【私のおふるで悪いんだけど】 とお母様(ヒロイン)に取り巻きを押し付けられ、嫁いだ辺境でも嫁扱いされませんが、おかげで自由に生きれます!

ぷり

【1】 女の子っていうのはね、生まれた時からずっと年老いてもお姫様でありたいものなの。BYデイジー@母親。


「私のおふるで悪いんだけどぉ」


 長くてふんわりした桃色の髪に、澄んだ空色の瞳。

 そして守ってあげたくなるような華奢で可憐な容姿。

 ――しかし性格は傲慢で最悪で散財し放題のクソびっち王妃である私のお母様(デイジー:36歳)が、その日、国の姫である私――アプリコットを自室に呼び出して言った言葉がそれである。


 その傍には私の婚約者であったはずの、隣国の第二王子ハリスンが目をハートマークにして、母に寄り添っている。


「「はい?」」


 応答する声がかぶった。

 私と、私と同じくこの場に呼び出されたミリウス辺境伯だ。


 ミリウス辺境伯は母の取り巻きの1人で、国の王妃である彼女を36歳の今まで愛し独身を貫いてきた人だ。

 彼は苦しそうな声で母に言う。


「デイジー、僕は君のことを愛してるんだ……。考え直してくれないか」


「でも~、あなたの事は、もう要らないなって……。扱いに困ってるのよ。聞き分けて? それにハリスンがいま最推しになっちゃったし……。最近若い子好きなのよ」


 母はたまに変な言葉を使う。

 母の言う最推しとは、いま一番愛している男性ということらしい。



「そんな……僕は君を愛しているから、結婚もせず跡取りも養子にした! 君の傍にずっといたくて……!」


「だからって地元の仕事を放ったらかしにしちゃ駄目でしょう? あなたの領地からの苦情が、何故か私に来ているのよ~」


 そう言う母は、自分の取り巻きたちに自分の仕事を広く振っている。

 お前が言うな、である。


「デイジー!」


「ちなみに、これはもう王命で決まってるから。文句言ったって駄目なんだから」


 私はずっと押し黙っている。

 昔からの母とのやりとりで、何を言っても無駄だからとわかっているからである。


 ――この世は、いや、少なくともこの国は母の思い通りなのである。


 なぜなら、国王である父を始め、兄である王太子も、宰相始め力ある王城の貴族男性たちは皆、母の虜で言いなりなのである。


 そして最近、母は若い男の子を好むようになってきていた。


 ――『ハリスンって、とても綺麗な筋肉をしていそう……アプリコットだけずるいわ? 私にちょうだい? いいでしょ?』


 ――『ご冗談を、お母様』



 年齢を考えてください、お母様。……と言いたい所ではあるが、母はいまだに少女のように若く美しい。

 不老なんじゃないだろうか。

 

 そんな彼女は、ここのところハリスンと二人でお茶したり、庭園散歩したり……二人でこっそり外出したり……していた。


「すまない、アプリコット。僕は君の母上を……いや、デイジーを愛してしまった……」


「そうですか」


「ごめんなさいね、アプリコット……」


 抱き合うハリスンと母。しかしその母の唇はつり上がっている。

 

 ――優越感。


 彼女は私から婚約者を奪ったことによる優越感に今、浸っている。



 母は私が幼い頃は、お人形さん遊びをするかのように私を可愛がっていた。

 だが、私が年頃になってきた頃から、私を敵視するようになった。


 私は、やはり容姿端麗な国王である父親から金髪碧眼を引き継いだ現在17歳の王女である。


 自分で言うのもなんだけれど、容姿は母親に劣ってはいない。


 美しい両親の間に生まれた私は、二人の良いとこ取りをした可憐な容姿でもある。


 華奢きゃしゃに見えるが、胸は普通にあるし女性らしいラインをちゃんと保っている。


 お母様は、残念バストである。



 話は戻るが。

 私は婚約者を、もう既に何度か奪われ――その後、捨てられている。


 そして彼女は私を遠くへ追いやりたいのだ。


 自分の美貌に匹敵、かつ若い姫である私を城から追い出して遥か遠くへ。


 自分が『唯一の姫』でいるために、私が邪魔だから。


 彼女は少しでも私が男性から声をかけられたり、手紙を送られようものなら全力で潰しにきた。


 自分より私に男性の目が行くのが許せないのである。


 更にこの母の悪癖あくへきのせいで、私は今や男遊びの激しい悪女とされている。


 ――何故か。


 実際は母がこのように男をとっかえひっかえしているわけだが、私自身もそれにつきあわされて婚約解消になっているわけで。


 コロコロ男が代わる姫、ふしだらな姫と思われるようになってしまったのである。



 そして何故か、母にはそのような醜聞は立たない。


 むしろ、私に婚約解消された可哀想な男たちを慰めている、お優しい王妃さまとされている。



 しかし、そろそろ私も結婚しなければならない年頃。


 だから、自分にもう必要ない……そして私に譲ってもプライドが許せる『おふる』であるミリウスをあてがったのだろう。



 私は抵抗するでもなく、素直に従った。

 私は私で、もう城を出たかったから。



 そして、嫁ぎ先であるミリウス辺境伯の領地『オキザリス』へと旅立ったのだが。


 婚約者にされたミリウスは、私と一緒には領地に戻らず、母のそばに居続けようとした。


 そのためか、彼は爵位を剥奪され『追放処分』にされ……行方が知れなくなった。



 それは、私が彼の領地『オキザリス』へ向かう途中の馬車の中の出来事で――私は知るよしもなく、王都からの早馬が私の馬車を追い越し、先にオキザリス領へ伝わった。


 私がオキザリス領に着いた頃には、ミリウスの親戚筋の養子であるアベル=ミリウスが爵位を継いでいたのである。


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