第6話:役に立とう
照明スキルを全力で起動したエーラが最前線に到着したことで、敵の姿が全員の目にしっかりと入ってきた。
通路と同じ石材を使っているのか、黄土色の石を利用したその|体躯(ボディ)と、両手に装備された中に人が入ることができそうな程に巨大な筒。高さもギリギリに設計されていることもあって、2体並べば高さ4m幅5m程の通路は完全に埋まってしまう。
その様な状況なので後列にどれだけの数がいるのか検討もつかないが、その重なった足音が10や20では済まないことを物語っている。
「【盾術・|増幅(ブースト)】!!!」
横幅が2mもない楕円形の盾では守り切れないと判断したエーラが、魔力を使って盾のサイズを巨大化する。半透明の延長されたシールドにより、十全に攻撃手への防御はできたと言える。
エーラとゴーレム達の間の現在の距離は10m程。光源ができたのでこちらを視認したのか、はたまた元々捕捉していて射程が足りていなかったのか。歩みを止めることなく、その両手に装備された筒をこちらへと向けてきた。
ドブッ!ドブッ!という鈍い音と共に砲身と同じサイズの石塊が発射された。魔力を帯びたその弾丸を、正面から4発受けることになるエーラ。衝突し砕けた石塊と、盾の延長された部分で削られた塊が魔力となって飛散する。
後ろにいる魔法職の人間達ならば一撃でダウンしかねないその攻撃も、物理も魔法も威力を軽減する盾術スキルを以ってすれば彼女の足元に拳大の溝が刻まれるだけで済んだ。
しかし、盾自体に問題はないとはいえその盾を維持する魔力は有限だ。維持自体にも魔力は消費するし、衝撃によって綻んだ部分は修繕しなくてはならない。
休憩なしに同じ攻撃を素直に受け続けたら、あと20セットが限界だろうかと見積もりを立てた。
「あまり長くは持ちません!」
「大丈夫~【水獄】~」
エーラの後ろで魔力を練っていたヌーレが動き出す。掲げた右腕から流れ出した水が宙を舞ってゴーレム達に殺到し、前から6体の頭部に纏わりついた。
「【|圧滅(プレ~ス)】」
魔力を使って圧縮する為に感覚なのか、わざわざ必要のない掌を閉じる動作をしてスキルを発動する。纏わりついた水がみるみる内に収縮していき、最初はピキッという乾いた音が鳴り響き、終いにはガゴゴという鈍い音と共に頭部が砕け散った。
「わかってはいたがダメか。」
今倒したゴーレムが自壊様の魔術式が起動して砕け散り、コアである宝石を残して光の粒となって夢散した。これが製作者の経験が少ない低級のゴーレムならば、残骸が積み重なって幾分か楽になったというのに。
もっと言えば、その様な低級のゴーレムには物理無効結界も搭載されていないことすらある。それならばファルザの隷属剣も戦力になったのに、と都合良く進んでくれない事に苛立つミラック。
「通路側に残ってる罠はなかったぞ!俺も防御に回る!」
そう言って罠探知を終えたファルザはエーラの元へと走り込み、アイテムボックスから極端に肉厚な剣を5本取り出した。
「【隷属剣】!【|固定(ロック)】!」
即座にそれを支配下に置き、エーラの前へと飛ばす。続けて起動したスキルの行使により、剣5本が交差する形で空中に静止した。
この剣に阻まれエーラの盾への着弾が少なくなった。既に4セットの石塊を受けていたエーラに束の間の休息が与えられた。
「ありがとう!ファルザ君!」
「いいってことよ。それより、長くなりそうだし魔力増強剤飲んだ方がいいかも。ミラック!」
「飲んでいいぞ。まだ撤退か決めかねている。」
そこそこ高額な魔力増強材は、パーティの共有資産だ。もし仮にこの場から転移魔導具を使用して撤退するならば使うべきではない。
この状況で撤退しない理由は一つ、また戻ってくる手段がないからだ。転移魔導具と言ってもどこにでも転移できる訳ではない。冒険者ギルドにあった水晶の様に、それ用の術式が刻まれた場所か、専用の杭を打ち込んで結界を展開した場所にしか移動することができない。
今ここに結界を張っても、目の前にいるゴーレム達に集られては持たないことも容易に想像がつく。
結界の効力は場所にもよるが、起動してから2日は絶対に持たない。上層階で結界が長続きするタイプの迷宮でないことは調べてあったので、朝に使用した物は既に撤去してしまった。
ここに来るまでに既に10日が経過している。蛇の売り上げはあっても費用と差引だ。宝物を求めて来ている以上、この間の投資が無駄になることは避けたい。できることならばこの危機を乗り越え、探索を続けたいのがミラックの本音だ。
とはいえメンバーが死んでしまっては元も子もない。
こうやって思考している間にも、既にヌーレはゴーレムを40体ほど破壊している。魔力増強剤を飲んでいるとはいえ、その消耗は激しくその額には脂汗が滲み始めている。
戦闘中故に考えない様にしてはいるが、どうしても目の前で俯いている少年に苛立ちを覚えてしまう。先日ファルザに教授した思考を曲解し、現状の危機に陥れた事についてだ。
後ろを振り返れば恋人同士である治療魔法使いと付与魔法使いが抱き合っている。付与魔法は一通り掛け終わったので何も言うことはない。
しかし、それは手詰まりであると言うこと。未だ通路の先からは多数の足音が鳴り響いている。
「ファルザ!剣を追加しろ!お前の剣を殿にして帰還する!全員大空洞側に来い!」
「了解!」
深い嘆息の後、ミラックは諦めた。振り返りつつ、自らのアイテムボックスに手を突っ込み青く光る棒を取り出す。
ファルザが新たに剣を10本取り出し、エーラの盾を超える様に放り投げる。それと同時にエーラがバックステップを踏みながら大空洞に侵入してきた。
「【隷属剣・|強奪(スナッチ)】!!【|固定(ロック)】!!!」
通路の中で衝撃音が鳴り響く。激突で剣身を失った個体が、スキルの影響を失い地面に落ちた。
「変わってくれてありがとう、ファルザ君。」
「大丈夫、早く集まろう。」
ブツブツと何かを唱えているスランザを含めて、全員がミラックの元へと走りこんできた。
「ざつよ~ご苦労~」
「ちょっとヌーレさん、まだ流れ弾飛んでくるかもだから抱き着かないで!やっちょっそこ触らないで!」
「や~だ~疲れた~なんならおぶって~」
「助けてファルザ!」
「いやいや!?今助けて欲しいの俺なんだけど!?ミラック!もう全員揃ってるぞ!早く転移魔道具を起動してくれ!」
エーラが緊張感のないヌーレに絡みつかれて悲鳴を上げているが、スキルの操作に追われている今それを気にしている余裕はファルザにはない。早く撤退してほしいものだが、なかなか転移の光は見えてこない。
「ミラック?」
おかしいと思い振り返る。するとそこには光を失った2つに折れた棒を持ち 、顎に手を当てて考え込んでいる
「魔道具は確かに起動していた。なのに転移が実行されないってことは…」
「どういうことなんだ!説明してくれ!」
支配下の剣はもう7本しかない。隙間が生じ始めており、エーラの盾に岩塊が何度も衝突している。そもそもヌーレが破壊妨害を止めたことにより、ファルザの設置した剣の壁にゴーレムが到着するところだ。
「結論から言おう、迷宮の主が近くにいるから帰還は不可能だ。」
「何言ってるんだ!?迷宮の主って最深部にいるもんだろ!ここ5階層!ガルドバッタの最高到達記録は7階層だし、もっと先があるって言われてるだろ!」
「理由まではわからんが、おそらくこの大空間がこの建造物を迷宮化させた主の住処だ。転移魔道具が動作しないのは奴らの妨害の可能性が高い。俺たちは今から主を発見、討伐して転移を復活させるか、このゴーレムの群れを突破するかしか選択肢はない。」
等と話している間に彼らの足元に赤い発光が生じているのに気づく。ラインとして奇怪な文様を描き切ったそれはより一層の強い光を生じ、それと同時に地響きが発生し始めた。その正体は魔法陣。彼らはあずかり知らない情報だが、彼らの足元深くに人工的に設置された魔道具により発生したそれは、迷宮の主を呼び出す物だ。
魔法陣の中心より現れる巨大な岩の塊。そのすべてが出切った時には、その頭部に当たる部分がアルミチャックの面々からはギリギリ見えるかどうかといった高さまであった。
魔法陣から放り出される形で召喚されたそれは、魔法の力が途切れた瞬間に少し浮いていたらしい。地面にその足が付いた瞬間爆風と粉塵が発生し、人類はこれに耐える様に姿勢を低くするしかない。
巨大な胴体に備え付けられた6本の腕はそれぞれの先端に各色の魔法陣を展開し、攻撃も万全といった風体だ。そのうちの一つ、紫の魔法陣を備えた腕が発光を強めた。
「【炎獄】!」
それに対し戦闘開始時から魔力を練っていたミラックが、全力で魔力を放出する。彼の腕からは炎が迸り、ゴーレムの腕の根本に纏わりつく。
「【|溶天(ファウンド)】」
炎は青く輝き、樽が3つは詰め込めそうな太さの腕は容易に溶断された。
そうして戦闘は唐突に佳境へと至った。
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