40年お世話になっている先生

何故、こんなにもみんなで落ち込んでいるのだろう。

受けようとしている手術は未来につながる手術のはずなのに。。。。



夫は認知症が進んでいて、最近になって急激に症状が悪化してきた。


40年以上診てもらっている先生に相談すると、

「水頭症によるものかもしれない。確かに脳に水は溜まってて、水頭症ではあるんだけど、ふみさん(夫)の場合、水頭症に該当しない症状もあるんだよ。ただ、水頭症によるものなら、水を抜く手術をすれば軽減はするんだけどね……」

「「手術は嫌です」」

「だよね~~~」


青木先生は、40年前に夫が倒れてからずっと診てくれてる脳外科医だ。と言っても、当時は助手で夫の手術は別の先生がしてくれた。ちなみに、高齢のため手術はしないらしい。

40年も通っていると、私と夫が、手術というものに、とても抵抗があることもわかってくれている。


「僕はどこも悪いところはないんで、手術は嫌です。悪いところは口ぐらい」

「相変わらず、フミさんは口達者で、むしろそこをなおしたいね。奥さんもイラついちゃうよね。我慢我慢で介護大変」

「違いますよ~。妻がボケているんで、僕の方が我慢我慢ですよ~~」

「ホントに奥さんは大変だ」

夫のセリフに青木先生が笑いながら答える


手術、か。

先生の言葉に反射的に嫌だと言ってしまったがどうなのだろう。

40年以上前に倒れて手術した夫の頭には、動脈瘤をとめたクリップが埋まっている。それは、金属製で、夫はMRIが取れない。だから、術後の夫の脳がどういう状態なのか詳細にはわからない。せいぜいレントゲンとCTでぼんやりと映るものをなんとなく判断するしかない。

どうなっているのか、医学的な意味で興味があるから見てはみたい。けれど、そのためにはまた頭をカパッと開ける必要がある。頭を開けてみたら想定外のことが判明して、閉じるだけになるかもしれない。だから、このままでいきましょう。手術は、血管が切れてしまったとか、もうどうしようもなくなった時、意識不明になった時しましょう?

青木先生はずっとそう言ってくれてた。


逆に娘は、何年も前から、大学病院とかに行けば、なんとかしてくれるんじゃないの。詰まっている個所、なんとか発見してくれくれんじゃないの?と言ってくる。

夫は珍しい症例(あれだけ酷い状態で運ばれて、未だに健全?で生き残ってる)だから大学病院などに行ったりしたらモルモットにされてしまうだろう。青木先生ですら、若いころは夫の脳の状態に興味津々だったのだから。


違う病院だが、私の肝臓にある大量のポリープ、これも珍しかったみたいでかなり通院させられた。検査検査検査で治療はなく、挙句の果てに、「興味深いから切ってみたいけど、この大きさだから出血のショックが大きすぎて手術はできないなぁ」と言われた。大学病院なんて二度と行きたくない、夫をモルモットになんてさせない。


「失禁は?」

「う~ん、ときどき?今日もしちゃったから女房が機嫌が悪くてまいります。もう過ぎたことをいっても始まんないんだから前を向かないと」

「………だって毎日毎日じゃないの。特に今日は雨で洗濯物も乾かないのっ」

「そんなこと俺に言われても。おれ、天気なんて知らないし」

「う~ん、奥さんは大変だ。どうしましょう?水頭症っていう頭に水がたまる病気があって、失禁や転倒といった症状があるんだけど、水を抜く手術をすればそれらは軽減はする場合があるんだよ。フミさんの場合、40年前に頭に埋めたこのポンプが劣化して水が溜まっているのかも。試しにポンプを押して流してみようか」


青木先生が、夫の頭をマッサージしてくれた。そして歩いてみると、今までヨチヨチ歩きだった夫が、スタスタスタっと見たこともない速さで夫が歩いた。

「う~ん効果ありそうですね。 次の診察まで家でやってみて、歩き方以外も効果あったら、手術をかんがえてもいいかも。奥さんも介護、限界でしょ。口ばっかりこんなに回るんじゃぁ…」


先生にいわれたように頭をマッサージしてみた。

やった日は、歩きも方も、目力も違った。この状態をキープできれば……そういうと、青木先生に言うと、テスト的にやるのはいいが、それ以上をやるといろいろな問題が起きるからこれ以上は禁止、と。


夫は昔、頭の緊急手術をし、私たち家族を忘れた。手術後に一番初めに言ったのは「空襲が。かぁちゃん(義母)怖い、どこ?」だった。夫は、3歳児に戻ったのだ。手術医は「これだから、脳なんてものはいじるもんじゃないんだよ」と言い捨てた。この言葉はいつまでも私の心に突き刺さっている。

夫も、また、家族を忘れてしまうことを怖がっている。だから、手術なんて受けたくないと。


でも、夫は日に日に悪化していく。

歩行速度は遅くなり、信号が青になった直後に横断開始しても、渡りきる前に赤になる。

突然の酷いめまいで倒れる。

話しかけても反応を返さない時が増え、感情が消えている。

歩行していると、自分の意志で足を止めることができないことが増え、何かにぶつかってやっと止まる。

尿失禁の量が増え、布団が大変なことになる。


このままでは、ヘルメットをしていても、いつか転んで寝たきりだろう。

そう思っていた矢先、ご近所の井上さんが、寝たきりになった。水頭症の手術が2か月後に控えていたらしいが、その前に転倒して動けなくなってしまったのだ。

寝たきりになれば、楽しみにしている週2回のデイサービスにも通えなくなる。ただ、ぼんやりとテレビを見ているだけになる。


手術は嫌だが、このままでは、近い将来、夫は寝たきりになる。

青木先生がマッサージをしてくれた直後の夫のスタスタ歩いているあの光景がよみがえる。

だけど、、、、

#「脳なんてものはいじるもんじゃないんだよ」__・__#


「お父さん、脳に水が溜まっているらしくって。。。それを抜く手術があるらしいんだけど…」

娘にそういうと、病院の付き添いの付き添いをすると言い出した。


娘が、スマホの水頭症のページをみせてくれた。水が溜まるとしか伝えてないのに、良く調べられたな。やはり、私もそろそろスマホにしたほうが良いのだろうか。娘が見せてくれページには、症状や手術後の症状、手術方法が書かれていた。

手術はお腹に管を通すというものだった。娘の勢いに押されながらも、私も手術する方向に動いた


青木先生につたえると、自分はもう手術は出来ないからと、同僚の雪井医師を紹介してくれた。


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