【BL】魔王と精霊の子 〜素直になれないぼくを嫌わないで〜【BL】
冬木 碧透(@少し復活中)
船旅
プロローグのつもりが長くなってしまった。
船が上陸すると、女装の準備が整ったぼくは、おしゃれ担当のメイに村娘風の化粧までしてもらって、気合を入れる。
首元にはあたたかいけれど、少しくすぐったいコビトリスのコビーが綺麗に結い上げてくれた長い金糸のような髪にじゃれついてくる。
「んふ。今日も完璧な仕上がり。リュオンさぁ、一層のことこっちになっちゃえばいいのに」
バチンとウィンクするメイに、ウィンクで返す。
「嫌なことを言わないでよ。お土産ならたくさん買い込んでくるから、船は頼むね」
船を降りようと身を乗り出せば、つい最近恋人になったばかりのレイが男らしく骨ばった腕を伸ばしてくる。ちっ。こいつもうすでに用心棒キャラが出来上がってるよ。
女装して下船するということは、船を降りる前から女でいなくてはならないわけで。自然と捕まり慣れたレイへと、腕を伸ばす。
まるでそこに収まるように体が出来てるみたいに、ストンとレイの胸に飛び込んだ。
「とんだじゃじゃ馬娘の出来上がりだな」
「うるさいなぁ。用心棒といえども、おかしなマネをしたらコビーが噛みつくよ?」
「わかったよ、お嬢様。今日もべっぴんだな」
そしてナチュラルにぼくの頬を優しくつかんでチュッと軽く音を立てて口づけた。
「またそういうことをするっ!!」
ぼくが怒れば怒るほど、レイは喜ぶ。おのれ、変態野郎めっ。
「いいじゃん? 形式上ではおれの女なんだからさ」
ふん、と鼻を鳴らすと、海の上とはまた違う、潮の匂いと、カモメという名のギャングを追い払う。
こいつら、人を見ると食い物をくれると思ってるんだ。最初は珍しかったんだけど、今はオトシモノをする厄介な存在だ。
そのうちに、いくつもの出店が賑やかにふるってるのに気づいた。
「綺麗なお嬢ちゃん、この地域限定の果物はどうだい?」
果物か。メイが好きそうだな。
「一つでいくら?」
「おーや。せっかくの果物をたった一つしか買わないつもりかい? あんた、下船した娘でしょう? 新鮮なフルーツなんて、ここでしか味わえないよ」
果物屋の女将さんは、どんと構えた腹で豪快に笑う。つられて笑いそうになるけど、大事なことを思い出した。
「ねぇ、レイ? 船ではナマモノ禁止だったよね?」
すでに用心棒として側にいてくれるレイになにげに話しかけた。
「ん? 船上で腹があたったらいけないからな。でも、一個ぐらいならいいんじゃないの? 女将さん、この果物の味見させてもらえる? あとは、ドライフルーツがあったらたくさん買うけど」
おやおや、買い物上手の恋人だね。いいやね、若い人は。なんてまた女将さんがからからと笑う。
女将さんは手際よく、ぼくが見たことのないフルーツを器用に剥くと、ぼくとレイに半分ずつ分け与えてくれた。ずいぶんと気前がいいな?
「酸っぱ。でもうまい!! 甘みがあとからついてくる感じ。これ、カクテルとあわせたら美味しいだろうなぁ」
「あらあら? そんなナリしてカクテルなんか飲むのかい? ちゃんと成人しているんだろうね?」
「もちろんさ。ぼくがシェイカーを振るんだよ」
生きるための知識はどこにでも転がっている。レイは甘いのは苦手だから、微妙な顔をする。後で辛めのカクテルを作ってあげよう。
「女将さん、これ五つ頂戴」
「はいはい。じゃあこれで、と」
お金はレイが払う。ぼくに持たせているとすぐになくなってしまうからだ。
「はい、お釣り。悪いけど、うちはドライフルーツはやってないんだ。あそこの隅の干物屋だったら、あらゆる干物を売ってるからオススメだよ」
「ありがとう、女将さん。元気で」
「ありがとうよ。あんたらも元気でね」
下船してすぐに気づいたけど、なんだかずいぶんと人が多い。まるでお祭りみたいににぎやかだ。
さきほどの果物屋からだいぶ離れたところで、レイがポケットからあの果物を三つ取り出した。
うん? と思い、紙袋を覗いたけれど、五つしかない。
うん?
「レイ、まさかまた?」
へへっと、彼が得意そうな顔で笑う。
「リファ、お前なぁ。あの女将はおれたちが船から降りてきたもんだから、ずいぶんとぼったくったんだぞ? これくらいじゃ足りないくらいにな」
「ふぅ〜ん? それならそれで、さっさと袋に入れていいよ」
ぼくは懐から大きめのエコバッグを取り出して名前のわからなかったさっきの果物を押し入れた。
悪いね、女将さん。ぼくたち、ほんのすこ〜しばかり貧困なものでねぇ。
ちなみに女装中の名前はリファ。メイがつけてくれたんだ。可愛くてお気に入り。
さて、今回はどんな旅になるのかなぁ? わくわくした気持ちが止まらなくて、思わずかけ足になる。
できればおいしいものをいっぱいたべるんだ。
つづく
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