第75話 おとーさんといっしょ!

 ――翌日のお昼ごはん。


「おとーさん! ずるい!」


 ソフィーはご機嫌斜めである。

 もしゃもしゃとクリームパンを食べているが笑顔はなく、プンプン怒っている。


 あっ……不味いな……。


 俺は隣に座るシスターエレナと目を見合わせる。


 俺たちは、朝からダンジョンで戦闘を行って、十一時になったので一階層に引き上げて来たのだ。

 移動販売車の前で昼食中である。


 俺は唐揚げ弁当。シスターエレナは幕の内弁当。ソフィーは、カツサンドとクリームパンだ。

 魔物と戦闘をしている時から、ご機嫌斜めだな~とは思っていたが、お気に入りのクリームパンを食べても機嫌が直らないとは……。

 お腹が減っていたのが原因じゃないのか?


「ソフィーちゃん。どうしたんですか?」


 シスターエレナがフォークを置いて、優しくソフィーに問いかける。


「あのね。おとーさんがね。ソフィーを置いて行っちゃうの……」


「まあまあ。それは寂しいですね」


 急にションボリとするソフィー。

 シスターエレナが、俺とソフィーを見てクスクスと笑う。


 あー、わかった。

 昨日、おとといの午後だ。

 俺は領主のルーク・コーエン子爵に会い、商業ギルドの新ギルド長タジン氏に会っていた。

 ソフィーは、俺が別行動するのが気に入らないらしい。


 困ったなぁと思って、俺はソフィーをなだめる。


「お父さんは、お仕事なんだよ」


「ソフィーも! いっしょに! おしごとする!」


「いや、難しい話だから……」


「ソフィーもおしごとする!」


 ソフィーは両手を握って上下にドンドンと振る。

 いや、困ったな……。


 クスクス笑っていたシスターエレナが、俺の耳元でそっとささやく。


「リョージさん。ソフィーちゃんは、リョージさんと一緒にいたいんですよ」


「えっ!? あっ……! そうなのか!」


 そういえば、子供の頃、父親や母親が出掛けると言うと一緒に行くとグズったな。

 大した理由はないけれど、自分のそばから親が離れるのが嫌だったのだ。

 あの時の俺と同じか!


 俺は嬉しい気持ちになった。

 娘が俺と離れたくないと言っているのだ。

 ああ、お父さんになって良かったなぁ~と俺はほっこりした気持ちになった。

 ブンブンと腕を振って抗議するソフィーもかわいく見える。


 俺は大げさな芝居をして、額をパチンと右手で叩いた。


「あっー! しまったぁぁぁぁ!」


 ソフィーが、何事かと大きな目で俺を見る。


「おとーさん。どうしたの?」


「いや、今日は冒険者ギルドに行かないといけないんだ。すっかり忘れてた。でも、お父さん一人じゃ心配だなぁ~。誰か一緒に来てくれないかなぁ~」


 隣に座るシスターエレナがクスクス笑いながら、俺の芝居に付き合ってくれる。


「まあ! それは大変ですね!」


「そうなんです。大変なんですよぉ~」


「じゃあ、ソフィーちゃんにお願いしてみては?」


「おお! それは素晴らしい! ソフィーが一緒に来てくれたらお父さん嬉しいなぁ~。ソフィーが一緒に来てくれないかなぁ~」


 ソフィーが俺とシスターエレナをチラチラっと見ている。

 頭をピクッ! ピクッ! と動かして何か考えているようだ。


 俺はソフィーに笑顔でお願いする。


「ソフィー。お父さんと一緒に冒険者ギルドに行ってくれないかなぁ?」


「え~! どうしようかな~!」


「ソフィー! お願い!」


「しょうがないな。いいよ!」


「本当ぉ~! ソフィーありがとう!」


「ふん♪ ふん♪ ふん♪」


 ソフィーのご機嫌はすっかり直った。

 カツサンドの袋を開けてハムハムと食べ、クピクピとオレンジジュースを飲む。


 食べ終わると、ソフィーがウツラウツラしだした。

 電池切れだ。


「さあ、ソフィー。おいで」


 俺はソフィーに近寄り、かがんで大きく手を広げる。

 ソフィーは半分寝ながら俺に抱きつく。


 安心しきったソフィーの寝息を耳元で聞きながら、俺は幸せだなと思った。

 さあ、ソフィー、お昼寝の時間だよ。

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