まちがい探しをマチガイサガシ

ポテト

第1話 入学式

4月1日。私は電車に運ばれて、入学式へと向かっている。今から3ヶ月前、名門校とされる、雉内市立雉内高等学校の推薦の話が私に来た。あのときはまさかあの名門校の話が私に?とびっくりしてしまった。でも今、私が来ているこの制服が夢ではないことを証明している。

「次は、雉内。雉内。」

アナウンスが流れた。雉内。この地名を聞いて、私の中では楽しみ、緊張、不安が混ざり合った。扉が開き、春のあたたかい空気が「ようこそ雉内へ。」と私を迎えてくれた。改札を抜けると、青いハンカチが目に入った。私の前に改札を通った親子がちょうど落としたようだ。私の身体は自然と親子の方へ向かい、声をかけていた。予想通りハンカチは親子のものであり、私は、

「ありがとうございます。」

と頭を下げられた。春の風とすれ違いながら、今日から通学路になるであろう道を歩いていく。すると茶色い建物が顔を少し覗かせていた。あれだ。駅から徒歩20分。私はようやく雉内高校に到着した。目の前の雉内高校は、ようこそと校門を開けている。私はその歓迎にしたがって門を通った。私は1年A組だった。教室からは賑やかな声が聞こえた。教室に飛び込んでみると、楽しそうに話している子、本を読んでいる子、寝ている子など、みんなそれぞれ好きなことをしていた。席に座り、疲れた足を休める。ぼーっとしていると、隣から声をかけられた。

「わっ!やっと来た!」

隣のせきになった子は、ポニーテールが印象的な、明るい子だった。背も大きく、声も大きい。疲れている私には少しウザったい。えっと、名前は……。

「疲れてるね。急いできたの?」

「いや別に……。」

「あのさ、ここの桜見た?すんごい綺麗だったでしょ?」

「……。」

「ねぇ……聞いてる?おーい。」

「あ!ごめん!なに?」

危ない。冷たく接したと思われて嫌われるところだった。私はとっさに笑顔をつくる。

「いや、桜綺麗だな〜って。校門とこの!」

「あ、そうだね!あはは。」

「今日からよろしく。あたしは佐藤波美!」

「私は長友奈優。よろしくね、波美ちゃん。」

お互いが名乗っていると、入学式の時間まであと10分になった。2人で急いで列に並んだ。入学式の時間になった。だけど、雉内高校の入学式は何故か両親は参加できないから、教員だけの寂しい拍手が体育館に響く。

「親がいないから拍手も少ないし、華やかじゃないなぁ。手を振ろうと思ったのに。」

「親がいても手をふるのはちょっと……。」

席に座り、校長先生がステージに上がるのを見届けた。校長先生は少し厚化粧だったが、顔立ちの良い女性だった。

「皆さん、ご入学おめでとうございます。」

彼女からの祝辞を聞いていたが、次の瞬間信じられないことを耳に入れてしまった。


「本校は、『社会で通用する完璧な人間を育成する。』をモットーにしており、したがって、完璧な人間になるまで、この高校からの外出の一切を禁じます。完璧な人間になるまで、欠点をもって入学した皆さんを社会に出すのは、みなさんも我々も恥をかくことになりますからね。みなさんが立派に育つのを期待しております。」

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