第32話 決行
朝、いつもどおり支度を始めた。
朝食を済ませ、顔を洗い、服を着替える。
武器の状態を確認し、忘れ物がないかバックの中を確認する。
一つ一つ、念入りに。
そして確認し終えたらそのバックを背負い、階段を降りる。
一段また一段と降りるたびにギシ、ギシと木がきしむ音がなる。
リビングに行くとそこには支度を終えたみんながいた。
まだ集合時間前なのに、俺が一番遅かったみたいだ。
「これで全員集まっちゃいましたね」
ふふっとその言葉に皆、笑みが零れるが、一息置いてまた静寂になる。
「・・・行きましょうか」
シオンの呼びかけに応じて皆、ゆっくりと扉に向かって歩き出す。
みんなの緊張が空気を通して伝わってくる。
「皆さん、準備は良いですね?」
ドアノブに手をかけたまま振り返ったシオンは真剣な眼差しでこちらを見つめるが、その心配は杞憂だ。
「はい!」
まだ朝は早いというのに既に皆の準備は万全。
威勢よく返された返事とそれぞれの表情を見て、シオンは「うん」と呟く。
皆、覚悟は決まっているようだ。
「それでは・・・!」
ガチャリと扉が力強く開かれる。
「行きましょう王宮へ」
/////
そこは数多くの衛兵たちに守られ、精霊国アイルでも一番安全な場所と言ってもいいだろう。
王宮は高い壁に囲まれ、入り口は正面の門と王宮にいた事がある者しか知らない裏口の二つ。
流石にどちらも警備は厳重だが、俺たちはシオンについて行って、グラジオに人員を割いて裏口の警備が薄くなった瞬間を狙う。
そして、昨日も言ったとおり、ここでグラジオ、ミリア、ツバキとは別行動だ。
「皆さん、お気をつけて」
「グラジオさんとミリアも無事に戻ってきてくださいね」
「はい、任せてください」
二人とぎゅっと手を握り合う。
拭いきれない不安な気持ちを隠して、俺たちは二人を見送る。
「師匠、お願いしますね」
「ああ、任せろ」
いざというときは師匠がいる。
それだけで少しは安心できる気がする。
「また後で会おうな」
そう言って二人の後を付けるようにして師匠もいなくなってしまった。
「行っちゃいましたね」
残された三人は彼女らの姿が見えなくなるまで、その方向を見続ける。
「それじゃ、私達も行こうか」
「・・・はい」
こうして俺たちも王宮の裏口に向けて出発した。
/////
長い間、この街を見てきた。
私が生まれ育ち、剣術を学び、騎士として国に仕え、ミリア様に護衛騎士として選ばれてからもずっと。
ここはいい街だ。
人々が助け合い、暮らしている。
だが戦争はそれを一瞬で消し去ってしまう。
この街の緑も、人々の笑顔も。
そして、ミリア様が好きなこの景色も。
絶対にそんなことはさせない。
この身に変えても。
「グラジオ、着きましたよ」
「はい、お嬢様」
そんなことを考えていたら、もう着いてしまった。
目の前には見慣れた門。
今まで何度ここを通ったことか。
「お前たち何者だ!」
一人の衛兵のその声に合わせて一斉に他の衛兵たちからも武器を向けられる。
まさか故郷で武器を構えられることになるとは人生何が起こるかわからないものですね。
ミリア様の一歩前に出て高らかに宣言する。
「お前たちこそ、この国の王女ミリア様に武器を向けるとは何事だ!!」
フードを取り、ミリアはそのお顔を顕にする。
「なっ、王女様、それにグラジオ様!?」
「そんなバカな。二人はもう亡くなったのでは・・・」
まるで死人を見るようにして怯える衛兵たち。
ザク様、やはりそういうことにしてましたか・・・
死んだものとして扱われて良い気分はしないですね。
「今すぐお兄様に会わせなさい」
カイン様たちといらっしゃるときではお見えになられない、王女としてのミリア様。
凛々しく、まだ幼いにも関わらず、風格は既に王そのもの。
流石でございますお嬢様。
「は、はい直ちに!」
腰が抜け、それでも急いで呼びに行こうとする衛兵。
だが、
「その必要はないですよ」
忘れるはずない透き通った声。
私の部下を殺した暗殺者を雇った張本人。
ミリア様と同じ白い髪に緑の瞳。
この方こそが・・・
「お久しぶりですお兄様」
「ああ、久しぶり。愛しの我が妹ミリアと・・・」
「グラジオ」
「はい、お久しぶりです」
「ザク様」
きっと衛兵たちには伝わらないだろう。
たった一言のこの挨拶に込められた圧を。
さすが良くも悪くもあの国王様のご子息だ。
「まさかまた会えるとはね。ここで立ち話も何だ、中でゆっくり話そう」
ザクに招かれるまま、王宮の中に入っていく。
さあ、ここからですよ自分。
常に警戒し、想定しろ。
ここはもう私達の家ではない。
敵の本拠地だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます