第7話 廸の相談

前回は遠出したので、今回は近場ということで、明治神宮周辺を散策することになっていた。表参道駅で待ち合わせをした。僕は山口君のことが気になっていたので、いつもより早く待ち合わせ場所に到着した。すぐに廸が現れた。表情が硬いのがすぐに分かった。


「お待たせしました」


「いや、今着いたばかりだから少しも待っていない」


僕たちはいつものように手をつないで歩きだした。


「ご相談したいことがあります」


「察しがついている。プロジェクト会議の終了後に山口君から交際の申し込みをされた。そのことだろう」


「そうです。山口さんは吉田さんに相談したのですね」


「ああ、帰り道で彼は若狭さんにプライベートに二人で会ってほしいとお願いしたと言っていた。仕事には影響しないと思うけど僕に話しておくと言ってね。どういう話だったか具体的に聞かせてもらっていいかな」


「仕事には影響させないから、二人で会って下さいと言われました。返事は後日で構わないとも言われました。まだ、お答えはしていません。それでどうしたらよいかと思って」


「若狭さんの気持ちはどうなの? お付き合いをしたいと思っているのかな。彼は超有名国立大学を出ているし、頭脳も明晰だ。悪い相手ではない」


「私には向かないと思います。性格が合いません。それに仕事にも影響しかねないからお付き合いするのは良くないと思っています」


「仕事への影響については僕も考えていたのだけど、僕と若狭さんは『恋愛ごっこ』だとしても、プライベートに付き合っている振りをしている。その違いはあるにしても仕事に影響していないか心配になっている」


「私たちの『ごっこ』は仕事に影響していません。私はそう確信しています。むしろ好影響だと思っています」


「それはどういう意味?」


「お互いにより性格というか考え方が分かってきていますから」


「それなら返事はどうするつもりなの?」


「もちろん、お断りするつもりですが、相談というのは彼に悪い印象を与えないために、プロジェクトに影響させないためにはどうお断りすればよいかということについてです」


「断り方か? 好きで付き合っている人がいると言えばいいじゃないか?」


「覚えていますか? 最初に4人で懇親会をしたときのことを」


「どんなこと?」


「あの時、山口さんが私に彼氏いるんですかと聞いていました。私は特にいないと答えました。本当にいなかったものですから」


「僕は覚えていないけど、彼は今回のことを想定して聞いていたのかもしれないな」


「だからそういう答えは適当じゃないと思います」


「確かにそうだね。彼は交際を受け入れてもらえると自信を持っているみたいだったから」


「それなら、なおさらのこと断り方が難しいです」


「僕に若狭さんが『恋愛ごっこ』をしませんかと誘ってくれた時は、僕が断るとは思っていなかったのですか?」


「もちろん断られる確率が高いと思っていました。断られても『ごっこ』が断られたわけですから、仕事に影響があるとは思いませんでした。でも山口さんは違います。本気ですから」


「確かに後を引かないように断るのは難しいね。僕の感じだけど山口君は自信家でプライドが高いような気がする。断り方でこじれる可能性は高いかもしれないな」


「吉田さんから彼に私と付き合っているからと言っていただく方法はどうですか?」


「彼からこの話を聞いた時にそれを言ってしまおうとも思ったんだけど、彼に言おうとしたことと矛盾することに気が付いた。でもそういってしまったなら若狭さんがこんなに悩むこともなかったかもしれない。すぐにそういうべきだったかもしれない。申し訳ない」


「でも『恋愛ごっこ』をしている訳ですから、本当にお付き合いしているわけではないことからもそう言い方はできなかったでしょう」


「でもとっさに彼にはプライベートといっても仕事がらみだから、もし交際を断られたら気まずくならないか? 仕事にも影響する可能性があるから、できることなら交際の申し込みはこのプロジェクト終了後にしてほしかった、それならば何の問題もないからとは言ったんだ」


「その考え方はよいかもしれません。お答えはプロジェクト終了後まで待ってほしいと答えるのはありではないでしょうか?」


「やはりそれしか無難な方法はないようだ。時間を稼ぐというのはありかもしれない」


いつもは『恋愛ごっこ』を楽しんで浮き浮きした気分で散策したところだけど、二人とも口数も少なく気もそぞろだったように思う。


夕食は彼女が行ってみたいといったオムレツ屋さんへ入った。二人はそれぞれ気に入ったオムレツを注文した。

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