第17話 指導者からの目線【2】(二人の家来の実力)

力士の槍さばきは、彼の性格を象徴するかのように、非常に素直でわかりやすいモノであった。槍の教科書があれば、見本として出てくる様に彼の動きは基本に忠実で、基本動作を地道に繰り返して培ってきたモノだという事が長頼にも伝わってきた。




ただ、基本に忠実過ぎるが為、攻撃の先が読みやすく、長頼としては攻撃をかわし、力士に防御をさせる間を与えず、反撃をする。


修業が始まって、ほぼ一か月は、長頼の反撃に太刀打ちできず、力士は長頼の前に手も足も出なかった。




しかし、一か月過ぎると一つの変化が現れた。力士の攻撃に殺気が宿り始めたのである。何度も、何度も交わされる自分の攻撃に、力士なりに考えた結論が、躱かわされない一撃である。相手の隙が見えると、その隙を見逃さず、捨て身の一撃を打つようになったのである。


捨て身というのは、死ぬ覚悟という意味で、正に全身全霊を込めて打つ一撃である。


長頼も、殺気の無い攻撃であれば容易たやすく躱かわせるのだが、力士の急所を狙った鋭い一撃は、躱すのがやっとで、容易に反撃が出来なくなったのである。




長頼が予想していなかった進歩であった。普通、毎日何度もカウンターの様に反撃されていると、守りに入り、防御の技を覚えようとするが、力士は防御に偏らず、自分の攻めに活路を見出したのである。


槍を交わしながら、未だ未熟ではあるが、才能にも勝る勇敢な気持ちを既に備えている力士の将来を長頼は頼もしく思っていた。




力士と対象的に、久次郎の槍さばきは正に素質の塊であった。久次郎の攻めは正に我流で、予想不能。多くの戦場での経験が無ければ、長頼も躱しきれなかったという様な攻撃をしてくるのである。


基本を無視しているのではなく、基本を知った上で、基本に縛られず、攻撃をしてくる、初陣をしていない若者から、受ける様な攻撃では無かったのである。槍の才能であれば、久次郎が群を抜いていると長頼は判断していた。




しかし溢れ出る様な才能を持った久次郎であるが、大きな弱点があった。体力である。


体力という尺度をみると、虎之助、力士には遠く及ばない。時間が決まっている試合であれば、無双状態でも、時間制限の無い戦場では体力が勝敗を分ける。初陣を経験していない久次郎にとっては酷な話だが、今の久次郎は正に宝の持ち腐れであると長頼は評価していた。




数日前、秀長から自分の体が肥った事を指摘され、シノへご飯の量を相談に行った。


長頼は久次郎の策略によって、ご飯の量が増やされていた事にその時気づいたのである。


(知恵の回る男である、相手を自分と同じ土俵に乗せるべく、ワシを太らせて体力的不利を補おうとは、天晴れな奴)


(ただ惜しいかな、はき違えておる、将来、奴が策士策に溺れるという典型的な男になら無ければ良いが・・・)と思案を巡らしながら、3人の稽古を見ながら、視線の先を、力士に目をやる長頼であった。




そんな時、秀長が二人の男を連れて、神社を訪れたのである。


『長頼殿、要望のあった御仁を連れてきたぞ!!』

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