欲望と権力と竜と地獄と天上と宇宙

@akatsuki0505

第1話 Happy Birthday Again

工科大学のある研究室。


無数の研究材で囲まれた机に座った男は、何かを観察し、記録しながら忙しく動いている。


数日間頭も洗わず、寝ず、食べ物も時間に追われながらプロジェクトに没頭した彼の格好は、それこそ広場に出れば紅海の奇跡が繰り広げられるようなものだった。


「···」


その上、プロジェクト期間中に外出も人との出会いも全くなかったため、彼の口はただ彼が生きていく最小限のエネルギー源を彼の体の中に入れることだけに使われていた。


「···」


紙をめくる音と筆記具を転がす音、そして彼の身体が生理作用をする音だけが支配する沈黙の空間。


「もう…絶対無理だ…」


久しぶりに流れた彼の声はすぐあくびにつながった。


机に置かれた数多くのカフェイン飲料の死体を見ると、ふと過ぎた時間が思い浮かんだ。


ワーカホリック気質が多分な彼の性向と高い知能が相まって、多くの学問的成果を成し遂げ、彼に博士という地位を与えたが、一方ではこのように一度没頭し始めれば、日を忘れて時間を注ぎ込んで体を壊したり、人々との縁を疎かにしたりもした。


携帯電話をつけてみたら、夜中の2時。 数日間かかってきた電話やメッセージとは、たかが広告やボイスフィッシングが全てだった。 いつも自分自身さえ面倒を見なかった彼だったが、自分の身体が限界に達したことを明確に知っていた。


物体が二つに見えて心臓が痛かった。 久しぶりにプロジェクトから目を向けたら全身が悲鳴をあげていた。


たった2時間だけ睡眠を取ることにした。 効率的な睡眠のために自分が直接作った薬を投与し、研究室の片隅にある簡易ベッドに体を横たえた。


何だか危ない気がした。 久しぶりに活動を終了することになった儀式が、眠りの向こうのどこかに吸い込まれる感じがした。








単に睡眠不足で説明しにくい、不思議なほど重いまぶたを開けた。


多数の生命体が自分の前に立っていた。 何人かの人々が武器を持って向こうの奇怪な生き物と対峙していた。


彼らの口はぴくぴく動いたが,話し声は聞こえなかった。


体が勝手に動いている感じがした。 まもなく自分のものなのか不明な声が意識の向こうから聞こえてきた。


シアが回復すると、前に立っていた生命体からこちらへの無数の視線が飛び込んできた。恐怖や戸惑いといった感情が込められていた。


すぐまぶたが勝手に閉じた。


意識は再び深淵に沈んだ。








再び目を覚ました。


今度はすっかりさっぱりした。 分からない記憶の中にあったそれは、確かに単なる夢だったと思った。 しかし、周りを見回した彼は、まだ自分が夢の中にいると思った。


視野に閉じる全ての所が浅い草や土で覆われていたためだった。


しかし、そうするにはあまりにも生々しかった。 褐変していく色の草地だけでなく、身体を包む日差しまでも明確な現実感があった。


まさに「草原」という単語がぴったり合うところだった。


彼の脳は今この状況に対する正解を探していた。 そして出した結論は···


自分が死んだということ。 彼が心の中で想像した「死」という単語のイメージに比べれば、平和な風景だった。


心の片隅に置いてきた、狂って仕上げられなかった最後のプロジェクトが気にかかったが、それさえも今は他人事になってしまった。


そこまで思い付くと、自分の姿を見て回るようになった。


まず、自分の体が小さくなったこと、そして肌が非常に暗くなったことを感じることができ、生前接したことのない変な服を着ていた。


何か中世風の服のような赤褐色の服だった。 手触りがとても柔らかくて高級品だという気もした。


自分の身体に違和感をもう一つ感じた。 ここの日差しはかなり激しく、今頃汗をたっぷり流すほどでもおかしくないはずなのに、体感としてはただ気持ちよく暖かい水準だった。


太陽を正面から見てもまぶしくなく、身体感覚も非常に軽く感じられた。 後は体が小さくなったせいだろうか。


その時、地面が震え、馬のひづめの音が聞こえ始めた。 音がするところを見ると、ある群れが非常に速い速度で走ってきていた。


とても遠い距離から走ってくるが、不思議なほどはっきりと見えた。


5人の男が馬のような形をした動物に乗って走ってきていた。 確かに馬と似ているが、極限に凶暴に見える姿だった。


その上、男たちの体格も非常に大きく、名も知らぬ獣の毛と皮で作った服と帽子を着ていた。


自分の視力にも驚いたが、このように遠い距離を瞬時に走破する彼らの乗馬術にはさらに驚いた。 馬のような形をした動物の走行実力が優れているのか?


