Party Goes On!
「決めた! 追加パーツを買う」
エグザムさんが宣言したのは、レスター子爵領の主星に降下する寸前だ。
いまいち活躍しきれない現状と、追加パーツを使い込んでNPCに異名を持たせたいという判断かな? とってもお高いのに……。
マサくんの火力に対抗するわけではなく、『精密加工レンズ』を装備して、火力集中からの突破力を選んだ。
しーちゃんも悩んでいるし、D51さんは取材のテスト・アンド・エラーも兼ねて、何を選ぶかを『リラサガ・オンライン』のスタッフと検討している最中。実際に、私の命中率がグンと上がったのを見ているだけに、お財布の紐も緩みがちだ。
この星を離れるまでに、決めるつもりみたい。装着は一瞬だからね。
レスター子爵領の主星は、私には馴染みのある海洋惑星だ。
カヌレちゃんと二人、「どんな美味しいお魚がいるのか?」と盛り上がっていた。それなのに、海のど真ん中に浮かぶいくつもの巨大プラント……。海底資源採取がメインらしいと聞いて、ガッカリだよ! せっかくの青い海なのに……。
『海産物よりは、レアメタルや化石燃料の方が儲かるだろ? 普通』
「お魚の方が美味しいのに……」
『海底資源を食おうとするなよ……』
ショウに呆れられつつ、降下していく。
これでカヌレちゃんが気にしている、マサくん旗艦『ギナジウム』の艦首もキレイに修理されるよ。
この星も、出迎えは無しか……。
でも、出入国カウンターのお姉さんに、白い封筒を手渡された。
「子爵様は、パーティーの最中ということで、こちらに参っては居りません。ですが、挨拶はしたいとのことです。恐縮ですが、こちらの招待状をお持ちになって、パーティー会場までご足労願えませんでしょうか?」
パーティーとな?
ゲームだから、衣装チェンジは一瞬だけどさぁ……。
「情報収集するには、うってつけだとは思うが……」
「ダンスとかは無理ッスよ?」
「しーちゃんにまた、お酒呑ますのも不安だし~」
「少しなら大丈夫だと思うのよ、モモちゃん」
いろいろ功罪ありそうな……。
とはいえ、顔を出さないわけにも行かない。指パッチンでドレスに着替えて、迎えのリムジンに乗り込もう。
「……で、誰が誰をエスコートしてくれるのかな?」
ニマニマ笑いながら、私は男性陣を横目で見る。
慌ててるけどさ、パーティーならちゃんと女性をエスコートしてくれなくちゃだよ?
密談とか、ジャンケン(こらっ)とか、いろいろあった結果……。しーちゃんとエグザムさんの呑ん兵衛コンビ。モモンガさんとD51さんのオタッキーコンビ。当然組まされるカヌレちゃんとマサくんの高校生組が出来上がった。
「年の差組でごめんね……」
「逆に羨まれる方が多いでしょ」
倶楽部のメンバーは、私の素性を知っている。照れ笑いのエトピリカさんに手を取られて、迎賓館らしいバロック建築の白亜の洋館に足を進めた。
海沿いの黄昏というロケーションもあって、日本の迎賓館以上の美しさに見える。
「ミナ女男爵様、エトピリカ男爵様のご到着です」
紹介と共に、拍手の中をパーティー会場に進み出た。
大盛況だね……ボールルームには、百人超の紳士淑女が集っている。磨き込まれた木製の床。豪華なシャンデリアに、もちろん楽団も生演奏だ。……まさか、この曲も?
