第2話(改訂版)

 でも、小説を書くだなんて……、今の私たちと同じだけど。そっちのほうがあえて面白いんだろうか。あー、もうわかんなくなってきたー!もう授業の時間だから、あさひには聞けないし……。よし、ここはまじめに授業を受けよう!

――七分後。

 いや、数学だもん。国語だったらギリッギリのギリ乗り越えられたかもしれないけど、数学は無理だもん。よし、潔く諦めよう!……とは言ったものの、何もすることがない。さっき考えたことをもう一回考えてみるか。

で、さっき考えたゲーム作りって、私詳しくないしな。他に何か……。勉強とか、運動……それは、無理。勉強には詳しくない!体力は……えーと、置いといて……。だらだらと友情について書くとか。うーん、それはない。それでページが埋まるかどうかを考えると、普通に無理。じゃあ、どうするか……。そうだ、何か事件を起こらせる!それは……友達が転校する……じゃなくて、もっとびっくりするような……。友達が、罪を犯す!その罪とは、万引き!主人公がそれを必死に否定するが、それは無駄で、盗んだのは事実。少年院に入る友達。離れることでさらに友情が深まる!みたいなのはどうだ!?「あさひをモデルにした」なんて言ったら怒られそうだけど……。あ、じゃあ盗んだのにはわけがあるっていうことにしよう。

そのわけとは、友達の家はものすごく貧しくて、物が足りなかった。親に犯罪をさせるのはいやだから、自分が代わりにやった。そういうのはどうだ?心優しい友達……そうしたら、読者をひきつけることができるではないか!!

「伊藤!ニヤニヤするな!授業を聞いているのか!」

やべ、数学の先生に見つかった!

「すみません、先生。将来について考え事をしていて……」

私は、将来に悩むとても普通な生徒を演じた。うん、我ながら素晴らしい演技だ。

「理由はどうでもいいんだ!……ちゃんと聞くんだぞ」

ひええ、結局怒られた。まあ、小説のアイデアを練っていたなんて正直に答えたら、もっと怒られただろう……って、理由どうでもよくないじゃん!なんだよそれ!理不尽!おっと、こうしていたらまた怒られる。危ないところだったぜ……。

 よし、今までの状況を整理しよう。まず、ジャンルは日常系の中の友達について。友達が、万引きをして少年院に入れられる。それを止めようとするが、万引きをしたのは事実だった。でも、その友達の家は貧乏で親の代わりにやったという背景が……。うん、いいと思う。じゃあ、これでいっちゃおう!ふぅー、すっきりしたぁ。あ、意識が……遠のいて……。

「おーい、鈴香!小説書くんじゃなかったのー?」

「あ、あさひぃ、大丈夫。小説は、もう、終わったんだよぉ」

「何寝ぼけてんの?じゃあ、原稿は?ないでしょ?どうせ鈴香のことだから大体のストーリー考えて満足しちゃってんでしょ」

……大体の、ストーリー、考えて、満足……。

「……はっ!!」

「……やっぱりね」

まだ原稿書いてなかった……。安心するのはまだまだ先だね、うん。

「ああ、それでどんなストーリーなの?」

「えっとね、友達が万引きをして、主人公は絶対違うって思うんだけど本当なの。でも、友達の家は貧乏で、親の代わりに万引きをした。友達は少年院に入るんだけど、それで友情が深まる……みたいな」

「友達、万引き、貧乏……まあ、いいんじゃないの?あとは鈴香の文章力次第だけど」

「ええー?無理。あさひが書いて」

「自分が書きたいって言ったのに……。じゃあ、いいの?優秀賞の『丸本デパート商品券一万円分』をもらっても、本当にいいの?」

私は一瞬で頭をフル回転させる。もし、一万円あれば……あそこのステーキハウスでやみつきハンバーグセットを頼んで、あそこのアイスクリーム屋さんでトリプルのアイスを頼んで、そしてあそこのケーキ屋さんでマカロン十二個セットを買ってもまだまだ足りる…ということは、必要!

「駄目、それは許さない」

できるだけ低くて怖い声で言う。

「まあ、言うと思ったよ。じゃ、頑張ってー」

……ふう、仕方ない。そこまでやれっていうならやってあげるよ。

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