《天界禁書》天使の羽根

風雅ありす

【序文】

 あなたは今、幸せだろうか。


 幸せな者も、そうでない者も、悩み苦しみ、孤独に涙する夜をきっと知っているだろう。そんな時、傍にいてくれる存在がいる。


 【天使】と呼ばれる彼らは、人間と姿形は似ているものの背中に翼を持ち、その力を持って時折人間界へと現れ、神の言葉を伝えて人々を正しい道へと導く、神の御使いである。


 そんなものは存在しないとお思いだろうか。ただ頭のおかしな人間が見た幻であり、想像上の存在にしか過ぎないと。確かに今では、天使の数もめっきり少なくなってしまった。信心のない人間の目には映らなくて当然だろう。


 天使は、本当に心から助けを必要とする人の元に現れる。そして、その人が幸せになる手伝いをする。それが、天使に翼を与えてくださった神との契約だからだ。

 そんな天使には、決して犯してはならない三つの禁忌がある。


 一、神々の意志に背くこと。


 一、悪しき者の言葉に耳を傾けること。


 一、〝大地と波の狭間に生まれし人〟と契りを交わすこと。


 『天使の三大原則』と呼ばれるものだが、かつては、これを口にする事さえも罪に値する程の大罪であった。これを守ることは暗黙の了解であり、守らぬ者がいれば、天使の命の源である〈翼〉を奪われる。それは、己が存在の〈消失〉を意味する。半永久の時を生きる天使にとって、闇に包まれた【死】は、何よりも恐ろしい対象だ。


 だが、決して力で支配されているわけではない。この世に具現化する力を持たない、ただ自然の中を漂うだけであった存在に命の源である〈翼〉を授け、人々を善き道へと導く重要な使命をくださった主のために働く事は、天使にとって何よりの至福であり、日々、誇りを持って役目を全うしながら生きている。その想いを抱えているのは、私とて同じだ。


 しかし、私は敢えて、ここに記そう。


 これが、後に【禁断の書】と呼ばれることになろうとも、私には、これを書く義務がある。誰から強要されるわけでもなく、私の意志でこれを記すのだ。


 何故ならば、それこそが、我が親愛なる友であり、時に兄のように親のように接してくれた家族でもあり、時には好敵手でもあった彼の為、私に出来る唯一の償いであると信じているからだ。


 それは、翼を失った一人の天使の話。伝承と言っても良いほど遥か昔の話である。天使の間で訓戒としてひっそりと蔓延っている話だ。この話をどう受け取るかは、あなたの判断に委ねたいと思う。結果、彼の者が悪と言われようとも、願わくば、このような者がいたということだけでも覚えておいて欲しい。


 そして祈ろう。この世に生きる全ての者たちが真の幸福に辿り着けるように、と。



                       智天使 フォレスト


  †††

 


  あなたが私を必要とするならば

  あなたが私を必要としてくれるのならば

  あなたが私を必要としてくれる限り

  ずっと ずっと 私はあなたの傍にいる

  あなたに私の全てを捧げます



  これは、優しくも悲しい天使の物語。


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