無法者の心
妄想垂れ流し機
正夢
ドンッ!
飛び出してきた警察車両に体当たりされ、俺はそのまま吹っ飛ばされた。体が衝撃で痛み、酷く降る雨で滑りそうになりながらも体を起こした。
「マル被が車両に激突した!マル被が車両に激突した!」
鼓膜が破れそうな警察のサイレン音と怒号に、頭がクラクラしそうになる。
「おい止まれこの野郎!おい!」
「マル被が大通りに逃走中だ。応援寄こせ!」
おぼつかない足取りで逃げながら、俺は頭の中で何があったのか考えていた。いったいどこから情報が漏れたのだろうか?どうやって警察は俺の事を見つけたのか?
大家には金を握らせて黙らせたはずだが、もしかして奴が情報を流したのだろうか?やはり人は信用するんじゃなかった!逃げ切ったら絶対に殺しに行ってやる...
「絶対に...逃げ切...る...」
頭が痛くなる。体も流石に限界が来たようだった。俺はここで終わりなのだろうか?
もしも奴らに捕まって法廷に引きずり出されたら最後、俺は確実に死刑判決を下されることになるだろう。それだけは嫌だ。死にたくない!
「おい!それ以上は危ないぞ!戻れ!」
警察の怒号がまた聞こえる。どうやら止まれと言っているようだが、俺は絶対に止まらない!俺は生きる!生き残るんだ!
「ふざけるなクソ野郎め!お前らの言葉なんか信じるか!?」
「マル被が大通りに出た!これ以上は危ない!」
俺が振り向いたその時、突如大きなクラクションの音と共に光が照らされ、俺は一瞬目を伏せた後に見ると、一台のトラックが俺に向かってきていた。
「おい嘘だろっ――」
バンッ!!
体が吹き飛ばされ、何度か回転した後にようやく止まり、全身が味わった事のない痛みに苦しみながらも顔をあげると、トラックはブレーキを押しているようだが、雨もあって滑りながら俺の方へと来ていた。
「あ...たす...け...」
グチャッ
トラックが止まり、運転手が青ざめた顔で降りて来た。若手の刑事が運転手に近寄り、話をしていた。
「あぁ...そんな、人を轢いてしまうなんて...」
「運転手さん。あんまり心配しないでください。ドライブレコーダーとかあります?」
若手の刑事が運転手と話している間に、タッグを組んでいる中年の刑事が、トラックに潰された遺体へと近寄り、無線で本部に状況を伝えていた。
「こちら現場より報告。マル被は大通りにてトラックに轢かれ死亡した。トラックに轢かれて死亡した。現場処理班頼む」
無線から応答の声が入るのを確認すると、通信を切った後、しゃがんで死体をまじまじと哀れみの目を向けながらつぶやいた。
「あんたもこんな死に方で可哀そうだな」
雨は一段と強くなり、激しい音を立てている。雨水が遺体から流れ出る血液や脳髄を流し、その人の証を流していく。
「...長岡ー!車こっちに回しといてくれー!」
「はい!」
「さて、後は...ん?」
目を戻すと、そこには潰された遺体も流れる血も無かった。まるで最初から何も無かったかのように、辺りを見回しても、どこか遠くに行ったとか、誰かが死体を回収したという訳でもなさそうだった。
「...神隠し、って訳でも...いや、嘘だろ?」
どれだけ見ても、あの遺体の痕跡らしき物はなかった。腰を屈めて地面に指を付けてみるも、付いたのはただの雨水だった。
「おい!トラック見せてくれ!」
すぐさまトラックの前に駆け寄り、驚く刑事と運転手をよそに見ると、確かに何か物がぶつかって凹んだ跡があった。だが、もう一度轢かれた現場を見ても、遺体はどこにもなかった。一体、遺体はどこに?
「...どうしたんです?そんなに慌てた様子で」
「いや...あのな、変な事言っているのは分かってるんだが...遺体が消えたんだ。跡形もなく」
「...はい?」
「っ?!」
いつもより硬い質感のベッドで目を覚ました俺は、体をすぐに起こして顔を触った。あぁ、何て悪い夢を見たのだろうか、余りにも酷すぎて記憶にも残したくなかった。警察に追われてトラックに轢かれるだと?馬鹿にするのにも程がある!
「...はぁ、仕事行かないと」
とりあえず、いつもの仕事現場に行かないといけない。肉体労働は辛いが、まだ死刑判決を下されるよりはマシだろう。さて、今日はどこ配属なのだろうか...
目を瞑りながら考えていると、やけに鳥の声がうるさい事に気が付く。まったく、いつもうるさいのは当たり前だが、こんなにもうるさかっただろうか?まるで外にいるみたいな...
「おいお前ら!うるせーぞ!出てけ!...は?なんだここ」
鳥たちが俺の怒声に驚いて逃げる中、俺は目の前の景色に言葉を失っていた。まさか、起きたら周りが森だったなんて思うわけがないだろう?意味が分からない。まだ夢の中にいるのだろうか?
「俺の部屋は?」
ゆっくりと立ち上がり、俺は裸足のまま森の中を歩き回った。足の裏に小石が当たって痛みが走るが、今はそんなどころじゃない。
「クソッ。いつこの夢は終わるんだ。歩いても歩いても出口が見えない...」
いくら歩いても森から出られる気がしない。足の裏も小石や砂利で肌が削れて血が出て来た。足元を見ると、血が地面に少し染みているのが分かる。それと同時に、何かが近寄っているのを察知した。
「何だ...何が来てんだ...?」
何故かはわからないが、嫌な予感がする。逃亡中に警察に後ろから尾行された時のような感じがして、激痛を我慢しながら歩く速度を速めた。瞬間、"それ"は一気に距離を狭め、俺の背後に迫ろうとしていた。
「(後ろから来るっ!?)」
すぐさま後ろを振り向いた瞬間、俺は何か杖のようなもので腹を突かれて倒れてしまった。すぐさま起き上がろうとしたその時、俺の首元に剣の矛先が当たっていた。
「貴様何をしている!ここは不可視の森だぞ!立ち入り禁止の令が布告されたのを知らないのか!」
「...え、は!?」
剣の矛先を向けていたのは、白と金の煌びやかに装飾された鎧を身に纏いながら、長い金髪をたなびかせている女の騎士だった。
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