードへと変貌を遂げていた。そして称号の欄が、「神子 九級冒険者」と追加されていた。冒険者ランクは十級からあるのだが、主に十級は街中の雑用のみの身寄りのない未成年向けらしい。私みたいに保護者のいる未成年だったり、成人してから冒険者ギルドに所属した人は九級から始めるらしい。


 余談だが、この世界の成人は、種族ごとに年齢が違う。寿命とも割かし密接に関係している。普人族の寿命は100歳弱、成人は15歳。獣人族の成人は普人族と同じ15歳だが、寿命は300歳前後。山人族ドワーフは成人は50歳、寿命は500年ほど。森人族エルフも成人は50歳だが、寿命は1,000歳くらいだ。

 では竜人族は、というと成人は100歳、寿命は3,000歳前後。最長寿は精人族と言われていて、成人は100歳だが、寿命は5,000年ほどだ。

 つまるところ、私の成人は100歳ということになる。あと90年経たないと、リオ様と結婚も何もないな。それでいいんだろうか、とは思うが直接問うことはしていない。そこまでの関係を築けたとは思えないというか、ちょっと鬱陶しいけれど距離感を掴めていないというか。リオ様はどう思っているんだろう……?


 そんなことに意識が逸れていたら、ラニエリ様が気になることを言った。それは皆にとっても同じらしく、代表してアマデオ様が口を開いた。


「そっか、召喚魔法陣という手があったね。すっかり忘れていたよ。ラディ、召喚魔法陣について詳しい?」

「いえ、使おうと思ったことがなかったので、あまり知りませんね。でも有効な手段ではないでしょうか。マリア様の護衛が手に入るなら、安い買い物ですし」

「気になるなら、魔法士ギルドが出している召喚魔法陣のカタログ本、買ってけ。召喚魔法陣を買う奴ら向けの本で、内容は悪くない」


 すっかり召喚魔法陣とやらを買う気になっていたリオ様や他2人に、商売上手なラニエリ様はカタログを勧めてきた。ラニエリ様は「ちぃっと待ってろ」と言い置くと、席を立ち奥へと消えていった。少しして、薄いカタログ1冊を何故か私に渡すと、しっしっと追い払うような仕草をした。


「いつまでもカウンターに居たんじゃ邪魔だ。今日のところは帰れ。ああ、その冊子1冊で銀貨1枚だ」

「そうですか。はい。では、確かにお支払いしましたよ」

「まいどあり。召喚魔法陣が欲しいなら、明日の午後来い」

「分かりました。助かりました、ラニエリ殿。では、また明日」


 ラディ様が銀色のコインをラニエリ様に手渡しているのを見ながら、そういえばこの世界の貨幣事体を知らないし相場も知らないな、と気付いた。これも勉強だろう。出来れば、勉強用のノートとペンも欲しいな、と思考を逸らしながら、アイテムボックスに冊子を仕舞った。

 アイテムボックスは、仕舞いたいと思えば手に触れていると仕舞えて、出そうと思う時は思い浮かべれば取り出せる。ただし、手の上に。仕舞っているものがたくさんあって、忘れてしまっていても問題はない。脳内検索というか、一覧表が他人には見えない半透明なディスプレイが目の前に現れる。思うままに動かせるそれをつかって、アイテムボックスの中身を確認できるのだ。なお、そのディスプレイには上に1本のラインがあって、今アイテムボックスの容量をどのくらい使っているか視覚的に表してくれている。現在の私は、アイテムボックスの使用容量はだいたい1割程度。まだまだ入る。というか、かなり本を持ってきたのにまだ入るとは、どのくらい入るんだろうか。


 冒険者ギルドの1階に降りた際に、3人の偉業らしきものを知る人――つまりは3人のファンに見つかって囲まれかけては人を吹っ飛ばして出てくる、なんてギャグ漫画みたいなことをする人達と共に、無事かどうかはともかく冒険者ギルドの外に出た。ラディ様が「これではまだ甘かったですか」とぶつぶつ呟きながら、何やら闇属性魔法を発動しているらしい。気配を薄くして、他人からの視線を遮る魔法だ。なお、冒険者ギルドはそれなりに手練れが集まっているから、あまり効果なかったようだ。

