10.協力者というのは…。

結局のところ別れたくないのじゃ。

メソメソしよって…。


我の散歩も餌も手入れも…お世話は手を抜かぬ。

自分の事は悲惨じゃの。


「先生ぇ〜」

勝手口から入ってきた『担当』の気の抜けた声がする。


下僕が勝手口の鍵を預けておるのは知っておるが、なんとも変な事よの…。


廊下を進んで、下僕の部屋を通り過ぎていく。

ん?

机に向かってる下僕は気にもしていないようだ。

というかさっきから電話を掛けまくりじゃ。書類も広げておる。原稿というのをしてるのではないようじゃ。

眉間の皺も深いの…。


大人しく足元で寝そべっておる。

ふかふか寝床も用意してもらったので、ゆったりまったりとしておる。

ここにオヤツがあれば、ほんに良いのにのぉ〜。


「あー、訳分からんッ」

ギシっと椅子が悲鳴を上げた。

思いっきり仰け反って、バキバキと下僕の身体も音がする。


「先生、どうですか?」

下僕の声で居場所が特定?

ひょこっと顔を出した。


この『担当』とやらはよく分からんが、この家の中をウロウロして整理とかしてくれておる。

我の歩くスペースが出来るのでありがたい事だ。

このところ、この下僕はポンコツじゃ。


「ああ、良いところに。コレ、ポストにお願い出来る?」


「結構遠いところですね」


少し厚めの小さめな茶封筒と大きな茶封筒を交換しておる。


「あっちの役所の方で調べてくれるって。遺品の中にあった謄本の写しが役立ったよ。

ペラペラの紙で破れそうで扱いに困ったけど、頑張って読んだ甲斐があったってところだな」


「良かったですね。難しい漢字が並んでましたからね。コピー多めにして良かったでしょ?」


「ホントそれな。ありがとう。そのコピーも同封した。思いつく書類も入れたから、ちょっとパンパン。はぁー、これで戸籍が全部揃うよ」


「あとは土地家屋ですね。本当に全部自分でしちゃいましたね」


「まだ終わってない。

しっかし、初めはプロに任せようと思ったのに。今思い出しても腹が立つッ。

あの司法書士、何が『これなんですか?』だよ。鼻で笑ったんだぞ。薄い紙の写しでもこっちにとっては、遺品だぞ。それを指で弾くみたいにこっちに放ってきたんだ。

あれで頼む気がなくなった。

必要な単語とか情報だけ引き出させて貰ったよ。

それにしても、必要ないって言ってたけど、要ったじゃないか。何が『無い事を証明出来ますよ』だ。無いって始めっから決めてさ。有るじゃないかッ。

あれは、絶対、端っから調べる気が無くて、『無かったです』って、職業権限で書類作る気だったんだよッ。あー、腹が立つ!」


「どーどー。あと少しでしょ? 先生、頑張りましたね。上手く行って良かったです」


肩を揉んで労っておる。

『担当』というのは『先生』を労うのが上手いのぉ。

あの手も気持ち良さそうじゃ…。


「そうだな。ちゃんと『生まれてから死ぬまで』の戸籍を揃えられる。ちゃんと生きてたんだよって証拠だ。

戸籍の文字見てるとさ、オレや母さんがどこでどうなったとか書き込みがあって、足跡みたいな…なんて言うだろうな…こうやってこの人に関わって来たんだなって。生きてきた軌跡を辿れるみたいで、オレはちょっと楽しかったよ。父さんをちょっと知れた…」


「法務局へは予約がいるんですか?」


「んー、よく分からんから、直接聞いてこようかと思ってな。電話では、司法書士の方の頼んだらって受付の人に言われたよ。もう意地でも自分でしてやる。腹も立ったが、ちょっと感謝もしてる…」


「はい? すいません。ちょっと聞き取れなくて…」


封書を鞄にしまってる男が聞き直してきた。


「なんでもない。あの無料相談の司法書士の悪口言っただけ」


「カリカリしてたらまたぐったりしちゃいますよ。予約取れたら教えて下さい。送迎しますよ」

ニコニコと話してる。

下僕は肩を回して立ち上がった。


静かにしていた我にご褒美のオヤツを所望したいところである!


「出してきます」と『担当』が玄関から出て行った。




=============


全ての司法書士さんがこうだとは限りませんし、無料相談の対応がこうとは限りませんので悪しからずf^_^;

フィクションですよ〜( ̄▽ ̄;)

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