転生したら神が宿っていた。俺の宿命は世界を壊すのか?〜汝、魔王に任ず〜

十輪かむ

極星の旗印

エピソード0

「二つを渡る子が生まれる。

 尊大なる神もそれを祝福するだろう。

 しかし、あなたはその者を深く呪わなくてはならない。

 光も闇も壊してしまうから」


 彼は唸るように呟いた。黒雲を走る稲妻の音に掻き消されて、誰の耳にも届かなかっただろうが。


 空色の長い髪が波打つ。美丈夫。彼を言い表すのに、それに幾つ言葉を足されてきただろうか。その手の白く輝く大剣に比して、黒とも濃藍ともとれる甲冑は禍々しい威光を放っている。


「お前は、ルドウィク・ダナ・アーガトラム。胎を狙いやがったね。光を成す者が、アタシ達を殺すか?」


 女がゆらりと立ち上がり、言った。紫色の鎧を纏った女だ。頭に生えた二本角に、雷光の呻きが走る。両手へ握る十文字槍の切先をこちらへ向けた。不意を狙ったが、その槍で防がれたか。


 ルドウィクは微笑した。光を成す者か。それもまた自分に捧げられた二つ名の一つに過ぎない。云く、博愛の士。云く、正義の執行者。云く、統合せし者。云く、勇者の再来。云く、世界最強。他に、もっと仰々しいものもあったはずだ。覚えてはいないが。


「よせ。こいつと戦うな。逃げろ、ライカ」


 もう一人立ち上がる者があった。線が細い男だ。金色の髪に碧い瞳。意志の強い眼だ。女を、その胎の子を、二人を何としても守る。そんな決意が伝わって来る。


 男が杖を大地へ突き立てる。彼の身長を超える長い木杖だ。目立った装飾はないが、それに走る木の脈一つ一つから強い魔力を感じる。世界樹は小枝であっても千年樹の如き魔力を持つらしい。きっとそれかもしれない。


 ルドウィクは男女まとめて斬るつもりで大剣を振ったが、双方の持つ業物と反射速度はやはり素晴らしい。完全に防いだか。


「ミハイル・フォン・ヴェルデ。若くして賢者の称号を持つ天才、だったか。一騎討ちと願いたいところだが、そうもいかん。ライカ・カザク。私の狙いはお前だ」


 ルドウィクは大剣で女を指す。が、その前にミハイルが割り入る。魔力の揺めきで分かった。来る。既に魔法の発動体勢に入っている。しかも、強大。


「吹き荒れろ! 千刃突風サウザンドウィンド!」


 風が、ルドウィクを締め上げるかのように蟠を巻いた。空気がぶつかり合い、幾千と薄く研がれた刃と化して行く。美しい。風の叫び。大地の鳴動。重なり合うそれは、正に万象を奏でる幾万の和音。この魔法を放った彼を讃える為に、ほんの瞬き程度なら、この無数の刃を身に浴びても良い。だが、これは個人的な強さ比べの決闘ではない。啓示だ。人類の為に、この女の胎の中へ大いなる呪詛の光を与えなければならない。


 ルドウィクは白の大剣に魔力を込めて振り上げた。その瞬間、千刃の風は大きく光り輝いたかと思うと、すぐさま崩壊した。空へ溶けて行く強大魔法の名残りの向こう側で、ミハイルは驚嘆の顔をしていた。彼ほどの者でも、この光景は信じられないか。


「知ってたさ!」


 既に雷光を纏った槍の切先が、ルドウィクの胸元にあった。咄嗟に大剣でそれを受け止めた。が、押される。凄まじい怪力に加え、この電撃。女の刺突を止め切れない。


「光よ」


 ルドウィクの呼びかけに大剣が輝く。ライカはそれを見てか、後ろへ飛び退いた。


「魔剣クレイヴ・ソリッシュ。光を成し、全てを闇へと葬る大剣。噂通りだね」


 女がニヤリと笑う。虚勢を含んでいる。この剣の力を知っているなら、当然か。ただピカピカと光輝くだけの剣ではないのだから。


「何故だい? 何故アタシを? この子を?」


 ライカが槍を構えつつ、胎に手をやる。途端に表情が怒りへ変わる。


「さあ」


「さあ、だと!」


 ルドウィクの返答に、女の怒りが激昂へ昇華する。


「私は、大いなるものの手に動かされているに過ぎない。矮小なるこの私がその御心を窺い知ることなど、出来るわけなかろう。それに、もう、終わりだ」


 ライカとミハイル、共に空を見上げた。ようやく気付いたか。呼びかけた時、それを既に始めておいたのだ。


 天を埋め尽くす大いなる光がそこにあった。その前では、黒雲を走る稲妻など儚き火の粉。


光あれイェヒ・オル


 大地を穿ち、黒雲を貫く巨大な光柱がそこにあった。高名な冒険者夫妻を呑み込み、墓標とするに相応しい。この光に抱かれた者は痛みもなく、大いなるものの懐へ還る。しかし、


「やはりか」


 天へ還る魂の輝きを一つしか感じない。賢者であれば、咄嗟に女一人を空間転移させることも出来るのだろう。


「私の役目はまだ続く。二人には、いずれまた会うだろう」


 光柱が消え、黒雲の只中にポッカリと空いた巨大な穴。そこからルドウィクの髪色と同じ天が覗いていた。


「大いなるものよ」


 彼は跪き、天のその先にいるであろう絶対的存在へ祈るのだった。

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