デビューの準備

「私、Vtuberとしてデビューする」


凛音の一言で全員の意志が固まった。


足立さんも「配信を行えるよう、正式なホームページの準備などを始めるよ」と前向きに取り組んでくれるらしい。


咲希も「配信で困ったことがあったらいつでも相談してね!」と言い、私をいつでも頼ってと願い出た。


凛音は「私が記憶を失う前はこんなにも愛されていたのね」と嘆くと同時に


「記憶が戻ったらこの楽しい記憶もなくなるのか」

という不安も口にした。


でも凛音は記憶が戻るまでの間、自分の精一杯のことを頑張ろうと決意したらしく、それからは色々な準備を始めた。



この話をした翌日から、配信を行うために色々な機材を買い揃える。

意外とVtuberのデビューにはお金がかかるらしく、パソコンやモニターなどを購入したり、マイクやイヤホンなどのデスク周りも重要らしい。


これだけで数十万するらしく個人Vtuberはここで妥協か、デビューを断念する人が多いらしい。

だが、大手Vtuber事務所「ゔいのじ」所属であるため、機材を無償で提供してもらったり、オススメの商品を紹介してもらうなどの待遇で、順調にデビューの準備が整っていた。



俺と凛音、そして足立さんの3者で会議をする日があったのだが、そこで足立さんは不安を口にした。

「記憶を失ったということを売りにすることは問題ないが、そういう設定だと勘違いされる可能性もある。だからそのことを理解してもらう為にも、第三者からの説明が必要なんだ。勿論、公式のホームページにも載せるが、最初から1人の配信は小瀬川 凛音さんのハードルが高すぎる」


すると凛音は

「確かにそうですね...。足立さんが出ても良いと思いますが、Vtuberの世界観を壊しかねませんし、どうにかいいアイデアはないものでしょうかね」

と2人とも頭を抱えて悩んでいた。



確かに悪魔やメイドさんなどの設定でVtuberを行っている人も多く、その中で記憶を失ったという設定が既存であってもおかしくはない。

だが、それが本当だということ、そしてそこに関して誹謗中傷してほしくないことを伝える人が必要だ。


俺たちは咲希にその話をしてもらおうかと思ったが、咲希は絵師として活動しているため、表舞台に姿を表しておらず、声すら公開していない。だから無理して咲希にお願いするより、他の誰かに頼むべきだと考えている。



しばらく3人で考えていると、「「あっ!」」と咲希と足立さんが同時に指を差す。

その方向は、



俺だった。


「え、俺がどうしたんですか?」

「そうだ、涼くん。君に小瀬川 凛音さんの配信に出てもらえないか?」

と提案してきたのだ。


すると横にいた凛音も大きく頷き

「元々歌ってみたを投稿してめっちゃバズるくらい良い声なんだから問題ないよ!」

と後押しされた。


俺的には歌ってみたの話は黒歴史なので出してほしくないが、声が面白くてネタになるのなら凛音との関係を下手に誤解されないだろう。


最近は、Vtuberが歌い手と呼ばれる人と裏で問題を起こしていたことが話題に挙がるほど、今のVtuber界隈は誠実性が求められる。


「わかりました。俺が一応凛音についてある程度理解はしているので、正確に話させていただきます」


と誓った。


「よし、小瀬川 凛音のVtuber計画はそろそろ大詰めだな。ホームページも完成しているし、ビジュアルも名前も素晴らしい物が揃っている。そろそろ初配信の日にちを決めても良いんじゃないか?」


「2週間後の金曜日の夜9時とかはどうですかね?」

俺が足立さんに提言すると


「それは名案だと思うよ、涼くん。金曜日は仕事帰りで夜遅くまで配信を見る人が多いんだ。デビューには完璧のタイミングだろう」

と太鼓判をいただいた。



こうして凛音のVtuberデビューは刻一刻と近づいてきた。

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