あっという間に自分の前に着いた男たちが声をかけた。


「おい、坊や。 こんなところで何をしているのか?」


確かに初めて聞く言語なのに意味を把握することができた。


「あの、ここはどこですか?」


初めて聞く自分の声が非常に高く、まるで幼い子供の声のように聞こえた。


自分もやはり自然にその初めて聞く言語を利用して対話をすることができた。


自分の話を聞いた男たちが妙な表情になった。


「そうか。迷子か。 俺たちの部落に連れて行ってあげよう。」


あの世だと思ったら。 そして、この者たちも自分を迎えに来た死神たちだと思ったが、そうではないようだ。


凶悪な馬に乗った巨体の戦士たち。 裏通りで会えば小便から出る相手だったが、不思議なことに信頼ができた。


その上、信頼しないとしてもここがどこなのかさえ知らない彼に他の選択肢もあるはずがなかった。


「失礼にならなかったら…」


「ちびっ子を守るのが大人の義務だ。 俺はアイルだ。 こいつらはデミル、ヘシール、レザン、イエルだよ。」


太い声を持つ、装備が周辺の男たちより華麗で大きな刀を持っていて、ぱっと見てもリーダー格のような男がしばらく馬のような形をした獣からしばらく降りて彼を乗せてくれた。


「ご紹介ありがとうございます。 俺の名前は…」


忘れた。生前の名前さえも思い出せなかった。


記憶をたどると、男たちが変な目で見た。


「すみません…···覚えていません。」


男たちの視線が訳の分からない童貞に変わった。




怖い馬はその体格と怪物のような外見にふさわしく、走行能力がすごかった。


あっという間に到着した彼らの部落は、自分が生前に知っていた遊牧民の部落とその形が似ていたが、確実に違った。


一番目立つのは、モンゴル式ゲルのようなテント型の建物の間で、一人で雄大な姿を誇る中央の巨大な建物だった。


「ああいう形の建物を遊牧民たちが建てたの?」


無視発言ではない。


放浪生活をする彼らがどうして、どうやってそのような建物を作ったのか。


よく見ると、その巨大な建物の頂上からは緑色の煙が噴出していた。


詳しくは分からないが、感じ的に何かを採取する建物のようだ。


巨大な建物の周辺にはその建物とつながる小さな建物があったが、中央建物から採取した何かを保存する建物だと思うと、ぴったりのようだった。


遊牧民たちが放浪生活をしながらもあんな建物を建ててまで採取しなければならないその何かについて、科学者として好奇心が湧いたが、逆にそのように必須的な資源ならば誰もが知っている資源であるようで聞いてみればバカ扱いされるようなものかもしれないという気もした。


アイル行が部族民に自分を紹介すると、人々の視線がさっきの男たちと似たようなものに変わった。


記憶がどうのこうのと言っているようだった。




大きなテント型の建物にアイル行をはじめとする部族民数人が集まった。


テントの中にはいくつかの大きなテーブルが2列に並んでいたが、一番奥には他のテーブルと垂直方向にテーブルが3つ置かれていた。部族の女性たちが内側のテーブルの中で中央テーブルで外地の彼を案内した後、部族民に順番に席を案内した。