 リオ様と手を繋いだまま、のんびり歩いているとアマデオ様が話しかけてきた。


「中途半端な時間だし、せっかくだからトゥルスの街の観光でもする? マリアちゃん、宿と城壁外の往復しかしていないし」

「でしたら、私は別行動で買い出しに行ってきます。そろそろマジックバックの中身が尽きますので」

「俺のステラ、どうしたい? 俺はお前がいるならどこへでも行くが」

「ならお買い物についていきたいです。貨幣と相場を知らないと気付いたので」


 リオ様が、驚いたように目を見開いていたが、私としては世間知らずのままでいたくはない。貨幣や相場について知らないから、ちゃんと知って正しい金銭感覚を身に付けたい。


「神子の塔を出る時に、金色のコイン1枚と銀色のコイン10枚、あと銅色のコインがたくさんと、黒っぽいコインが更にたくさんを神様から頂きました。これはお金だと思ったのですが、合っていますか?」

「合っている。それぞれ、金貨、銀貨、銅貨に鉄貨だ。他にも鉄貨以外は、半月型のものもある。今、どこに持っているんだ?」

「鉄貨の一部だけ、小袋に入れてカバンに入れています。他は全部アイテムボックスです。お金なら、落としたら怖いと思っていたので」

「それが正しい。今後もそうしてくれ」


 リオ様にこの世界の貨幣を教えてもらった。貨幣は、国をまたいで移動する人が多すぎて世界共通の貨幣を使っているらしい。というか、ダンジョンという魔物が出てくるスポットがあり、そこから出てくるコインを貨幣として利用しているらしい。つまるところ、神様から支給されたお金を使っているようなものだ。

 貨幣と価値、たぶん日本円に換算した価値はだいたい以下の通り。なお、イェンはお金の単位らしい。円と似てるね? 先達の気配を感じるのは気のせいだろうか。


 鉄貨1枚=1イェン=10円

 半銅貨1枚=鉄貨50枚=50イェン=500円

 銅貨1枚=半銅貨2枚=100イェン=1,000円

 半銀貨1枚=銅貨50枚=5,000イェン=50,000円

 銀貨1枚=半銀貨2枚=10,000イェン=100,000円

 半金貨1枚=銀貨50枚=500,000イェン=5,000,000円

 金貨1枚=半金貨2枚=1,000,000イェン=10,000,000円

 白金貨1枚=金貨10枚=10,000,000イェン=100,000,000円


 半銅貨1枚で丸パン1個、つまり500円らしい。ちょっと高くないか、と問えば庶民はもっと安い黒パンを食べるらしい。この黒パンがだいたい鉄貨5枚から10枚くらいらしい。開きがあるのは、大きさや使っている小麦の差だそうだ。

 私はまだ食べたことがないが、屋台の食べ物は鉄貨20枚から半銅貨1枚くらい。これは値段も味もピンキリだが、結構グルメに楽しむなら屋台制覇もありよりのあり、らしい。やっぱり当たりはずれはあるけれど。

 安い風呂もない宿に大部屋の雑魚寝、素泊まりで、だいたい銅貨1枚。個室の素泊まりで、だいたい銅貨3枚から5枚。

 今、私達が泊まっている風呂こそないが個室がしっかりしていて中級から高級にあたる宿に朝食付きは、半銀貨1枚ほどだそうだ。私とリオ様はダブルベッドで1部屋なので、半銀貨1枚と銅貨20枚くらい。


 色々と相場を聞いてみたが、だいたい1イェンは10円換算でよさそうである。ちょっと半銅貨や半銀貨の扱いが面倒くさそうだが、まあ使い勝手も悪くないんじゃないだろうか。


「お買い物の前に、腹ごしらえしようよ。僕、あの屋台にしよーっと」

「あ、アマデオ様、勝手に行かないでくださ……あああ」

「いつものことだ。俺のステラ、どれを食べる?」


 自由だな、アマデオ様。まあいいや、と私は美味しそうな匂いのする方向へリオ様を引っ張っていったのだった。なお、ここで手を放す愚は犯さぬ。絶対に迷子になるのが目に見えている。さて、あの匂いは何の屋台だろう、と私はうきうきしながらリオ様を早く、と更に引っ張った。


**********

神様(いくら塔を出てすぐが街になっているとはいえ、お金がないと困っちゃうよね。この子は良い子だからたくさん入れておこう。このお金を使い切る頃には独り立ち出来てるだろう)

主人公「なんかコインがじゃらじゃら入ってた」

3人(めっちゃお金持ってた。誘拐されちゃう……!)

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