12.何が良いのだ?
「何が言いたい」
暗い声じゃの。腹の探り合いか?
「私は先生の生み出す作品が好きなんです。それが阻害される存在は排除してきました」
運転手をしてた時のような怯えた声は出ていない。
これが本来の『担当』なのだろうか。
「あなたの存在が先生の心の平穏に必要だと思ったから協力もしましたが、最近は作品に影がチラついてましてね」
「別れろと?」
下僕は別れたくないぞ?
あんな事を言ってるがな。我はよく分かっておるのに、我より付き合いの長いお前がそれを言うのか?
「私がここにいつも来れる訳ではない。だから、マメにお世話してくれる存在として丁度良かっただけです。作品が華やいだのも確かですし、感謝してますよ。先生があそこまであなたにズブズブに惚れるとは思いもしませんでしたが」
「お、お前、言い方ッ」
真っ赤になって口をパクパクさせておる。
「おや? 一線は越えてませんでした?」
クツクツ笑ってる。
コヤツ下僕の前と偉く違うではないか。
我をそっと床に下ろした。
「別れて下さい。先生はここを引き払う予定ですので、身辺整理もしないと」
「身辺整理?」
「もう必要ないんですよ、あなたは。先生の創作活動には必要ない」
「人を物みたいに。俺は先輩が笑って過ごしてくれたらそれで良かったのに。コイツが来てからおかしくなったんだ。コイツが居なくなったら元に戻るはずだ」
我が指差されておる。指を差される謂れはない!
肩を怒らせて、体を大きく見せるように足を踏ん張る。
「この子のお陰で先生の目が覚めただけですよ。こっちもうんざりするぐらい『彼氏さん』先生にベタベタとしてたでしょ?
先生は、犬相手でも見られたくなかったんじゃないですか?
私がいない時、何してたのか知りませんけど、犬相手にあなた、自分を抑えられましたかね…」
「え、あ、それは…」
「無理でしょうね。だから、先生は距離を取った。先生は元々不器用な人ですから、犬のお世話に集中したかっただけだったんでしょうけど。彼もちょっと弱ってましたからね」
我の頭をクリクリ撫でてくれる。
「そのお陰で目が覚めてくれた。これで引越ししてくれたら元通りです」
担当が立ち上がり、男が二人、睨み合う。
その足元に我も立ち尽くしていた。
空気が、我を動けなくしておる。
重い…。
下僕は、あの下僕は、どうなれば幸せなのであろうな。アヤツはこの男と別れとうないのは我は知っておる。
仕事はよく分からん。よく分からんが、苦しそうだが楽しそうじゃ。
あんなにヨレヨレになってもタブレットや机に向かっておる。
多分、好きなのじゃ。
我は、短い間だが、アヤツの世話になって良かったと思っておる。『モノグサ』なところもあったが、いいヤツだ。
だから、力になってやりたい。
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先生不在で話は進む…。
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