『御名答……『ソシアル・ワルツ』って曲だ』
ショウってば、バレエでも踊れそうな格調高いワルツも書くんだ……。
クラシカルな調度のボールルームだけど、オーシャンビューのロケーションを活かしてか、窓面積は大きく取られている。ムード満点。
最後に、初々しい高校生コンビが紹介されて、ようやく全員が揃った。
まずは、ホストたるレスター子爵様に、ご挨拶に行かないと。パーティーのホストは、とても解りやすい存在だから助かる。
黒いタキシードを纏い、ロマンスグレーの髪を撫でつけた優雅なお爺様が、レスター子爵だ。
雰囲気はマイケル・ケインだよ……私好みの老紳士。エレガントで上品。
長ったらしく、回りくどい挨拶が必要なのは貴族の常。それが一段落して、淡い緑色の瞳が興味深げに細められた。
「なるほど……貴方がたが、シャパラル子爵様のお眼鏡に適った……」
「それは、どのような意味なのでしょうか?」
「いえいえ、大した意味はございません」
意味ありげな笑みを残して、他の貴族との会話に戻ってしまう。
どうやら、このパーティーは帝国の社交界とは別の、レスター子爵領の交友関係者のパーティーであるらしい。貴族だけではなく、会社の社長や芸能人などのセレブも招かれているようだ。
その分、堅苦しさのない、気楽なものだ。
「この場合は……」
「好きに情報収集しろって、ことだろうな」
私としては、マイケル・ケイン似のレスター子爵と、もっと密になりたい気もあるんだけど……そうもいかないようです。
これは手分けして、聞き出す展開だね。
すでに何度目かのカクテルグラスを手にしてる、呑ん兵衛コンビがちょっと不安だけど……。
「だぁい丈夫。お姉さんに任せなさいってぇ……」
訂正、かなり不安だ。……暗黒面に落ちないでね。
その分は、みんなでカバーする気で頑張ろう。
「まず、どこから行こうか?」
「踊れる気がしないから、バーコーナー……ああ、もう直行してるのがいるか。無理にでも踊らなきゃダメそうだな。踊れそうなの、ミナさんしかいない」
「昔、映画で特訓されたよ……。だいぶ忘れてるけど、きっと身体が覚えてる」
「覚悟を決めよう。ビュッフェに突撃してるのもいるし」
「できれば、私もそっちがいいのに……カヌレちゃん、ズルい。……とにかく、背筋を伸ばす。微笑みを忘れず、肩の力を抜いて、足の順番さえ忘れず、音楽に乗れば、何とかなるから」
他は本人の努力に任せるしか無いけど、足の順番だけ教え込む。パートナーの足を踏んだり、ぶつかったりしなければ、迷惑もかけず、初々しく見えるでしょう。
覚えることを絞った為か、二曲も踊れば、足を踏まれることもなくなった。
「足元を見ずに、パートナーに微笑みかけることを意識してね」
本当は、もっと相手と密着すれば、相手の動きがわかるから楽なんだけど……無理を言ってもしょうがない。
最後のアドバイスをして、申し込んできたオジサマとパートナーチェンジする。
曲は聞き覚えのあるクラシック曲。うん大丈夫、ちっちゃな脳みそよりアテにできる、反復運動による調教。
曲に任せながら、世間話をする余裕もあるよ。ちょっとカマをかけてみる。
「ランドルフ伯爵の所も大変ですわね」
「そうですな……薔薇の花は何色に変わるのでしょう?」
おっ、反応あり。でも、どういう意味なのよ?
モモンガさんが調べてきた所によると、ランドルフ伯爵の紋章は黄色い薔薇の花。色が変わるっていうことは、やっぱり家の継承で揉めてるのかな?
「貴方は何色の薔薇がお好みかしら?」
「白薔薇も、赤薔薇も選べぬほど大輪の花を付けましたから……。ビジネス的には、赤い薔薇になって下さると、私には利が有るのですが……」
「私は、ビジネスには向かない相手?」
「美しい御婦人には、武器よりも花束がお似合いでしょう」
曲が終わり、またパートナーが変わる。
白薔薇と赤薔薇の紋章を持つ、兄弟か姉妹が争っているの? 赤薔薇派は、武器を売りやすい相手ということか……。武闘派?
