3:ランダム憑依転生

「!」

『私』は目覚めた。

この身体の持ち主は随分と手傷を負い、消耗しているがそれは二の次。

まずは呼吸を整え、自分自身が誰か思い返す。

そうしなければ、自分を保っておかなければ、私はヤツラの狂気に引きずり込まれてしまうから。

「……あの人が守ってくれているとはいえ、きついね」

だけど十分だ。

自分がやり残したことの後片付け。その延長戦ができるのだから。

…私を喰らおうとする者たちの名は呼ばない。不必要に自覚をさせてはならない。

憑依しておいて申し訳ないが、私がヤツラに吞まれたならば、この身体の持ち主も道連れになってしまう。


「--私の名はシルヴィア。シルヴィア・ハンク」

今から10数年前に死んだ反逆の騎士。災厄の魔女を封じた英雄騎士の末裔。

死の安寧を拒絶し、生と死の世界を旅するもの。



「現状の把握が必要だね」

この子がいるのは、霧の立ち込めた町。僅かに潮の匂いがするが、町のあちこちの建物は破壊され人影はない。

……あの子供たちの、どの生活圏内でもない。

「ふむ……、君はどこの誰だ?」


私が現世に干渉できるのは基本ランダムで、細かい年月は分からない。

分かっているのは、ヤツラが、因果の呪いがハンク家の生き残りに干渉しようとする時に、私が現世に出てくるのだということ。

特に、生き残りの子供たちを器として乗っ取ろうとする時だ。


私は、新たな災厄の魔女の狂気と、ヤツラの呪いから、ハンク家の生き残りを守らなくてはいけない。

そのためなら私は死してなお剣を振るい、盾として戦い続けよう。

「今回は誰かね?」

アルエット、キリウス、サトラ。

血狂いのオリヴィエの粛清で少なくなったハンク家は、継承戦争の勃発でさらに減って、残っている子はこのくらい。

憑依先の子の手をじっと見つめる。

思わず、目の前が歪んで水滴がぽたぽたと落ちる。

「キリウス……」

褐色の肌と傷だらけの手。

この手は、私の息子だ。

「……お母さんに任せな」

この怪異からこの子を守り切る。

アルエットの時のようにはさせられない。

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