彼の両脇にはアイルとその妻が座った。 アイルはこの部族の族長だと言った。


そして左側のテーブルの列の一番奥には、中学·高校生くらいの女の子が座った。 彼女の名前はネアだと言った。


その横にはエーテル、ベッテル、ガムラン、テルタイル、エプシレルという大きな体の男たちが座ったが、完全にそっくりな双子だった。


特異な点は、エーテルは胸に、ベッテルは左手首に、ガムランは右手首に、テルタイトは左足の首に、エプシレルは右足首にそれぞれ黒い点を刻んだことだ。


双子を区分するための方法だと思った。


その他にも部族の上位層のような者が多数集まった。


そして各自のテーブルには肉とチーズ料理が置かれていたが、内側の中央テーブルにだけ小さなパン一つが置かれていた。


黒いライ麦パンだった。


「近くの都市から得てきたんだ。」


エールの妻ネミールが言った。


ここの人たちは交易で時々パンを得てくるが、ここの遊牧民たちはパンを食べず、時々外部の人が入ってくる時にもてなす用に少量備えておいたものだと言った。


外部から来るお客さんを大切にし、手厚くもてなす文化は、前世で読んだ遊牧民の特性と合っているようだった。


「食べ物は口に合うかな? ここに来るお客さんたちは私たちの料理があまり好きじゃないんだけど。」


かなり元老のような者が尋ねた。 アイルの父親であり、全族長のネベルだと言った。


血を取り除かない肉のスープだった。。 コショウのような調味料を使わず、獣の腸のような部位も惜しみなく使った。 しかも、一度も食べたことのない種類の肉だった。 地球にはなかった動物である可能性も高い。 実際、生前の自分だったら喜ぶような味ではなかった。


しかし、ここに来る前の数日間の食事をエネルギーバーとコーヒー、そしてエネルギードリンクに代えてきた彼だった。


味はともかく、久しぶりにまともな食べ物が食べられることに感激するほどだった。


「はい、おいしいです」


「よかったね···ところで、、、、...多少不便な話かも知れないが...」


ネバーはややためらいがちだったが,慎重に尋ねた。


「君は自分の名前を知らないと言っていた。」


かなり同情的な言い方だった。


初めて会った時から彼らが見せたその反応の理由を今になって悟った。


見たところ、記憶を失った孤児だと思っているようだった。


生前、同情を憎悪より嫌っていた彼だったが、ここではもう少し同情を買うことがあっても、ここでついでに情報を得ておく必要を感じた。


それに見知らぬ所では余計な疑いや敵対感を買うよりは同情を受けるのが生存に有利かもしれない。


「名前だけではありません。 俺がなぜそこにいたのか、ここがどこなのかさえ覚えていません。」


予想通り、みんなから気の毒だという目つきが一層強くなった。 涙を拭く者さえいた。


「じゃあ私たちが名前を新しく作ってあげたらどう?」


レアが言った。


「それはいいね。 それは捨てた親への復讐にもなるね。 捨てた親がくれた名前を完全に消すという意味でね。 どうだ、ちびっ子?」


アイルは満面の笑みで言った。


「いいんです」


こうして彼は遊牧民から「アグド」という名前をもらった。


また、彼らから「ボルト」という部族名も聞いた。




夕食後、アグドはゲスト用テントに案内された。


簡素な暮らしと動物の毛皮で覆われているベッドが置かれたところだった。


アグドを案内した女性は、アグドに小さくて透明なキューブ型のものを渡した。


「私たちの助けが必要なら、その物に魔力を吹き込みなさい」


それを聞いて試しに魔力を入れてみた。 魔力は使い方を習ったこともないが、なんとなく使えた。


女性の持つキューブが鳴った。


「そうだよ。そう書くんだよ。 逆に私たちがあなたを呼ぶ時もこの物を使うよ。 では、ゆっくり休みなさい。」


そう言った案内人の女性はテントを出た。




アグドは一日で起こったことを頭の中で整理していた。


ここがあの世ではなく地球と違う世界であることもぼんやりと察していた。


昨日とは全く変わった環境で生きていかなければならないことを、研究室の前に時々訪ねてきた両親とも永遠に会えないことを、そして両親がくれた名前を捨てて新しい名前をもらったことを、その過程で罪のない両親に悪口を言われたことを。 これに罪悪感を感じ、心の中で合理化していることを感じ、心を落ち着かせていた。


そのように考えを整理していたその時、外で鐘の音が鳴った。




「奇襲だ!敵襲だ!」


一瞬にして騒がしくなった外の音にテントの外に出てみると、人々があちこち走り回っていた。


ネミールは混乱している彼に近づいた。


「驚いたの?寝ている時に起こしてしまってごめんね。 『ユウヤミ』たちが攻め寄せてきた」


「ユウヤミ?」


「夜にだけ現れる、頻繁に遊牧民を攻撃する怪物たちだ」


「それでは…俺は何をすればいいですか?」


「うん?何もしなくていいよ。 うちの部族がお客さんを、それも幼い子供を動員しなければならないほど弱い部族ではないんだよ。 私たちが戦う姿を見物でもする?」


この世界での戦い方を確認する必要があった。


「はい。いいんです。」




夕食の間ずっと笑ってヤグトの話に涙ぐんだりもした優しい女の子、ネアが弓を持って臨時望楼に駆け上がった。


双子5人が飛び出すと、巨大な魔法陣が繰り広げられ、彼らの姿が融合して巨人の形になった。


アイルと遊牧民が龍馬という恐ろしい形の馬に乗って走ってきた。 昼間に見た姿よりもはるかに凶暴になった姿の龍馬は口から火を含み、足跡ごとにすべてのポールを燃やしながら走ってきた。