「白い薔薇を増やすには、どんな栄養を与えるのが良いかしら?」
「今は棘を付けなければなりませんが、土地を肥やすに長けた花です。まだ賭けになりますが、投資に値しましょう」
ふむ……白い薔薇の人は、統治に長けた人なのか。今は抗争中……それも武力抗争の準備で、先は見えないけど、資金を必要としている……。貴族語は難しい。
いっそのこと、紫のバラの人とか、いてくれると面白いのに。
ふと音楽が止まり、場が弛緩する。
男女別の輪が、でき始めている。変化をつけるのに、コントルダンスを挟むのかな? フォークダンスみたいに、一人づつパートナーをずらしながら、相手を変えて踊るの。それか、名前を忘れちゃったけど……花いちもんめみたいに男女の列で、掛け合いみたいに踊ったり……。どっちにしても、情報収集向きじゃない。他の人達と合流しよう。
必然的に、話しやすいバーカウンターの所へ。
「エトさん、情報収集できました?」
「勘弁して。……足を踏まないようにするだけで手一杯だった」
なんとも情けない顔で答えてくれる。やっぱ、玉砕したのね……。
他のメンバーは……っと。
「ローストビーフが美味しかったですっ。ソースの隠し味を教えてもらっちゃいましたっ」
「……ウッス」
「ここでのブランデーは良い。銘柄を聞き出せた」
「オリジナルカクテルも最っ高! レシピを教えてもらったわ」
まあ、ビュッフェ組とバーカウンター組には期待してなかったけどね……。
しーちゃんまで一緒になって、なんですか? もぉっ!
頼りの綱は、会話組。
「長男は赤い薔薇を紋章とした、オブライエンさん。次男は白い薔薇のアンドリューさんという名前~」
「……でも、それしか聞き出せませんでした」
あっちゃぁ……まさかの「踊りながら聞き出す」が正解?
とりあえず、私が集めた情報を伝える。
さすがにみんな、渋い顔をしていた。
「踊りながら聞き出すのが正解では、みんな阿鼻叫喚ですよ。これ……」
D51さんの嘆きに、思いっきり頷く。
ほとんど女子を拒絶したようなタイトルで、一体どういうトラップよ!
「ミナさんがいなかったら、飛んでもない事になってましたね……。私も今度、ミナさんに習っておこうかな。貴族設定だから、いつまた踊る羽目になるか……」
「しーちゃんは、イメージ的にも踊れた方が素敵ですっ。お酒呑んでるより……」
「……反省(は)してます」
「デゴ、記事にしっかり書いておいてくれ。絶対に他の奴らじゃあ、正解がわかっていても辿り着けない」
「事前準備が必要。でも、どこで準備するんだよ……」
「運営さんも~ここまで女子がいないと思わなかったのでは~」
アハハ……乾いた笑いが支配する。
まあ、前向きに考えましょう。情報は取れたのだから!
「情報を整理すると……ランドルフ伯爵家は今、継承問題で紛糾中。長男の赤薔薇オブライエンは軍を掌握している感じで、次男のアンドリューは政治……官僚を掌握しているのかな? どちらも傑物で、武力衝突寸前……というわけか」
「そうなると~ シャパラルのおじさんが、どっちに付こうとしてるのか? 問題~」
「この間……襲ってきたのは、その逆派閥の
「輸送艦の中身は恐らく武器、そして燃料」
「どっちに味方したら、良いんでしょうかぁ?」
それも問題だけど、現当主のランドルフ伯爵はどうしちゃったの? そんな派手な兄弟喧嘩を止めないなんて……。
「ベタですけど、病の床で明日知れぬ命とか……でしょうか? 掲示板予想ですが」
「未確認だけど、そんな感じっぽいな」
「全ての答えは、きっと最後のフィディック子爵領にあるんですっ」
カヌレちゃんがビッと、遠くを指差して言い切る。
だよね……きっと。
そうと決まれば、長居は無用。出口に向かって歩き出す。すると……
「もうお帰りですか? ミナ女男爵」
わお、マイケル・ケイン……じゃないや。レスター子爵に話しかけられちゃった。
社交辞令でなく、笑顔になってしまう。大ファンなんだもの。
「ええ、楽しませていただきましたわ」
「では、今宵の出会いの記念に、これを差し上げましょう。貴方がたの旅の道標に……」
なんともエレガントな動作で、一枚のカードを手渡してくれる。
裏返しだけど……。
きっとこれ、会話のフラグをしっかり立てないと貰えないやつだ。後続のプレイヤーさんたち! ダンスの練習を頑張ってね! 情報だけ、サイトで知っててもダメっぽいよ?
そんな裏話はともかく、淡い緑色の瞳に促されて、カードを裏返す。
そして、私は息を呑んだ。
描かれていたのは、青い薔薇の紋章だった。
レスター子爵は、深い笑みを残して背を向ける。
謎めいた言葉を添えて。
「ランドルフ家の薔薇は、二輪ではないのです。……では、良い旅を」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます