あの淵の底で——

木の傘

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【見繕い淵事象】


以下、風土誌より抜粋


~深山市に伝わる昔話 その⑤ 見繕い淵の伝説~


 むかしむかし、ある村人が見繕い淵の近くで柴刈りをしていると、石にぶつかって鉈が折れてしまった。


 腹を立てた村人は、鉈を淵に投げ捨てて帰ってしまった。


 次の日、村人が淵を訪れると、投げ捨てたはずの鉈が直されて畔に置かれていた。この事を自慢すると、村人達はこぞって淵に壊れた物を投げ入れるようになった。すると次の日には必ず、壊れた物が新品のようになって淵の畔に置かれていた。


 ある日、気性の荒い村の若者が、喧嘩をした勢いで友人の頭をパックリと鉈で割ってしまった。


 焦った若者は友人を山に捨てに行った。そこでふと、淵のことを思い出した。

 若者は淵に友人を投げ入れ、朝早くに迎えに来ると心の中で誓って淵を後にした。


 次の日、早起きの村人が若者よりも先に淵を訪れると、淵に男の遺体が浮かんでいた。引き上げてみれば、それはあの若者の友人だった。


 頭の傷が綺麗に消えても、生き返りはしなかったとさ。

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