余命三日の君が幸せな理由
とろり。
第1話 余命宣告
「余命は残りわずかです。数日で息を引き取るでしょう」
医者の言葉に綾は俯き、そしてついに泣き出してしまった。両親はそんなひとり娘をただ抱きしめてやるしかなかった。
綾はこんなに元気なのにどうしてと悔しさや怒りの感情が心の底からわいてくる。
見た目は元気そうに見えるが、よくみると体重の減少による痩せや皮膚炎などところどころに異変が見受けられる。綾はそれらに気づいていたが大変な病気とは思わなかった。事の重大さに気がついたのは、めまいによって倒れ、病院で検査をしてから。
「私、この数日を一生懸命に生きる」
綾は両親にそう言うと、この数日を大切に過ごそうと心に誓った。
◇
1日目。
写真を撮ることにした。珍しいものがあるとカメラにおさめる癖のある綾は、昨日積もった雪を写真に撮った。関東地方の一部では雪は珍しい。
どこまでも白く続く世界はまるで天国のよう。それを口にした綾は母に注意された。ちょっとムカッとしたので母の写真を撮る。
「ちょっと、止めなさい」
「いいじゃん、別に」
化粧をしてない母はカメラを嫌がった。すっぴんの母。意外とレアかも知れないと綾は思った。
そして雪だるまを作った。顔はイマイチだけどなかなか風情のある雪だるまになった。作る時に雪が冷たくて手がかじかむ。母は綾の手を取りあまり無理しないでねとささやいた。
綾はその雪だるまを写真におさめた。
「旅行、また行きたいね」
「ん?」
「家族みんなで、さ」
もう旅行に行くことはできなかった。いくら願ってもその願いは叶わない。
「旅行の写真、見る?」
「え? 十年も前の話だよ。あるの?」
「もちろん。思い出がたくさんつまったアルバムがあるの」
綾は家に入り、まずは冷えた体を温めるためにお風呂に入った。そこで鏡を見て「やっぱり痩せてる。皮膚炎もできてる」と異常を再確認した。少し悲観しながらも明日のエネルギー補給として湯船にしばらく浸かった。
お風呂から出るとアルバムを眺めた。
「懐かしいなあ」
「綾、まだ小さいわね」
「お母さん、若いよ! 綺麗!」
もう一度北の国への旅行は出来ないけれど、思い出の中で綾は満足していた。
二人は笑顔絶やさずにアルバムをめくった。
「あ、これ、お母さんの成人式の時?」
「そうよ。あ、そうだ!」
すると母は「明日は綾の誕生日ね。明日で20歳。これお母さんのお下がりだけど着てみる?」と言って着物を綾に見せた。
綾は率直に着てみたいと思い「明日着てみる。我が家の成人式として」と言った。
夜になり父が帰って来ると、綾は今日の出来事を楽しそうに話した。
そして、今日という日が一つ終わった。
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