第16話 ダンジョン開始

 ダンジョンに潜る日の前日、俺達は作戦会議を開いた。

 主に仕切るのはダンジョン攻略の経験があるグラジオだ。


「ダンジョンではこれまでとは少々違った戦い方をしなければなりません。まずダンジョンの構造上、殆どが洞窟になっているので広さがだいぶ限られた中での戦闘になります」


 グラジオいわく、狭い場所での戦闘では連携が何より重要になるという。

 なぜかというと、簡単だ。


 味方の魔法に当たるからだ。


 いつも狩りを行っている場所などでは、たとえこちらに向かって魔法が間違って放たれたとしても急いで避けられるくらいのスペースが存在するが、洞窟の中ではそうはいかない。


 ダンジョンあるあるで言われるほどよくある現象らしい。

 前衛に魔法があたって戦闘不能になり、後衛しかいなくなったパーティーは全滅。

 想像しただけで体が震える。


 そうならないためにダンジョンでは魔法を放つ際は退く。

 魔法が放たれてから仕掛けたりと基礎的な連携をより決めておかなくてはならないんだ。

 死にたくないからな。


 まあ、そもそもそれを除いても死亡率が特段に高いのがダンジョンというものではあるのだが。


 武器や防具に使われる鉱石が育つ場所は魔力濃度が高い傾向にある。

 濃度が高ければそれだけ強力な魔獣が育つし、その魔獣を倒せばいいサイズの魔核が手に入る。

 ときにはその魔獣に敗れていった冒険者たちの装備も手に入ってしまう。


 もちろん、対策を怠れば次は自分たちがその装備を落とす側になるが、それでも死ぬ可能性が高いのに人気なのはこういった仕組みがあるからだ。


 ただ、意外なことに女性冒険者にはあまり人気がない。

 なぜかというと。


「ちなみに出現するモンスターはもちろん昆虫系だ・・・」

 モモ、ミリアから悲痛の叫びが聞こえる。


 そう、洞窟のような薄暗い場所に出現するモンスターと言ったら、決まっている。

 簡単に言えば巨大化した虫が襲いかかってくるんだから俺でも流石にビビるし、女性だと平気な人は限りなく少ないだろう。


 それが極度の虫嫌いのモモとミリアの前に現れてみろ。

 目の前に虫が現れた瞬間、二人は炎系の中級魔法で消し炭にするんだ。

 じゃあその何倍も大きい昆虫系の魔物が現れたらどうなるか。

 前衛の俺たちごと燃やされる。


 さっき、狭くても味方に魔法を当てるやつなんてなかなかいないだろって思ったやついるだろ?

 俺たちも普通に戦うなら、狭いからといっても当たることは滅多にないと言っても良い。

 ここに来るまでそれなりには一緒に戦ってきたんだからな。


 だが本当に昆虫系は別なんだ。

 彼女たちは退く猶予もくれずオーバーキルしようとムダに威力の高い範囲広めの魔法で完璧に消滅させようとするのだ。

 そんなの巻き添えを食らうに決まっている。


 それがわかっているからこそ、グラジオは一日連携の確認をする時間をとったのだ。

 ありがとうグラジオ。


「それでは、さっそくはじめましょう」

 ということでさっそく連携の練習が始まった。


 ///


「退いてください!」

 グラジオの合図とともに前衛にいた俺とツバキがモモとミリアの後ろまで下がった瞬間、二人の魔法が放たれる。


「よし、大丈夫そうだね」

 近くに昆虫系のモンスターが出現するエリアがあったので、そこで実際に遭遇したときの場面を想定して何度も前衛が退いてから魔法を放つ練習を行っていた。


 最初はやはり、現れた瞬間に高火力の魔法を撃ってしまっていた。

 もちろん少し巻き込まれた。


「やっと終わったあ」

 その場で座り込む二人。

 それもそうだ、何十回とやり直したのだからな。

 君たちのおかげで。


「これで明日は安心してダンジョンに潜れますね」

 モモはそう言っているが、前衛の俺たちは全く安心していない。

 洞窟のほうがさらにキモい昆虫系モンスターが出るのは目に見えてわかる。


「・・・」

 そう想像しただけで震える。

 今日のが意味なかったらどうしようって。


 正直、彼女らの前をダンジョンで歩きたくないさ。

 でもだからといって、魔術師に前を歩かせるわけにはいかないだろう?


 ・・・今回の攻略はきっと今までになく危険なものになるだろうな。


「 明日に向けて、しっかり!休んでくださいね」

 と今までになく必死なグラジオ言われて、今日のところは解散した。


 ///


 ダンジョン攻略当日


 流石に楽しみより不安が勝ってあまり眠れなかったが、準備は万端。

 宿を出て、一時間ほど歩いた先にある岩壁に空いた大きな穴。

 ここが今日俺たちが攻略するダンジョンだ。


 生きて返ってこれるのだろうか。

 まさか味方のせいでここまで不安になるとは思いもしなかった。


「・・・それでは行きましょう」

 先頭を務めるグラジオがダンジョンへの一歩を踏み出す。


「ダンジョン攻略開始です!」

 こうして俺達の初ダンジョン攻略が幕を開けた。

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