ついに遠くから黒い影が見え始めた。 非常に醜い怪物たちだった。 感情が分からない恐ろしい顔から紫色の液体が流れ出た。


彼らは村に向かって猛烈に突進し,悲鳴に近い叫び声を上げていた。 いや、這ってきた。


ネアが先の鈍い矢一つを装填して弓を高く狙って撃った。 弓を放した瞬間、弓の前に魔法陣が展開され、矢がその魔法陣を通過すると三つになった。


三つの矢は遠い距離を飛んで夕闇の中に落ちた。


五つ子が合わさった巨人がテント型建物一つほどの巨大なハンマーを持って走り出し、その周囲にアイルの騎兵隊が突進していった。


ネアは三つの矢を放ち続け,彼らを援護した。 不思議なのは、矢が遊牧騎兵や巨人に当たると刺されずに避けていったことだ。


「アボイド·フレンドリー·アタック(Avoid Friendly Attack)」という魔法だという。




騎兵隊と巨人は嵐のように走り去り、敵を打ち砕いて悠々と帰還した。 破壊された夕闇は、地面に溶け込むように消えた。


初めて見る立場では本当に死んだのか、溶け込んだ奴らが再び飛び出して攻撃を加えるのではないかと気になったが、いつも見てきた人たちは何ともないようだった。


巨人が帰還すると再び巨大な魔法陣が展開され、五つ子に再び分かれた。


「ヨ、チビ。 よく見たか? この部族の力を」


アイルは馬から降りた後、尋ねた。


「立派でした」








「大天使長」


ウリエルが赤髪をなびかせて近づいてきて言った。


「何ですか、ウリエル?」


いつものようにいろいろ考えているような表情のミカエルだが、今まで作った表情の中で一番落ち着かないような表情だった。


「結局、あいつを地上に行かせたんですね。」


「仕方ないですね。 私たちの力では「リヴァイアサン」をどうすることもできません。 「彼女」がいるなら知らないだろうか。」


ミカエルはコーヒー豆をかんでいるような表情で言った。


「それに…」


「何ですか?」


「あいつの中に罪のない人間の魂が宿りました。 罪のない人間を害することは、天使ができることではありません」


ミカエルの口の中のコーヒー豆が10個は増えたようだった。


「相変わらずですね。 生真面目な方。 しかし、これによって天上と地獄のバランスが崩れるようになったら…」


「そうならないように、彼に人間の生を与えたのです。 人間たちと一緒に生きて、人間たちを理解し、人間たちと親和力を積めば······


もしかしたら悪魔から人間を守る守護者になるかもしれません。」


「どこへ送りましたか。」


「「龍の子孫たち」に送りました。 彼らは善良で強くて外部の人を受け入れる寛大な者たちです。


縁故地のない者が新しい人生を始める時に会う友達としてそれほどの者はいません。


それに、『龍の子孫』なら『龍族皇帝』の世話には申し分ありません。」


ミカエルは彼らの姿を思い浮かべながら言った。


「龍族皇帝と共にする龍の子孫たち…···まかり間違えば彼の戦力になることもありうるということを知らないではないでしょうか。」


「どうせそれだけの力を持つ者なら、いつかは巨大な勢力を持つようになるのが人間史の理です。


しかも…···今頃、その惑星の最上位の強者たちは、今まで感じたことのない強大な魔力源が地上に出現したことに気づいているでしょう。


ややもすると狡猾な誰かの操り人形になったり、不義なことに巻き込まれて真の悪の存在に生まれ変わるかもしれないことです。 それよりは善良な意図で保護してくれる強い者たちのそばに置くのが賢明でしょう。」


「地獄の最終兵器が予想より早く完成し、私の心がとても不安です。 我々の最終兵器はいつ頃完成するのでしょうか」


「「彼女」はまだ···多くの作業が必要ですが、『最終戦争』の前には必ず完成します」


「大天使長のお言葉を信じるしかありません。」


「信じてくれてありがとう」


二人の大天使は向かい合って静かに笑った。

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