【完結】異世界で突然国王さまの伴侶に選ばれて溺愛されています

波木真帆

第1話 リスティア王国の大事なしきたり

<sideルーファス>


「いいか、ルーファス。我が王家には守らなければいけないいくつかのしきたりがあるが、その中でお前が必ず守らなければいけないことは生涯の伴侶を探すことだ」


成人を迎えた今日、父上の私室に呼ばれ、そろそろ婚約者でも決められるのかと覚悟を決めていた私に父上は驚きのしきたりを告げた。


「生涯の伴侶、ですか?」


「そうだ。この世にお前の伴侶となるべき相手はただ一人。その一人を必ず見つけ出すのだぞ」


いつもの気難しい国王の顔ではなく、優しい父親の顔で私の頭を優しく撫でた。

父上に頭を撫でられるなどいつ以来だろう。


「ふふっ。エルヴィスさま。ルーファスもようやくこのお話ができる年になったのですね」


「ああ、そうだな。クレア。ルーファスも私が生涯の伴侶であるクレアと出会えた時のような感動を味わうことができるのだ」


父上が母上を愛おしそうに見つめる姿は、私から見ても本当に幸せそうだ。


「ですが、父上……生涯の伴侶かどうかはどのようにしてわかるのですか?」


「それはこれだ」


そう言って父上が鍵のついたケースから恭しく取り出し私に見せたのは、この世のものとは思えない色鮮やかな宝石を乗せた指輪だった。

光の加減で赤にも青にも、そして白にも見えるその神秘的な光を発するその宝石はおおよそこの星にあるものとは思えないほど美しい代物だった。

目の前で幾重にも光を放ちながら輝き続ける宝石に目を奪われながら、震える声で父上に尋ねた。


「素晴らしい……こんなに美しい宝石がこの世にあるのですね……」


「ふふっ。綺麗だろう? この宝石はこの世に二つとない代物だからな」


「えっ?」


「お前がその指輪を手に握り締めて生まれてきたのだよ。だからこの世に二つとない」


「手に? まさかっ! ご冗談を」


「いや、冗談ではない。我が王家では次期王となるものは必ず美しい指輪を持って誕生する。現に私もこの指輪を持って生まれた。だから次男であったが私が王となったのだ。そしてお前も指輪を持って生まれた。私の後継となりこの国を守るのはルーファス、お前の役目だ」


父上は隣にいる母上の手を取り、キラキラと輝く雫のようなダイヤの指輪を私に見せた。

母上が肌身離さずつけている指輪だ。


「これを、父上が?」


「ああ、そうだ。今までにも歴代の王となったものたちは皆、サファイヤ、ルビー、パール、エメラルド……など数え上げたらキリがないほど多くの宝石を持ち生まれてきたのだ。だが、お前のように色鮮やかで豪華な宝石を持って生まれたのは聞いたことがない。まぁ私とクレアの子なのだから当然といえば当然だろうがな」


父上は母上に微笑みかける。

結婚して20年近く経つというのにこんなにも仲睦まじく過ごせるのは、やはり生涯の伴侶に出会ったからなのだろうか。


「この指輪がぴったり嵌まる者こそ、お前の生涯の伴侶だ。その者を探すのだ。生涯の伴侶以外の者との婚姻はこの国にとって災いをもたらすこととなる。お前がどんなに文句を言おうともこの指輪が嵌まる者以外との結婚は認めぬからな。それだけは肝に銘じておくように」


「ですが、どうやって探すのです? 出会う者皆にこの指輪を嵌めさせるのですか?」


「ははっ。それは心配ない。指輪が教えてくれるからな」


「教えてくれるとはどういう意味ですか?」


「まぁ、ルーファスもその時になればわかるだろう」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべる父上はそれ以上のことを教えてはくれなかった。

指輪が教えてくれると言っていたが……一体どのように教えてくれるのだろう?


まるでこの世の全ての輝きを閉じ込めたような美しい指輪。

私はこの指輪がぴったり嵌まる者と本当に出会うことができるのだろうか……。



  *   *   *



「ルーファスさま。週末のパーティーの確認でございますが……」


「またか。もういい加減そっちで勝手にやってくれ。いちいち私の確認などいらないから好きにしてくれたらいい」


「ですがルーファスさま! ルーファスさまのご伴侶さまを探すためのパーティーなのですよ。私が勝手にするわけには参りません」


「私が良いと言っているのだからいいんだ。クリフ、お前の好きにしてくれて構わない」


「ですが……」


「どうせ今回も見つからないんだ。だからどうでもいい。私はそんなことより仕事に時間をかけたいのだ。クリフ、わかってくれ」


そういうとクリフは渋々ながら部屋を出て行った。



成人を迎えてから、王宮で頻繁にパーティーが行われるようになった。

その目的はもちろん全て私の伴侶を探すためのものだ。

最初は国内の貴族の女性たちが大広間に集められた。

煌びやかな衣装に身を包み、我こそが生涯の伴侶とでもいうように自信に満ち溢れた女性たちと、一人一人と挨拶を交わしたが、手のひらの指輪には何の変化もなく、そして私の心にもなんの変化もなかった。

生涯の伴侶には身分の制約がないとわかり、その後国内外の妙齢の女性を順番に王宮に招待したが誰一人指輪に変化を与えるようなものはいなかった。


生涯の伴侶は女性と決まったわけではないが、私の持つ指輪のサイズを見る限りおおよそ男には入らないサイズの指輪なのだそうだ。

確かに私の指に嵌めようとしても指の半分も入らない。

これほどまでに指の小さな男性など存在しないだろう。

しかし、クリフがもしかしたらと考え、国内外の男性も順次王宮に集めたものの、指輪も、そして私の心も女性の時と同様に変化が訪れることはなかった。



それから15年。

私は30歳になっていた。


この間にあれほど仲睦まじかった両親は事故で亡くなった。

この国に深い悲しみが訪れたが生涯の伴侶と死ぬときも一緒だったということは、ある意味幸せだったのかもしれない。


私は父上の亡き後、指輪のしきたりに従い、このリスティア王国の国王となった。

それでも未だ生涯の伴侶には巡り会えておらず、王妃の席は不在のままだ。

私はいつか出会える伴侶を思い、肌身離さず指輪を持ち歩いているが30になり、もはや諦めている。


この15年の間、どれほどの女性、そして男性と顔を合わせただろう。

それでも誰一人指輪にも、そして私にも変化がなかったのだからもうどうしようもない。


執事のクリフだけは私の伴侶を見つけようと躍起になって、成人を迎えた者たちを対象に毎年大掛かりなパーティーを計画してくれているがもうどうでもいい。


この色鮮やかな指輪を嵌めてくれる人はきっとこの世のどこにもいないのだ。

色鮮やかで美しすぎるこの指輪は生まれた時からこの人生はひとりで過ごせという神の進言だったのかもしれない。

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